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「朝の8時」
アルゲ家はこの時間から1日が始まる。
「ママ。おはよ。」
この子はサーラ・アルゲ。
この物語の主人公である。
「あら。おはようサーラ!」
この人はサーラの母、シャット・アルゲ。
「母さん。もう行ってくるね!、、、時間がない!!!」
焦ってるこの人はサーラの兄、バルトット・アルゲ。
「こら!!バルトット!!時間がないなら時間にゆとりを持って起きなさい!!!!!」
朝から怒鳴ってるこの人はサーラの父、ブルテッド・アルゲ。
一家の大黒柱だ。
至って普通の家族。
仲良しな家族。
「全く、、バルトットったら…」
母親であるシャットの手元にはバルトットが置いていったお弁当。
サーラとバルトットが通う学校は小さな村であった名残で、同じ学舎に6歳から18歳の少年少女たちが通っている。
学校給食というものはなく、みんなそれぞれが母親の愛情のこもったお弁当を持っていっているのだ。
「ママ。私が持っていくよ。」
「あら、そー?」
サーラはシャットから大事そうに自分の分とバルトットの分を受け取った。
「12歳のサーラと兄であるはずの17歳のバルトットではサーラの方がしっかりしてるな〜」
父、ブルテッドはまだ出勤までには余裕があると、タブレットで新聞を読みながらコーヒーを啜っていたのだ。
ブルテッドは毎朝必ず繰り広げられるこのやりとりに家族の温かさを感じていた。
「ズズッ、、、(家族っていいな。いつまでも続いてほしい事を切に願うよ。)」
ブルテッドがそんなことを思っている時、サーラが登校の準備をしていた。
バルトットとサーラでは授業時間が違うため、登校時間もまた違う。
17歳で高校2年生のバルトットにとって朝の8時とは1限目が始まる15分前。
アルゲ家から学校までは歩いて20分かかるため、完璧に遅刻である。
対して12歳で中学1年生のサーラにとって朝の8時とは朝のホームルームが始まる45分前。
中学生の1時間目は9時から始まるのだ。
「じゃ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!気をつけてね〜!バルトットにお弁当渡してね!」
バルトットが焦って出ていった10分後サーラも出発した。
子供たちは学校にいったため、家に残るは母のシャットと父のブルテッド。
母、シャットは専業主婦でもあるが、ヴォーゲット村ではなぜか有名人。
主婦層に人気な民芸教室と料理教室を定期的に開いたり、共働きで忙しいご両親に代わって子供たちの面倒を見る所謂寺子屋のようなものをやっていたり、動けない老夫婦の介護をしたりと他にも数えきれないほどの事をやっていた。
そのおかげか、ヴォーゲット村でサーラが歩いていると知らない人からも声をかけられる。
「あら?シャットさんとこの娘さん?いつもありがとね」
「え?あ、はい。」
そんな母親のことをサーラは自慢に思っていた。
大好きなママの名前をみんな知っているんだ!と。
サーラにとってシャットは誇りであったのだ。
父、ブルテッドはヴォーゲット村の役場で働いていた。
出勤の時間にゆとりがあったのは高い位の役職を持っていたためだ。
ブルテッドもシャット同様、ヴォーゲット村ではなぜか有名人だ。
ブルテッドは役場での椅子に座ってカタカタとパソコンを打つことが嫌いなのだ。
ヴォーゲット村の村人たちが住みやすいようにタブレットを持ち、村に欠陥がないか歩き回っているのだ。
その一生懸命な姿を村の人たちが毎日目にするため有名だったのだ。
父に似ているバルトットは必ず声をかけられる。
「ブルテッドさんとこの兄ちゃんか!いつも親父さんには助かってるよ!ありがとな!」
「いえいえ!父さんが好きでやっていることなんで!」
そう。ブルテッドは好きでやっていること。
役場でやる仕事を早急に終わらせ、村を周ってる。
だから高い位の役職を持っているのだろう。
1日はあっという間に過ぎ、学生たちは家に帰る時間となった。
「バルトット!お弁当食べた?」
「食べたよ!!サーラ!マージでいつも助かる!!」
アルゲ家の兄妹はいつも一緒に帰る。
その日学校であったこと、バルトットが遅刻して先生に怒られたこと、今日のご飯はなんだろうねと空になったお弁当箱を大事そうに抱えるのだった。
「ただいま!!」
いい匂いがする!今日はハンバーグかな?とサーラがニコニコしていた。
大事に抱えていたお弁当箱をシャットに預けるときぐつぐつと煮立っている煮込みハンバーグが見えた。
「やったぁ!」
煮込みハンバーグはサーラの大好物。
シャットが作るどの料理の中でもダントツで好きなものだ。
「もうすぐできるから、テーブルの上綺麗にしてね」
母の仰せの通り、テーブルを片付け、ナイフとフォークを綺麗にセットしていた。
「わぉ、、」
この準備万端さはバルトットも驚きだ。
その後、ブルテッドも帰宅し、4人で食事を囲んだ。
「あのね、今日教わった内容が難しかったの。先生が、わかる人手あげてって言ってそこで私だけ手があげられなかったの。」
こんな些細なことでもアルゲ家は食事をしている時に相談し合うのだ。
そのほとんどはサーラの悩み。
小さい頃から泣き虫で、誰かに引っ付いていないとすぐ泣いてしまう。
少し大きくなってもそれは健在で、誰もが思う小さな悩みはサーラにとって泣いてしまうほど大きな悩みになる。
そんな時に必ず慰めてくれるのは母のシャットだ。
「大丈夫よ。大丈夫」
たったこれだけ。
だが、これがサーラにとっては魔法の言葉だった。
解決方法になんてなっていない。
でもサーラもバルトットも母親の「大丈夫」だけが救いだった。
食事も終わり、しばらくしたら後は就寝。
シャットは朝5時には起きて家族全員の分のお弁当と朝ごはんを用意する。
23時に就寝なんてシャットにとっては本当は休めていないと思っているが、起きている時に家族と笑い合っているのが楽しいし、お弁当や朝ごはんを朝から作るのも楽しいから辛いなんて微塵も思っていなかった。
そして、それが普通だった。
そう。普通の日常だったのだ。