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虹執事
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ねこ
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ドンッ、と強かに背中を壁に打ち付けた。
「――っ!」
咳き込む。
その拍子に、唾液に混じって赤いものが口から零れた。
(……っち、またかよ)
訓練と称して一方的に続くこの暴力は、もはや日常だった。
訓練と呼ぶにはあまりにも一方的で、意味もない。
技術を教えるわけでもない。
戦い方を身につけさせるわけでもない。
ただ殴る。
ただ蹴る。
ただ痛めつける。
言うなれば、暇つぶしと嫌がらせ。
ぶっちゃけ、ただのクソである。
「おい!」
怒鳴り声が響いた。
「上官直々に指導してやっているんだぞ。……その目は何だ?」
目の前に立つ男が、勢いよく右腕を振り上げる。
反射的に、目を閉じた。
来る。
そう思った。
だが。
(……?)
いつまで経っても、衝撃が来ない。
恐る恐る目を開ける。
そして、息を呑んだ。
目の前にいたはずの上官。
その背後に、何かが立っている。
先ほどまで、何もなかった場所だった。
壁のように大きい。
あまりにも大きく、上官の姿すら隠してしまうほどだった。
それが人間なのだと理解するまでに、ほんの少し時間がかかった。
巨大な何者かが、上官の右腕を片手で掴んでいる。
上官が腕を振りほどこうとする。
「な、何をする!」
だが、動かない。
「貴様、何者だ!」
上官の声が響く。
「ここが軍の施設だと分かっているのか! 離せ!」
それでも、その腕は微動だにしない。
「貴様、名前と所属を言え! ……それから、その布は何だ!」
上官が声を荒らげる。
「顔を見せろ!」
返事はなかった。
ただ、頭からすっぽりと被った布の隙間。
そこから僅かに覗いた唇が、ゆっくりと動いた。
「……みっともないわね」
野太い男性の声。
なのに、その言葉遣いは妙に女らしい。
声には、不思議な艶があった。
その唇が、弧を描く。
次の瞬間。
「うわっ――!」
上官の身体が、宙に浮いた。
一瞬だった。
何が起きたのか理解する暇すらない。
巨体が軽々と持ち上げられ、
そして。
ドォンッ!!
地面へ叩き付けられた。
鈍い音が響く。
ただ一人。
目の前の光景を見つめる者だけが、呆然と立ち尽くしていた。
コメント
1件
第1話、読ませていただきました。 冒頭から地面に叩きつけられる衝撃が伝わってくるようでした。「訓練」と称した一方的な暴力に耐える主人公の姿がとても痛々しくて…そこに突然現れた、頭から布を被った巨大な何者か。あの上官を軽々と持ち上げて叩きつけるシーン、めちゃくちゃカタルシスがありましたね。「…みっともないわね」という野太くも女らしい口調が、なんだか癖になりそうです。 この先、あの巨体の正体と主人公の関係がどうなっていくのか、続きが気になります。更新、ゆっくりでいいので楽しみにしてますね。