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3 - 壊れた境界線

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2025年08月24日

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壊れた境界線


(すい・中学一年)兄のゆいと離れてから、もう三年が経った。

母に引き取られたすいは、母と二人で暮らしている。

けれど、母は離婚後、昼も夜も働き詰めで家にいないことが多かった。

家は静かすぎた。

兄がいないだけで、こんなにも音のない世界になるんだと、何度も思った。

最初の一年は、まだ我慢できた。

寂しくても、勉強を頑張ればまたゆいに会えるかもしれない、って信じてたから。

でも――その希望は、二年目で消えた。

父と暮らすゆいからの連絡は一度も来なかった。

電話をしても、「忙しいから」と母に止められる。

写真だって送ってもらえない。

“もう、あっちの家の人なんだから”

母の言葉が、胸に突き刺さった。

――どうせ、あたしなんか、もう必要じゃないんでしょ。

その頃から、すいは変わっていった。

中学一年の冬。

すいは初めて“先輩”に連れて行かれた。

校舎裏の自販機の前で、たむろする上級生たち。

スカートを折り曲げ、ルーズソックスを履き、煙草を吸っている子までいた。

「お前、離婚組なんだろ? だったらうちらとつるめばいいじゃん」

そう声をかけられたとき、なぜか救われた気がした。

ここにいれば、寂しくないって思った。

それから、すいはどんどん“悪い”ことを覚えていった。

門限を破るようになり、授業をサボるようになり、家で母と顔を合わせる時間はほとんどなくなった。

母には何度も怒鳴られたけど、もう素直に謝れなかった。

「うるさい」

「ほっといて」

「どうせお兄ちゃんばっかりでしょ」

そんな言葉ばかり口から出て、ますます母との溝は深くなっていった。

中学二年の春、すいは初めてケンカをした。

きっかけは、クラスでちょっかいをかけてきた男子。

「お前の兄貴、親に捨てられたんだってなw」

その一言で、頭の中が真っ白になった。

気がついたら、その男子を壁際に押し付けていて――

拳が震えるほどの力で、何度も殴っていた。

止めに入った先生に引き離されたとき、手は血だらけだった。

なのに、涙は一粒も出なかった。

その日を境に、「すいはヤバい女だ」という噂が一気に広まった。

男子には絡まれなくなったし、周りも勝手に距離を取るようになった。

でも、それでよかった。

誰かに近づかれると、きっとまた傷つくから。

中学三年の夏。

すいはもう、完全に“学校一の問題児”になっていた。

授業をサボってコンビニにたむろし、夜中まで帰らず、停学処分も数えきれないほど。

そんなある日、夜の公園で先輩たちとダラダラしていると、同級生の男子に絡まれた。

「お前、また停学? マジでやべぇな」

からかうような声に、すいは無表情で近づき、胸ぐらを掴む。

「……殴られたい?」

声は低く、冷たく、ぞくりとするほど落ち着いていた。

――その瞬間、周りの空気が凍った。

気づけば、すいは“喧嘩最強”と呼ばれるようになっていた。

けど、心の中はいつだって空っぽだった。

「……お兄ちゃん……」

夜中、布団に潜り込んで、誰にも聞こえないように名前を呼ぶ。

返事なんてあるはずないのに、それでも呟かずにはいられなかった。

会いたい。

でも、会えない。

そんな日々を繰り返しながら、すいは高校生になっていく。

――そして、すいは知らない。

もうすぐ、その“会えない兄”と、運命の再会を果たすことを。

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