テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「どうしてその人が彼女って分かったの?」
「何か、咲彩本人がそれっぽい事呟いてるらしいよSNSで」
「でも、あくまで呟いてるだけでしょ?」
「それはそうだけど、でも、前から咲彩とナオって噂されてるんだよね。仲良いっていう噂も飛び交ってたし」
「へぇ、そうなんだ」
その話を聞いた私の胸の奥は、何だかモヤモヤとしたモノが残ってしまって、何とも言えない気持ちになっていた。
「ねぇ尚、HEAVENの咲彩と仲良いの?」
尚が待つ家に帰りリビングで寛いでいるタイミングで私は世間話をするようなノリで昼間聞いた話題を口にする。
「何だよ、いきなり」
突然の私の言葉を聞いた尚は読んでいる小説から視線を外し、こちらを見ながら問い返してくる。
尚に問われて事の次第を説明すると、話を聞き終えた尚は、「HEAVENの咲彩ねぇ」と呟く。
「……何か心当たりでもあるの?」
「あー……まぁ……」
尚は言葉を濁し、がしがしと頭を掻いた後、
「夏子になら話してもいいか……」
そう口にして私を見た。
「え? いいの? 私が聞いても」
「まぁ、ここで世話になってる以上、お前に隠し事ばかりってのもな。聞きたいか?」
「聞きたい!」
別に、ミーハーな気持ちから尚の話を聞きたいと思った訳じゃない。
ただ純粋に尚の事を知りたい、そう思う気持ちが強かった私は尚の言葉を待った。
「最初に言っとくけど、俺と咲彩が付き合ってたとか、そういう事実は一切ない」と前置きをした尚は、咲彩さんとの事を話し始めた。
尚と咲彩さんは同じ事務所でデビューは久遠の方が早かったけど、その数ヶ月後にHEAVENもデビューしたという事で、ほぼ同時期にデビューした二つのバンドは互いに交流があったらしい。
中でも咲彩さんは尚を気に入り連絡先を教えてからというもの、しきりに連絡を取りたがっていたという。
「正直、すげー面倒だった。けど、久遠とHEAVENは同期みたいなモンだし、他のメンバー同士も仲良かったから、俺のせいで仲が悪くなったりぎくしゃくしたりってのは避けたかった。だから、適当に対応してたんだ」
そんな理由から、面倒と言いつつも尚は咲彩さんを邪険に扱うような事はしなかったという。
けど、その対応が逆にいけなかったらしく、案の定、咲彩さんの行動はエスカレートしていったようだ。
「言ってなかったけど俺、普段は久遠のメンバーと住んでるんだ。事務所の方針でメンバー全員ひとつ屋根の下で住むってのが決まりでな」
「へぇ、そうだったんだ」
「で、咲彩は俺らのマンションに押し掛けてくるようになったんだ」
咲彩さんはHEAVENのメンバーを引き連れ、よく久遠のメンバーが住むマンションへやって来ては手料理を振る舞っていたらしい。
咲彩さんが尚を好きという事を周りみんなが知っていたみたいで、みんなは結構咲彩さんに協力的だったという。
尚はそれを分かっていたからか、文句を言わず咲彩さんのする事に付き合っていたらしい。
ただ、はっきりと告白はされていなかったみたいで、二人の関係は曖昧なものだったみたい。
「だけど多分、アイツ的には付き合ってるつもりだったんじゃねぇの? いつも俺の世話焼いて、彼女気取りだったからな」
「……そう、だったんだ」
もしかして、それが煩わしくてバンドからも離れた……という事なのだろうか。
だけどそれには触れず、尚の話を聞いていた。
「まぁとにかく、そんな感じだ。仲良いって噂はあくまで噂だ。付き合うとか論外だな。俺、咲彩みたいなタイプが一番苦手だし」
「そういう事、言っちゃダメだよ」
鬱陶しく思っていたみたいだから、そういう言い方をするのも仕方ないのだろうけど、咲彩さんは尚の事を本気で好きなんだろうから、そんな言われ方は可哀想だと思って擁護する。
「いいんだよ、どう言ったって。今は本当、せいせいしてる。ようやく離れられたしな」
「もう、尚ったら」
「それに、俺は――」
と言いかけた尚は言葉を止め、何故か私を真剣な表情で見つめてきた。
「な、何よ?」
真っ直ぐに見つめられ、視線を外すことが出来なくなってしまう。
(何だか、瞳に吸い込まれそう――)
ドキドキと鼓動が騒がしく音を立て始めた、その時、
「俺は、夏子みたいなヤツの方がいいな」
と耳を疑うような言葉が聞こえてきたのだった。