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私は処女で男性とキス以上の性行為に及んだ事は無い。それにも関わらず今の私は肢体の奥底まで快感に翻弄され、激しく惣一郎を求めた。


「あ、はぁっ」


 コリンスキーが乳首から離れた途端、安堵と物足りなさが押し寄せた。


「七瀬」


 惣一郎はおもむろに立ち上がると私を背中から抱き締めた。股間に熱く硬いものを感じた。惣一郎も私を求めている。然し乍ら、私は驚くべき事実を知った。


「七瀬」

「ーーーはい」


「私には細君さいくんがいます」


「さい、くん」

「妻です、 碧みどり と言います」

「惣一郎には奥さんがいたの」

「はい」


 肢体を包んでいた炎が一気に鎮まり燻くすぶって消えた。


「指輪、結婚指輪はどうしたの」

「顔料で傷むので結婚してから一度も嵌めていません」

「そうだったんだ」

「はい」


 道理で惣一郎は私と一線を越え無かったのだ。惣一郎は私の肢体の向きを変えると強く強く抱き締めた。


「私は七瀬の顔を愛しています」


 それは小さく掠れた声で聞き間違えたのだろう。惣一郎は私の事を愛していると言った。それだけで十分だった。

 そしてまたあの気配を感じた。惣一郎の肩越しにはためくカーテンの向こう側、胡桃の樹の下でハーフアップに結い上げた黒髪、白い日傘を差した大島紬の着物を着た女性が手招きをしていた。

木陰からいつも奥さまがこちらを見ていました

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