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「あ、そろそろ営業の方が本格的に始まりますので、わたくしどもはここらで…。」


「営業?」


「ああ。俺たちは青雲屋の接客を担当している。それでは、お客様、ごゆるりとお過ごしくださいませ。何か御用がありましたら、本館の従業員にお申し付けください。では、失礼しました。」


素の黒蓮と営業スマイルモードの黒蓮が入り混じっていて、面白い。


二人が部屋を出て行くと、急に訪れる静寂ー。


先ほどまでの騒がしさがまるで嘘のようだ。


ここは、常世。


嘘みたいで現実味がないけど。


一回、頭の中を整理してみよう…。


朝、受験のお守りを買いに奇妙寺に行って…、


神主さんと話して…


鳥居に行って…


鳥居に行ったら、景色が変わって…


気づいたら隣に神主さんがいて…


ん?


神主さん…?


何か、引っかかる。


あの彼岸花と鳥居と暗闇しかない空間で、彼岸花に沿って歩くように神主さんに言われて…。


あれ、もしかして、神主さんってこの世界の事を知っているとか…?


いや、そんなことないか。


いくら、神主さんが怪しげな雰囲気出してるからって、この世界の事、知ってたわけないよね。


え、でも。


鳥居に行くように言われたのも、神主さんだし、


第一、神主さんは鳥居の周りで景色が変わったときも、驚いてなかった。


というか、鳥居に行くように言われたとき、神主さんは本堂の石畳を箒で掃除していたのに、いつ、鳥居の所に来たのだろうか。


本堂と、鳥居の場所は離れているし、私が鳥居に向かってた時は、神主さんはいなかったのに。


考えれば考えるほど深まる謎。


というか、これって現実なのかな…


いきなりここが人間界じゃないといわれて信用する人なんていないよね。


もしかしたら、まだ夢の続きを見ているのかもしれない。


そう考えたら、全てつじつまが合う。


奇妙寺にいたときは、朝だったのに、ここでは窓の外は暗いし、夜だ。


時間の進み方がおかしいし、夢ならば奇想天外なことも全てあり得る為、納得できる。


そうか、夢か。


コンコンコン。


「あ、はい…」


誰か来たようだ。


「失礼します、わたくし、女将を務めさせていただいております、紅葉と申します。」


扉から鈴のような、凛とした美しい声が聞こえてきた。


「調子はどうでしょう、右京 千歳様。支配人様がお呼びでございます。」


扉の向こうには、美しい女の人がいた。


「支配人様…?」


「ええ。ご案内しますので、どうぞこちらに。」


「はい…」


支配人様…?


先ほど、黒蓮と白蓮の口から出てきた「総支配人」と「支配人」では何が違うのだろうか。


紅葉という女の人についてゆく。


「凄い…」


思わず、そうつぶやいてしまう程、廊下は美しく、高級感が漂っていたのだ。


ところどころに置かれている和風のオブジェも、オレンジ色の温かい照明も、生け花の作品も、全てが洗練されていて、高級な旅館というような雰囲気がある。


「当旅館は、老舗の旅館でして、ここ、常世一の長い歴史を誇る宿なのですよ。」


「そ、そうなのですね…」


老舗の旅館…


凄い…。


老舗の旅館というと、値段が高めでお金持ちが宿泊するというようなイメージがあり、一晩泊るためだけに、贅沢をしようとは考えなかった私の家庭は、家族旅行では老舗なんかとは程遠い、普通のホテルまたは旅館に泊まっていた。


だからか、目にするものすべてが珍しく、きょろきょろと見回してしまう。


「当旅館は、いくつかの建物に分かれていまして、わたくし共が現在います、この棟はですね、「霞桜棟」という棟でして、当旅館、青雲屋で圧倒的な景色の良さ、そして格式の良さを誇る棟なのでございます。」


「霞桜…。」


美しい名前。


古風で、上品な名前だ。


「霞桜の花言葉はご存じですか?」


花言葉…?


「いや…わかんないです。」


「霞桜の花言葉には、純潔、美麗、などがあり、あなたに微笑むなどの意味も込められているのですよ。」


「へぇ…。」


凄い…。流石、高級旅館の女将さんをされてるだけあって、知識量がとんでもない。教養があって、美人で、女将さんになれるほどの高いカリスマ性があって…。うらまやしいな…


いくつか角を曲がって、進んでゆく。


この旅館の構造を全て把握してるわけではないけど、少し廊下を歩いただけでわかる。


この旅館、とんでもなく広い気がする。


まず第一に、廊下の幅が広く、長い。


通常の旅館の2,3倍はあるのではないだろうか…。


しかも、いくつか別棟があるそうで、そこから規模が大きいのがうかがえる。


こんな旅館に宿泊できることなど、生涯でもう二度とないだろうから、これが現実でなく、夢の世界だとしても楽しんでおこう。


「支配人様がいらっしゃるお部屋はですね、少しお部屋から離れているのですが、大丈夫ですか?先ほどまで、体調を崩していらっしゃったと黒蓮と白蓮が言っていたので…。体調がよろしくなければ、いつでも言ってください。」


「あ、ありがとうございます。」


黒蓮と白蓮…。


この一瞬の間の内容量が多すぎて、先ほどまでの事が、凄く昔のように感じられる。


「黒蓮と白蓮は、このお宿の従業員だと聞いたのですが、仲居さんなのですか?」


「黒蓮と白蓮ですか?ああ、あの二人は仲居ではなく、支配人見習いですよ。仲居は他に大勢おりますので。」


「支配人見習い…?」


「ええ。一般的には支配人とは、宿を取り締まる代表のような存在で、宿の営業から経営まで、全ての役職にかかわっている、いわゆる、宿の顔というような役職ですが、当旅館、青雲屋の制度は少し独特で、支配人という役職の上には、総支配人と呼ばれる役職がございます。」


「へぇ…総支配人…。」


「ええ。当旅館の総支配人様は、当旅館、青雲屋をの創立者なのですよ。常世の世界でも有名で、常世に住まう者ならば、総支配人様の事を知らない人はまずいないでしょう。」


「そうなんですね…どんな人なのですか?」


「難しい質問ですね…。あまり素の姿をお見せにならない方なので…。でも、凄くミステリアスなお方です。」


「そうなんですね…。」


階段をいくつか上がり、最上階まで行くと、大きな扉があった。


「こちらです。」


コンコンコン


「失礼します。女将の紅葉です。右京 千歳様をお連れしました。」


「どうぞ。」


紅葉さんは、和風の雰囲気が漂う扉を開けてくだった。


「では、わたくしはここで。」


「えっ…、あっ…。」


行ってしまった…。


と、とりあえず、中に入ろう…。


「失礼します…。」


広い…。


そして、とんでもなく高そうなものばかり…。


すると、奥から声が聞こえた。


「貴方が、右京 千歳さんですね?」

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