テラーノベル
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スタジオの一角、備品棚の前で、元貴が何やら格闘していた。
「んん〜…っ、もうちょい…!」
棚の一番上に置かれた小さな箱に、指先があとちょっと届かない。
黒のオーバーサイズTシャツにゆるめのパンツ、いつも通りのラフな格好。
その元貴が、ほんの少しだけ背伸びして、つま先でぴょこぴょこ跳ねてる。
「よし…もうちょい…あーもう、あと2センチ!!」
—— その様子を、数歩後ろの機材ラックの影からこっそり見ていた若井滉斗は、完全に息を呑んでいた。
(……尊い)
気づけば、口も開いたまま、目を見開いて立ち尽くしていた。
心臓の音が、スタジオの静寂に響いてるんじゃないかってくらいバクバク言っている。
(いや……もう、無理だって……)
ぴょこぴょこ。
ぴょこぴょこぴょこぴょこ。
リズムに合わせて揺れる元貴の髪と服、そして真剣な表情。
(か……かわええ……!!)
白い首筋、ふわっと揺れる髪、軽く膨らんだほっぺ。
全身からにじみ出る“無自覚かわいさ”の塊に、滉斗は鼻を押さえる。
(やばい……出る……鼻血……)
「……死ぬ、俺……尊さで死ぬ……」
「ん〜〜もぉ〜〜〜!」
元貴が不満げに声を上げ、ついにジャンプに踏み切ろうとした瞬間、
スッと背後から長い腕が伸びて、軽々とその箱を取った。
「はい、これ。」
「……えっ? あ、ありがとう……って、滉斗?」
「うん……」
(今の“ぴょこぴょこ元貴”見せられて、平常心保てる人間いんのかよ…)
そう思いながらも、全力で顔は真顔を装う。
元貴が首を傾げる。
「…どしたの?鼻赤くない?」
「気のせい。……いや、むしろ照明のせい?」
「は?」
誤魔化しきれていないのを察しつつ、元貴はにやっと笑って、
「もしかして……さっき、見てたでしょ?」
「……」
「……ぴょこぴょこしてたの、見てニヤけてたでしょ〜?」
滉斗、顔真っ赤。
「……ぴょこぴょこしてる元貴が、あまりに可愛すぎて死ぬかと思っただけです!!!」
「お、おう……」
「いや、ほんと、あの瞬間に天使が見えた。光差してた。後光が差してた。俺は見た。」
「……あのさぁ、ちょっと落ち着こ?笑」
涼ちゃんが後ろから冷静にツッコミを入れたのは言うまでもない。
END笑
コメント
2件
届かないって読む前は片思いかなって思ってたんだけどこっちかーい!!!好き!! ぴょこぴょこしてる大森さん見せられて平常心保とうとしてる若井さん凄いですね…