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「ねえ藤田先生」と健太「でも本当に人間ってみんな同じだと思う? ウチのマルチーズはせかせかしてるけど、友達のコッカスパニエルはのんびりしてるよ。先生。犬がそうなんだから、もしかして人間にもそういうことあるかもしんないよ」
藤田先生は再びボールペンをつまんだが動かず、代わって貧乏ゆすりが始まった。
「もしかすると、そういうことも少しはあるかもしんない……それは考えてみる必要はあるかな、いつか時間のあるときに」
「大人と子供だって、本当は違うでしょ? 大人は大きなビルを立てるし、病気も治すけど、子供は画用紙に建物の絵を描いて、病院ごっこする」
「そうかな。子供だって大人になれば、ビル建てる人も出てくるし、病気治す人もいるよ」
「それは、大人になってからでしょ」
「まあ、そうだが」
同じ高さの椅子に座っているのに、藤田先生の目の高さは健太の頭上にある。
「それに、背の高さも違うよ」
腕をパンパンにふくらませた人達が、大きな事務棚を持って藤田先生の後ろを通り過ぎた。
「腕の力も」
「やっぱ子供だなぁ。そう来るか」藤田先生はか細い腕をもう一度組んだ「子供には大人にない感性があるなあ」
大人とは「みんな同じだ、全く同じだ」と主張しながら、みずから「子供は違う、子供は違う」と連呼する、不思議な生き物に健太には見える。
授業が終わると同時に、彼は鞄にテキスト、ノート、下敷き、筆箱を詰めた。教室を見回すと、コピーをする先生、コンピューターを打つ先生、本棚の前でうろうろする先生がいた。塾長と藤田先生はドアの脇で立ち話をしていて、生徒が来るたびに「こんちわ」、出るたびに「さよなら」と言ってる。
「そういえば、十年くらい前になりますかな。男子のスカート解禁ってありましたよね」藤田先生の声が聴こえる。
「あったあった。マスコミじゃ一時期『スカート・ブーム』なんて盛り立ててたけど、結局、履く気になんなかったなぁ」塾長は鼻毛を出しながら爆笑している「俺の回りでも、誰一人履かなかった」
「でも当時、行政は一生懸命でしたけどね。宣伝のためですか、スカート履いて町を練り歩く区の職員、いましたよね。そしたら、オカマの団体にぜひ手伝いたいと言われたとか、ストーカー被害に遭ったとか、そんなニュースもありました」
「ま、ホントは慣れればなんてことないんだろうけど。ホラ、どっかの国の民族衣装に男のスカートってあっただろ」
「まあ、そうですけどね。でも今度の、『子供にスーツ、大人に子供服』って試み、果たしてどこまでうまく行きますかねえ。行き過ぎた大人子供平等って声もありますよ」
「うー、そのー。平等なら同じ服にすりゃいいのに」
「そうですよね。 大体にして、平等だなんて言いながら、いつだって大人が不利っすよ。子供と民事で争えば、慰謝料払うのは大抵大人の側ですからね、親が大金持ちでも」
「大声じゃいえないけど、実際そうだな。インターネットつかって大人より稼ぐ子供だっているのによ」
「一部には逆差別って声もあります」
「まったくだ。まそれはともかく。最近、子供っぽい大人、増えてるな」
「反対に、無邪気な子供は減りましたね」
健太がドアを開けると、塾長が気付いて「あ、まだいたのか。さよなら」と言った。ゆっくりと閉まっていくドアの向こうに、次の授業開始のチャイムが聴こえては消えた。