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桃『赤。行ってくるね。』
赤『うん。いってらっしゃい。』
桃『早く寝ろよ?』
赤『わかってるって(笑)』
桃『ん、行ってきます。』
赤『いってらっしゃーいニコッ』
今日も明日も明後日も夜勤。
こんなに可愛い彼女を夜遅くに1人家に置いて。
正直行きたくないのが本音。
黄『桃くんちょっと遅くないですか?』
桃『ごめんごめん(笑)』
黄『まだ彼女さん起きてるんですか?』
こいつは黄。
大学の頃からの俺の友達。
もちろん俺に彼女がいることも把握している。
桃『まぁ…夜型人間だからな…早く寝るように言ってるけど…』
黄『そうなんですね』
行きたくないと言っても、”医者”という職業についている俺らは、人の命を任されているのと同じだ。
何百人もの命を今この瞬間、任されている。
それにここは救命救急科。
真夜中に重症患者が運ばれてくることも日常茶飯事。
夜勤の日が多いのも納得できる。
最愛の彼女を守ること。
それは俺の優先順位の中でいちばん上になるものの、医者の俺としては、その周辺の住民の命を救うのが第一。
夜勤続きなんかじゃなくて、もっと赤と一緒にいられたら。
今をいちばん大好きな人と過ごせたら。
そんなことを考える日々。
黄『桃くん。』
桃『ん…?』
黄『また迷ってるでしょ。』
桃『んぇ?』
医者を辞めるか辞めないか。
そんなことを前に黄に相談したことがあった。
黄『どっちでも彼女さん、喜んでると思いますよ。』
桃『……だといいんだけど。』
赤も不安になるだろうけど、俺も、赤に対する好きが伝わっているかどうかわからない不安を感じている。
きっとそれはこれからも変わらないこと。
一生続く仕事をとるか。
今を大切に生きるか。
どっちも赤のためになることで、今後も今続けているこの選択に迷いは残る。
黄『…桃くんと夜勤の日、いっつも良いこと起きないんですよねぇ〜…』
桃『なんだよお前。不満でもあんのかよ。』
黄『いや、ありませんけど。』
桃『も〜う…絶対あるじゃん……泣ける…』
黄『どうぞご勝手に。』
お前もう一生奢ってやんねえからな。
なんてことを考えつつ目の前にある仕事を片付けていく。
黄『今日はそんなに重症患者さんいませんでしたね。』
桃『そうだな…』
強いて言うなら火傷を負った患者さんが運ばれてきて、消毒しようって思ったらネイルで思いっ切り引っ掻かれたこと。
まじで痛い。
黄『桃くん大丈夫ですか?あのネイルの人の傷。』
桃『思ってるより血出てるんだよなぁ…』
黄『いや絆創膏から血出てるじゃないですか。』
黄『包帯にしますよ。』
桃『いいって。いらない。』
黄『思ってたより傷が深いです。もう一回消毒し直さないと腫れます。』
黄『あなた医者ですよね?そのくらい自分で考えられるようになってください。』
桃『すいません。』
今日あったこととかも全部報告書に書かないといけないわけで。
気付いたら絆創膏から血がはみ出ていた。
包帯つけて帰ったら赤に心配されるし本当は嫌だ。
赤だけには心配させたくない気持ちもある。
とか思ってる間に黄は俺の腕に包帯を巻き終わっていた。
黄『はい。終わりましたよ。』
桃『ありがと。』
黄『帰りましょうか。』
桃『やっと帰れる…!』
黄とは駅で別れたが、彼もまた同じく今日の夜もシフトが入っているため、また数時間後に会う。
早く帰って赤の寝顔が見たい。
その一心で帰路を全力ダッシュ。
がちゃんっ…
桃『ただいま〜…』
今の時刻は午前9時。
まだ赤は寝ているだろう。
手を洗って、部屋着に着替えて、赤のいる寝室に入る。
赤『すぅ…すぅ…』
そこに見えるのは静かに寝息を立てて熟睡している俺の最愛の彼女。
桃『かわいい…w』
かしゃっ…
あまりの可愛さに寝顔を1枚パシャリ。
そして俺もベッドに入る。
まだ赤の声を聞けてないけど、意外と痛い腕のためにも、今日は早めに寝るか。
少し出ている赤のおでこにそっと口付けをして、俺も夢の世界へ旅立った。
腕の痛みのせいなのか、いつもよりもあまり寝れず、12時過ぎには目が覚めてしまった。
隣を見ると俺の彼女はもう起きたのか、いなくなっていた。
このままだと寝れなさそうなため、リビングに行くことにする。
赤『あれ、桃くん。いつもより早いね。おはようニコッ』
桃『ん、おはよ……』
俺の天使…
赤『いつもよりちょっと早めだけど、お昼ご飯にしちゃおうか。』
桃『うん、お願い。』
赤『はーい!』
そう言ってエプロンを付けながらキッチンへ走っていく俺の彼女。
まじで可愛い。
腕だけじゃなくて鼻からも血が出てきそう。
こんなこと考えてるけど結構真面目に痛い。あの人のネイル、結構長かったもんなぁ…
桃『まぁ…暑いからっていって白衣脱いでた俺のせいか。』
よく考えると俺のせいでもあることに気付く。完全に自業自得。
1人で反省会を開いているとスマホから通知音がなった。
桃『だれだよ…』
と思ってスマホを開くと黄色髪からのメッセージ。
だったら無視していいか。と目線を一生懸命ご飯を作っている彼女の方へ向ける。
俺が視線を向けるとこっちを向いてニコニコする赤。
その笑顔を守りたいと思って、気持ちを伝えてからもうすぐ5年。
今俺は、彼の笑顔を守れているだろうか。
苦しい思いをさせていないだろうか。
毎日不安になる日々。
医者として育っていくということは、
段々赤からも離れていってしまっていることと同じようなもので、
結婚したいなんて自分勝手だろうかと考えて、
3ヶ月前から引き出しの奥底に眠っている婚約指輪。
俺は、彼のことを一生幸せにできるだろうか。
赤『ご飯できたよ〜!』
桃『お、ありがと』
赤『今日ね、めっちゃ美味しくできた自信ある!』
桃『じゃあ早く食べよ?』
赤『うん!いただきます!』
桃『いただきます。』
桃『んっ、うまっ』
赤『えへへニコッ』
俺達にはまだ早いかな。
なんて思ったりして。
赤『…、…ん?』
桃『ん?どうかした?』
赤『桃くんそんなところに包帯巻いてたっけ?厨二病?』
桃『まさか。』
桃『患者が暴れてネイルで引っ掻かれたの!』
赤『え!?大丈夫なのそれ…』
ほら、見ろよ黄。
こうなるから包帯なんてつけたくないんだって。
桃『大丈夫だから。な?』
赤『……うん。』
ちょっと心配そうにしてるけど、実際もう血とか止まってそうだしいいのよ。
ちょっと痛いくらいで。
赤『あ、桃くん。今日青ちゃんと飲んでくるね。』
桃『おっけ〜、』
桃『俺も赤が出る時間に合わせようかな。』
黄に怒られそうだし。
とかは言わない。
赤『りょーかい、』
桃『夜勤の準備したらゲームする?』
赤『するする!』
桃『じゃあ準備して待ってて(笑)』
赤『はーい、!』
2人の時間は2人のものだもんね。
落ち着いたら…ちょっと考えてみるのもありかもしれない。
赤『桃くん持ち物全部持った?』
桃『うん、持った。』
赤『じゃあ行こっか。』
俺は仕事。
赤は飲みにお互いの道へ進む。
いつか俺達もそうなってしまったら。
未来のことで悩むのはすごく幸せなことだと思う。
それでも今苦しいのにはかわりなくて、きっと赤もそうなんだと感じる。
赤と家の前で別れ、病院に来て少し早めに仕事をする。
桃『調子どうですか?』
患者『あんたのせいでネイル折れたんだけど…』
桃『あー…それは…申し訳ありません。』
お前のせいだろ。とかは言わないことにする。
桃『お身体の調子はどうですか?』
患者『…包帯つけてたら痛い。とれないの?これ。』
桃『取ったら菌が入って悪化します。絶対取れません。』
患者『ふーん、…』
赤と最近、飲めてないなぁ…
赤。今何してるんだろう。
病院内を歩いていれば、いつの間にかそんなことを考えている。
違う。今は俺を出しちゃいけない。
医者の俺でいないといけない。
そう思い込もうとしても、やっぱり出てきてしまう素の自分。
桃『ちょっと休憩でもするか……』
このままじゃ仕事なんてできない。
病院の中のコンビニに寄ってお茶を買うことにした。
お茶を買って状況確認にナースステーションに行くと黄がいた。
桃『あ、黄も来てたんだ。』
黄『はい、ついさっき。』
桃『そ、』
夜勤の看護師はミーティングをしている時間。
黄と一緒にこの科の先生達がいるいつもの部屋に行く。
黄『はぁ…夜勤も嫌ですけど、日勤のほうが時間長くて嫌です。』
桃『どっちも嫌じゃねえか。』
黄『……そりゃそうですよ…』
黄『もともと外科志望だったんですから…』
桃『そうだよなぁ…俺も精神科志望だったのに…』
この時間はほぼ仕事はなくて、雑談の時間。
ただ、夜勤のときは1時くらいから急に患者が運ばれだす。
黄『今日彼女さんは?早かったですよね。』
桃『あぁ…今日友達と飲みに行くんだってさ。』
黄『門限とかきめてます?』
桃『んーん、縛りたくないし。』
黄『ふーん…』
変な人に連れて行かれたりしないかな…
酔っ払って方向感覚失ったり…
桃『あーやっぱり早めに帰ろって言っとけばよかったかなぁ…』
黄『…今さら心配しても仕方ないって…』
桃『あーもうどうしよぉ…』
彼女の話をしていたらもう時刻はてっぺんを越えていた。
黄『さ、忙しくなってきますよ。』
桃『そうだな、』
昨日の反省を活かし、しっかり白衣を身につける。
黄『今日はちゃんと着るんですね。』
桃『意外と痛かったからな…』
プルルルルルルルル
黄『はい、救急科です。』
黄『患者さん来た。行くよ。』
桃『おけ。』
手袋をはめ、外に出る。
いつも通り救急隊員に状況を確認し……
桃『は?』
ストレッチャーで運ばれてきたのは、頭から血が流れている俺の彼女。
黄も看護師も他の先生も全員に指示している。
俺は…動けなかった。
看護師の中ではいつもクールで、冷静と噂されているくらいの俺。
そんな俺が自分でもわかるくらい、今は冷静さに欠けている。
黄『……桃くん。』
黄『彼氏が彼女を守らなくて、どうするんですか。』
桃『っ、………』
黄『返事は!』
桃『はいっ…!』
黄『守るんでしょ?』
桃『うん。』
黄『ぱちんっ、』
普段の黄からは想像もつかないほど、威圧感のある声で名前を呼ばれる。
背中を叩かれたのは痛かったが、目が覚めたのでよし。
隊員『繁華街から少し離れた交差点で、飲酒運転の車に信号無視でひかれたそうです。』
隊員『事故による頭部の強打で、頭部出血。左腕の開放骨折も確認されました。それらによる意識障害が見られます。』
桃『事故…ね…』
事故は俺達では何もできない。
桃『頭の傷が深い。』
桃『外科と麻酔科に連絡して。』
桃『あとオペ室空いてるかも確認。』
桃『骨折部分は生食する。準備しといて。』
赤『……………』
俺の目の前には、頭に包帯を巻いていて、酸素マスクをつけている俺の彼女。
どうして事故にあったのか。
急にいなくなったりしないか。
俺に、突然恐怖が襲ってくる。
桃『……ふぅっ…はっ……んっ…』
自然と息も荒くなる。
ガラガラ…
黄『桃くん。』
黄『お疲れ様です。』
黄『………頑張りましたね。』
桃『……怖かったっ…、…』
言葉では言い表せないくらい怖くて、
嫌で、信じられなくて。
黄『………そうですね。』
患者が、医者が取り乱しているの見たら怖くなるのなんてわかってる。
でも、それと同じくらい俺も怖かった。
黄『……桃くん、少し寝てきたらどうですか?疲れたでしょう。』
桃『……うん、そうする。ありがとう。』
桃『はぁっ…』
どっと疲れが身体にきた。
そして、仮眠室のベッドにダイブする。
昨日の腕の痛みなんて忘れて、緊張が一気に解けたように、すぐ眠りについた。
起きると、6:30だった。
あぁ…寝る前が6時だから…
まだ30分しか寝れてないのか…
頑張って寝ようとするが、どこからくる不安と恐怖。そのせいで目は開いたまま。
仕方ない。もう起きるか。
赤のいる処置室に行くと、黄がずっと赤のそばにいてくれていた。
黄『あれ、寝れませんでした?』
桃『……まぁな。』
黄『…そうですよね。』
あの時こうしていたら。
ああしていたら。
自分のせいだと責める。
過去のことは変わらないなんてわかってる。それでも、考えちゃうのが自分。
赤『…………ぴくっ…』
桃『は?赤?』
桃『赤?聞こえる?』
黄『赤さん?』
赤『……ぱちっ、…』
赤『…………桃、くん…』
一気に安心した気持ちが出てくる。
不安な気持ちなんてなくなるくらい。
でも今は、俺を出しちゃいけない。
桃『すぅ…っ……』
桃『赤、ここどこかわかる?』
赤『病院?』
桃『そう。』
桃『今日は何月何日?』
赤『えっと…11月22日?』
桃『そ。正解。』
桃『じゃあ今日は何曜日?』
赤『……何曜日…だったっけ…』
周りから見れば記憶障害のように思えるだろうが、もともと今日が何日かなんて覚えていないし、問題ないだろう。
桃『おっけ。大丈夫だよ。』
赤『桃くん……』
桃『ん?』
赤『寝てきて…』
桃『でも…』
赤『お願い…彼女命令。』
彼女命令なんて言われたら行くしか無い。
桃『………わかった。』
黄『あ、僕が見てるんで。大丈夫です。』
桃『お願い。』
黄が見てるなら大丈夫かと思い、もう一度仮眠室にいき、眠りにつくことにした。
さっきよりもぐっすり眠れたような気がする。
あの後は少し寝て、9時くらいにおきた。
仮眠室からナースステーションに行って、病室の空きを確認する。
空いている病室に赤を移動させよう。
黄『あ、桃くん。赤さんのこと移動させる病室なんてありますか?』
桃『うん。あるよ。』
黄『じゃー桃くん行ってきてください。』
桃『はい?』
黄『彼女なんでしょ?』
丁度いいところに黄が来たと思ったら、赤のことを移動させろと。
自分が行きたくなかっただけだろ
とは言わない。
赤『ねぇ…桃くん。』
そして現在病室用のベッドで移動中。
桃『ん?どうかした?』
赤『………俺のこと…心配した…?』
桃『……どうだろうな。』
本当はすっごい心配した。
でも、今は先生と患者の関係。
心配したとかしてないとか言える状況じゃない。
赤『でも…俺が運ばれてきたとき…焦ったんでしょ?』
桃『……周りから見れば焦ってたんじゃない?』
本当は自分でもわかっちゃうくらい焦ってた。
赤『んふw』
赤『よかった…(笑)』
桃『なにがさ。』
赤『おれ…ずっと不安だった。』
赤『ほんとに桃くん、俺のこと好きなのかなって。』
夜勤続きの彼氏じゃ、そう思うのも当然だよな。
そりゃ不安になる。俺でも不安になる。
赤『なんで…今日は焦っちゃったの?』
桃『なんでそう思うの?』
赤『だって…桃くん…俺が怪我したときもずっと冷静じゃん。』
桃『それは絆創膏で治るくらいの傷じゃん…』
そんくらいで慌ててたら医者務まんないって…
赤『じゃあ…俺が体調崩した時は?』
桃『赤が起きる前に対処してるだろ…』
寝る前の状態とかでだいたいわかったりするからな。
赤『……良かった…俺愛されてんじゃん…』
患者『仲良しなんですねぇ』
桃『あはは…』
ここ普通の患者さんも使うエレベーターなんよ。
まじでそういう話すんのやめてくれ。
赤『んふふ(笑)』
赤『俺の自慢の彼氏ですニコッ』
患者『あぁそうなの(笑)』
桃『はい、赤〜ついたよ、』
赤『は〜い、』
まぁでも、職場でも好きって言ってもいいのかな。なんてね。
桃『赤が運ばれてきたとき、めっちゃ怖かった。動けなくなるくらい。』
赤『っ!?』
桃『今回に限って、死んじゃったらどうしようって思った。』
桃『だから、周りから見ても、自分でも感じるくらい、すっごい焦った。』
赤を運びながら、ちゃんと気持ちを伝えようと話す。
桃『仕事ばっかりで、我慢させちゃうこともあるかもしれないけどね。』
桃『俺、ちゃんと赤のこと大好きだから。それだけは変わらないよ。』
俺の正直な気持ち。
それを聞いた赤は顔が今まで見たことが無いくらいに赤くなっている。
赤『……桃くん…』
桃『ほら、ついたよ。』
俺の気持ちを話し終えたと同時に、病室も移し終えた。
赤『ねぇ、桃くん。』
桃『ん?』
赤『座って…!』
桃『…?』
なんで座れと言っているのかはわからないが、とりあえず座ってみる。
赤『俺ね、桃くんのこと大好きだよ。』
赤『全部黄先生から聞いたの。』
赤『桃くんの俺に対する気持ち。』
は?なにいってんだあいつ。
俺が寝てる間に…
桃『くそっ……あいつだけは許さん。』
赤『桃くんは桃くんのままでいいから。俺は、ありのままの桃くんを好きになったんだよ。』
桃『…そ。』
赤『何その反応!?』
桃『俺、一旦家帰る。疲れた。お前のせいで。』
赤『俺のせいなの?(笑)』
桃『また後で来る。』
赤『うん…!✨』
桃『(笑)』
赤が退院したら、赤を泣かせちゃうくらいかっこいい姿で、プロポーズしてやろう。
数ヶ月後、2人の薬指に指輪がついていたのはまた別のお話。
end.
今回、Saya様の1周年記念企画に参加させていただきました…!✨
↑
Saya様のアカウントはこちら…!
初めて企画参加というものをしたんですけどこんなものでいいんでしょうか…
次の投稿は12月です…!((今度こそ
それではまた次の作品投稿で!
コメント
10件
お互いに愛し合ってるって感じがして素敵ですね!!泣きそうになりました…
彼氏彼女のとてつもなく 愛おしい感情が読み取れました… やっぱ、天才ですね。
投稿ありがとうございますっ! もう好きぃって言いながら泣いてました…()すみません…(?)