『2021年10月1日 at 浦和』
「お待たせー!」
Mは手を振り、ニコニコしながらちょこちょこ走って来た。
「全然!僕も今着いたところだったんで。じゃあ行きましょうか!」
外は少し涼しげで、Mは黒のコートを着ていた。夏に会った時より大人っぽく見えた気がした。
「ここなんですけどね〜入り口どこだ?」
僕が入り口を探している中、Mは
「ここじゃないかな〜」といって見事探し当てた。
エレベーターで3階に上がり、店に入った。
「いらっしゃいませ!」
お店は活気に溢れている。楽しく飲めそうな場所だ。
「19時で予約しておりました、Sというものです。」
店員さんは予約リストを確認し、先まで案内してくれた。僕らが座席につくと、食べ飲み放題のメニューについて簡単な説明をしてくれた。
「ファーストドリンクどうする?」
「ん〜オレンジジュースで!」
まさかのソフトドリンク??であれば飲み放題じゃなくても良かったやんと思った。
「おけ!じゃあオーダーするね」
ピンポーンの合図と共に店員さんの「はーい」と言う声が聞こえた。
「お伺いいたします」
「これとこれと…」適当にフードは頼んでから
「飲み物がオレンジジュースとグレープフルーツサワーをお願いいたします」
「畏まりました。」
店員は確認オーダーを取るとサッとその場から立ち去っていった。
「ごめん、お酒苦手だった?飲み放題じゃない方がよかったね」
「全然大丈夫だよ!ソフトドリンク片っ端から飲む予定だから!」
なんやそれと率直に思った。
「おけ!改めて今日は時間作ってくれてありがとうね」
そう僕が会話を切り出した。
「こちらこそ、お誘いありがとう!飲み食べ放題が久しぶりだ〜全メニュー制覇しよう!」
彼女はいつも通りニコニコしながらそう言う。
俺らはフードファイターかと突っ込みたくなる。
こう言う突拍子のない発言は、Mさんとの会話で度々出てきて、僕個人としては新鮮で面白いな〜と思っている。彼女は多分天然だ。
「Mさんってよく外食するんですか?」
「ん〜たまーにかなー。基本自炊するから家で済ますことが多いよ!」
「そうなんですね、自炊するんだ。なんかあんまりイメージがなかったので笑」
そう言うとMさんはちょっとムッとした顔をした。その顔もまたかわいい。
「それってどうゆうこと〜??大人なので自炊ぐらいします〜」
そんなたわいもない会話も僕は心地よく感じていた。
「ちなみにさ、なんで経営スクールに通ってるの?看護師で経営を学んでいるのって珍しいなと思って」
ずっと気になっていたがなかなか聞けなかった話だ。
「ん〜成り行きかな!人とのご縁で!」
他に理由がありそうではあったけど、あんまり突っ込まない方が良さそうだったため、
「そうなんだ。」
の一言で終わらせた。
「Sさんはどうして経営スクールに?」
「僕は将来、経営者になりたいと思っているからっていう単純な理由だよ。」
「なんで経営者になりたいの?」
不意打ちの深堀質問だった。興味を持ってくれてるのかな。であれば、しっかり目に話したいな、自分をもっと知って欲しいな。
そう思い、順を追って説明を始めた。
「『金持ち父さん貧乏父さん』って言う本知ってる?」
彼女は縦に首を振った。
「大学生の時にその本と出会ったんだけど、それのキャッシュフロー・クワドラントのESBIの考え方から、お金と時間に縛られない生活を実現させたいと思い、Bのビジネスオーナーを目指そうという考え方になって、経営者を目指すようになった感じ。」
「若いのにしっかり考えててすごいね〜」
感心されたのは良いが若さは4つの差ぐらいだからそんな変わらんでしょとツッコミたくなったが口には出さなかった。
話題は恋愛系に移っていった。
「Sさんは、彼女さんいるの?」
「いや、彼女は大学1年で別れてからいないので、2年ぐらい募集中って感じです」
「へぇ〜イケメンだから、彼女さんいると思ってた」
お得意のニコニコ顔で褒めくれる。もしかして脈アリか?そう思ったが次の会話でそれは勘違いでしかなかったことに気付かされた。
「Mさんは?」
「いるよ!付き合いとしてはもう6年ぐらいになるかな〜。今同棲して2年目って感じ!」
その時、自分はどんなリアクションをしたかあまり覚えていない。うまく笑えていただろうか?多分引き攣った顔で苦笑していたのだと思う。
「そうなんですね!結構長い付き合いですね。いいな〜シンプルに羨ましい」
「あ、Sさん恋愛に興味ないから彼女さんを作っていないのかと思ってた!」
お酒が進んでいたこともあり、自分の恋愛に対する考えを話してしまった。
「そうね〜正直めんどくさいとも思ってます笑 僕、元々ホストとかレンタル彼氏とかやっていたので、恋愛もビジネスとしか思えなくて。いかに女の子を喜ばせて、自分にハマらせる的な。いつからこんなにも心が廃れてしまったのか笑 純粋な恋愛をしたいな〜と思ってます。高校生みたいな笑」
そう言うと、彼女は驚いた顔と共に
「え!元ホストなの!?どこでやってたの?」
と食いついて来た。
あんまり話したくはないんだよな〜と思いながら
「歌舞伎町だよ」
「わーお!ガチだね。どのぐらいやってたの?」
やはりホストは珍しいのか、かなり前のめりになって聞いてくる。悪い気持ちはしない。
「いや、ゆーて半年ぐらいよ笑」
「そうなんだ〜。でも確かにやってそう」
それはどう言う意味だ??と思ったが、多分悪い意味ではないのだろう。
突然思いついたように彼女は言った。
「そうだ!良かったら知り合いに別れたばかりの子がいて、今彼氏募集中って言ってたから紹介しようか?」
突然の提案だったが、Mさんの友達ってどんな人だろうという好奇心もあったため、紹介してもらうことにした。
内心ガッカリしながら。
あっという間に食べ飲み放題の時間が終わり、会計を済ませて、お店を出た。
「ありがとうございました!」
店員さんの元気の良い挨拶と共に、バタンッとドアが閉まる音がした。
「今日も楽しかったです!ありがとうございました!」
「こちらこそです!」
彼女の笑顔は心地がいい。
「Mさんは何線ですか?」
一緒の路線だったらまだ一緒にいれるから嬉しいなと思い、願いながら聞いた。
「あ、私、今日車で来たんだよね!」
「あ、だからアルコールは控え出たんですね!」
真意は分からないが、彼氏さん以外の人とは、サシでは警戒して、お酒を飲まないタイプかと思っていた。
「そゆこと!良かったら帰り送って行こうか?」
まさかの嬉しい提案すぎて、心の中でガッツポーズをした。ただ図々しいと思われるのが嫌なため、控えめに
「本当ですか!?でもMさん帰り逆なので大変ですよね。そんな気を遣わなくて大丈夫ですよ。」
あー素直になりたい。大人の仮面を外したい。なぜこんなにも”いい人”っぽいキャラを演じるのか。そんな自分は嫌いだ。
「大丈夫だよ!ドライブ気分で楽しそうじゃん!」
すごいポジティブだ。彼女の隣にいれたらどれだけ幸せで楽しい日々が待っているか。
正直、彼氏さんには嫉妬した。
「ではお言葉に甘えて。よろしくお願いいたします。」
そうして2人並んで、駐車場に向かった。
赤のヴィッツが彼女の車だ。
「すみません、よろしくお願いします」
「いいえ〜♪」
彼女はいつも楽しそうだ。
「ナビセットするから場所教えて!」
「この中学校のところ向かっていただけますか?近づいたら口頭でルート案内します!」
「はーい!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
車は静かに動き出した。
「居心地悪くない?寒かったりとかしたら言ってね!あ、何か音楽聞く?」
すごい気を遣ってくれる優しい人だな〜と思った。
「大丈夫ですよ!音楽はあると嬉しいですね。Mさんは普段どんなの聞くんですか?」
「え〜どうだろう。なんかアプリのオススメを順番に流している感じ」
あまり音楽に興味がないのだろうか。
「Sさんは?好きな曲とかあるの?」
「曲で言うとGReeeNのキセキとかですかね。GReeeeNとかback numberは基本的にどの曲も好きです。」
「そうなんだ!私もback number好き!いいよね〜あれ」
そう言いながら、back numberのオールドファッションをかけ始めた。
「ドラマ観ました?」
「観た!Sさんも観た?」
「いえ、僕は観てないです。めちゃめちゃ観たいと思ってたんですけど、その時受験期でハマったら勉強に支障が出ると思って観なかったです笑」
「あ、そっか!ついこの間まで高校生だったんだもんね!あまりにも大人びていて、すぐ年齢忘れちゃうわ」
とても無邪気な笑顔だ。
「全然、忘れちゃっていいですよ!大人っぽく見られたいので笑」
「分かった!」
そんなような会話をしながら、あっという間に目的地近くを走っていた。
あー楽しい時間が終わってしまう。名残惜しい気持ちで改めて感謝を伝える。
「本当に今日はありがどうございました。家までも送っていただいて。」
「全然!いっぱいお話しできて楽しかった!」
「僕もです。またぜひお会いしてお話ししたいです!」
「はい!またお会いしましょう!」
永遠に家になんて着かなければ良いのに。
そう思ったのも束の間、目的地に着いてしまった。
「とうちゃーく!」
「ありがとうございました!またLINEしますね!」
そう言って車を降りて、僕は一礼した。
とても幸せな時間だった。
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