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ホームにはこれから飲みに行くのか、今まで仕事をしていてこれから帰るのか
スーツの人や私服の人など4、5人が扉の両サイドで降りる僕らを待っていた。
僕と妃馬さんはホームに降り、改札に交通系電子マネーを当て通り外に出る。
昨日の夜中も歩いた道を歩く。昨日と違うはまずは時間。
まだ7時前なので道行く人が多かった点。車通りが多い点。
そしてなにより妃馬さんと2人だという点だ。
昨日は人通りは少なかったものの妃馬さんの妹、姫冬ちゃんがいて3人だった。
しかし今は妃馬さんと2人。
これがもし昨日と同じ人通りも車通りも少なかったら緊張していたかもしれないが
姫冬ちゃんの代わりに人と車が多くてほぼ昨日と同じ状態でいることができた。
道中他愛もない会話をし時に笑い、いつの間にか妃馬さんの住むマンションの前に着く。
「今日も送ってもらっちゃってありがとうございました」
ペコリとお辞儀をする妃馬さん。
「いえ、好きでやってることなので、ご迷惑でなければこれからも送らせていただきます」
と僕もペコリとお辞儀をする。顔を上げ目が合い2人で笑う。
「じゃあ、また…ゲームで会うのが先かな?」
と妃馬さんが言う。
「そ う で す か ね?」
自分でもリズミカルだなと思うリズムで言う。
「わお、リズミカル」
「自分でも思いました」
そう言い2人で笑う。
「ゲームが先かもですけど、大学とかでも気軽に話しかけてください」
「はい。でもなぁ〜女子の集団に話しかけるのって割と勇気いりますよ?」
「そうなんですか?」
「はい。一応努力しますけど、妃馬さんのほうも良かったら話しかけてくださいね?」
「一緒にいるのが鹿島さんなら話しかけられますけど
今日のフィギュアみたいな方だったら緊張しちゃうかも」
「あぁ、たく…小野田匠ですね。フィギュア…。あいつ顔整ってますからね」
と妃馬さんのフィギュア発言に笑ってしまった。
「女の子みたいですよね」
「フィギュア…すいません。おもしろくて…」
ツボに入ってしまった。
「そんなにおもしろかったですか?」
と妃馬さんも少し笑う。
「あぁ〜…あぁ。はぁ。はい。すいません」
少し息を整える。
「とりあえず大学ではお互い努力して話しかけようってことですね?」
と妃馬さんに問いとも確認とも捉えられる言い方をする。
「はい!そうですね!」
その妃馬さんの言葉の後、なぜか少しの間沈黙が訪れる。
言葉を発さず、妃馬さんのことを見たり、辺りを見回したり
妃馬さんも僕のほうを見たり、辺りを見回したりしていた。
街の環境音が聞こえる。人々が歩く、アスファルトと靴が触れ合う音。
車の走る、アスファルトとタイヤが触れ合う音。風が街を自由に飛び回る音。
それらすべてもちろん聞こえているが、電車で妃馬さんの瞳を見つめたときと同じように
僕と妃馬さんを薄い膜が包んでいるような周りの音が小さく聞こえる気がした。
辺りの色味も淡い絵の具で描いた世界に感じた。、僕はその薄い膜と沈黙を破り
「あ、じゃあ、また。今日は楽しかったです。ありがとうございました」
と言って踵を返そうとする。
「あっ」
という妃馬さんの言葉に踵を返そうとしていた足が止まる。
「よかったらまた一緒にお茶したりしませんか?」
妃馬さんのその言葉を聞いた途端
心だけじゃなく身体の中に一気に花が咲いたような自然が生い茂ったような感覚になる。
草原を風が撫でるようなざわざわっっという感覚がする。
踵を返しかけていた足を妃馬さんのほうに向け直し妃馬さんを見る。
妃馬さんは少し照れているような少し下を向き、少し上目遣いでこちらを見ていた。
その視線は定まらず僕のほうを見たり、地面を見たりキョロキョロしていた。
右側にある妃馬さんの家があるマンションのエントランスの光が先程より煌々として見えた。
その光や街灯の光が妃馬さんを照らす。
その光がキョロキョロさせている瞳に反射し、綺麗に輝いている。
妃馬さんのその言葉を聞く前より色鮮やかな世界に感じた。息を呑む。
その言葉に返事をしようとする。しようと考えれば考えるほど鼓動がどんんどん高鳴る。
意を決めて鼓動が高鳴っている中、言葉を発する。
「僕で良かったらぜひ!」
五月蝿い心臓で自分で自分の声が聞こえないかもしれないと思い
自分でも思わぬ大きな声で返事をした。妃馬さんと目が合う。
僕の大きな声にビックリしたのか目を丸くしていた。
少し下を向いていた顔が徐々に正面を向く。
かと思ったら表情が徐々に笑顔に変わっていった。今目の前で起こったことなのに
頭の中で妃馬さんが笑顔に変わる瞬間がスローモーションでリプレイされる。
「よかったぁ〜」
心底ほっとした声を出す。
「めっちゃほっとしてる」
「あ、出てました?」
「ダダ漏れでした」
「漏れてたか…ほっとしました」
「なんでそんなほっとしたんですか?」
「断られたらどうしようかなって不安で」
その言葉を聞いた途端また鼓動が高鳴った。
しかしこれまでのとは少し違い、胸がキュッっと締め付けられるような感覚もあった。
「断るわけないです」
真面目な顔で真面目なトーンで言う。妃馬さんはまた驚いたように目を丸くする。
「妃馬さんからそんなこと言われて断るわけないです」
そう言うと妃馬さんの頬が段々とピンクがかっていった気がした。
妃馬さんも自分の頬が熱を持ち出したのに気づいたらのか両頬を両手で隠す。
「あ、ありがとうございます…」
と小さな声で言う妃馬さん。
妃馬さんのその様子を見ていたらなぜか僕の頬も熱を帯びたように感じた。
「あ、すいません長々と。じゃあ行きますね」
と熱を帯びている頬を見られまいと逃げるように踵を返そうとする。
「あ、はい。じゃあ、あとでLIMEします」
その言葉で嬉しくなる。下唇を噛む。
「はい。じゃあ、また」
「はい。また」
そう会話を終え、踵を返し、駅までの道を歩き出す。