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司ほな (両)片思い
ついったで見つけたネタをお借りして書いたものです。
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つい遅くなってしまった練習の帰り、懐かしい公園の前で、思わず足を止めた。何か考えがあったわけじゃなかった。ただなんとなく、荷物を地面に放って、視界に入ったジャングルジムに登る。
(久しぶりだな、ここから見るの)
ジャングルジムの頂上で空を見上げると、いつかの思い出がよみがえる。あの時みんなで見た星空は、すごく綺麗だったな。流星群、また見れるかな。
「うーん……あんまり見えないな……。」
今日は満月だった。やけに主張の強い月光のおかげで、星が霞んで見えるのだ。
(でも……不思議だな。)
それでも、みんなとすれ違ったあの時とは違う。もうこの空で、寂しい思いをすることもきっとないのだ。
しばらく、ぼうっと空を見上げていた。ふと、誰かの足音で我に返る。
「…穂波?」
聞き慣れた声で名前を呼ばれて、ジャングルジムの上にも関わらず、ぱっと振り返った。おかげで、バランスを崩してふらつく。
「わっ……!つ、司さん……?」
なんとかジャングルジムの棒を掴んでバランスを取り戻す。ハラハラしたように司が口を開いた。
「だっ、大丈夫か?!すまない、見知った後ろ姿だったからつい声をかけてしまった。驚かせてしまったようだな。」
「あ、いえ……!…でも司さん、どうしてここに……?」
「ん?ああ、ショーの打ち合わせをしていたら遅くなってしまってな。丁度帰っているところだったんだ。」
「あ……同じ、ですね。」
「ん?穂波もか?練習に力を入れるのはいいことだが、あまり遅い時間に外を出歩くんじゃないぞ。最近は何かと物騒だからな。」
「それを言うなら、司さんだって。」
「オレは大丈夫だが、穂波はそうとは限らないだろう。」
言い返す言葉を探しているうちに、いつの間にかジャングルジムを登ってきた司が、穂波の隣に並んだあとに、穂波の顔を覗き込んで微笑む。
「……穂波、なんだか嬉しそうだな。」
「え?そ、そうですか……?」
「ああ、何かいい事があったのか?」
「いい事……うーん……。」
少し考え込んでから、穂波は言う。
「今日、あんまり星が見えなかったんです。でも、不思議と寂しくなくて。昔だったら、こんな空見てたら、ずっと気持ちが落ちたままだったろうな……って思って。」
「……。」
「なんでだろうって考えてみたんです。……多分、今はみんなと一緒にいられるから、なのかな。」
司は黙って穂波の顔を見つめる。穂波も見つめ返して、いたずらっぽく微笑んだ。
「……それと、久しぶりに司さんと話せたから、かもしれないですね。」
「…そうか。」
顔を逸らすようにして、2人はまた空を見上げた。しばらくして、司が口を開く。
「…確かに、今日はあまり星が見えないな。」
「ですね……。」
「…だが……月が、綺麗だな。」
「……ぇ」
―『月が綺麗ですね』…
いいや、きっとわたしの勘違いに過ぎない。彼の発言に深い意味はないと、そう知っていながら舞い上がる心を必死で押し殺す。
「……そうですね。今日は…満月ですし。」
なんでもない、ごく普通の台詞を吐いた後、黙り込んでしまった司の顔を覗き込む。どことなく哀しさのうかがえるその表情に、やはり少しだけ期待をしてみたくなってしまった。気付かれないくらいに小さく、邪な思考を振り払う。
「…そろそろ、帰りましょうか。」
「…そうだな。」
とうとう沈黙がつらくなってしまって、穂波はジャングルジムから降りて服をはたき、放っていた鞄を拾い上げる。
「良ければ家まで送ろう。一人では危ないからな。」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。」
楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、思っていたよりずっと早く家に着いてしまった。 まだ一緒にいたいなんて、我儘な気持ちには蓋をしてしまおう。
「久しぶりに話せてよかった。それでは、ゆっくり休むんだぞ。」
「はい、ありがとうございました。司さんも気をつけて。」
手を振って背を向ける彼。薄く光る街頭に照らされる、司の後ろ姿を見つめて、穂波はぽつりと呟いた。
「……星が綺麗ですね。」
『月が綺麗ですね』=「貴方を愛しています」
『星が綺麗ですね』=「貴方は私の想いを知らないでしょうね」
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