「どうしてこうなったのだ……!」
合衆国のホワイトハウスにて、ハリソン大統領は頭を抱えていた。事の発端はティナ達がメッセージを残して急遽アードへと帰ってしまったことから始まる。内容としては、本星からの呼び出しが理由とされている。
しかし、急に客人が帰れば何か不適切な対応があったのかと不安になるのは当然と言えた。だが、理由を改めて確認しようにも相手は遥か十万光年彼方である。
地球側は連絡する手段を持ち合わせていない。もちろんゲートを介した連絡手段はあるものの、あまりにも高額なためティナが設備を地球に用意できないのも要因のひとつである。
この事態は、合衆国議会で野党が好機とばかりにハリソン大統領を攻撃する材料となった。彼等はハリソンの失策として強く追求し、そして糾弾した。
更に各国、特に合衆国と友好的ではない国は激しく糾弾した。何せ軌道上にある巨大で目立つプラネット号が忽然と姿を消したのだ。秘匿できる筈もなかった。
ここでティナが事前に伝えていれば合衆国としても備えることが出来たが、残念ながらティナはその辺りを失念していた。
困り果てたハリソン大統領ではあるが、最悪の事態については心配していなかった。これまでの交流でティナが不義理を働くような人物ではないと確信できているのもあるし、何よりも彼女と最も親しい人物が太鼓判を押しているのが支えであった。
「おそらく本星で何か動きがあったのでしょう。万が一交流を絶つような指示ならば、ティナは前もって伝えてくれる筈です。我々の対応が彼女を不快にさせたとは思えませんし、もし本星で交流の終了を告げられたとしても何らかの手段で教えてくれるでしょう」
我らが異星人対策室室長、ジョン=ケラーである。時間が経過して効果が薄れてきたのか、肉体はそのままだがデー◯ン閣下のような髪は抜け落ちて再び頭部に乾期が訪れたが本筋に関係はないので割愛する。
ティナの最も信頼する地球人である彼の言葉は、合衆国上層部を安心させるだけの説得力があった。それ故にハリソン大統領を中心に合衆国政府は、内外からの批判や糾弾をのらりくらりと躱しながら時間を稼いだ。
何せ、ティナ達が戻るには最低でも半月の時間が必要だからである。
ハリソン達は一致団結してこの困難な時期をなんとか乗り越えた。予想通り半月後にティナ達が地球へ再度来訪。統合宇宙開発局からプラネット号を観測したとの報告を受けて、皆が狂喜乱舞したのは言うまでもない。
それだけではなく、世界中で注目されていた東南アジアの小国で発生した大規模な森林火災の解決にティナ達が尽力してくれたとの知らせは、彼等の心を暖めた。更に。
「なに?ティナ嬢以外にもアード人が居るのか?」
「はい、大統領。現地大使館や救助隊からの報告では、ティナ嬢の妹を名乗るアード人の来訪を確認したと」
「それは喜ばしいな」
「ええ、ティナ嬢以外のアード人が来訪したとなれば、我々合衆国とアードの交流は着実に成果を挙げていると内外にアピールする好材料となります」
「うむ、大々的に公表しよう。報道官、記者会見の手配を頼む。可能ならば、本日中に執り行いたい。マイケル、スケジュール調整を任せるぞ」
「はっ!」
「お任せを、大統領」
ティナ以外のアード人が来訪。その知らせは苦しい立場であったハリソン達の成果を大々的にアピール出来るものであり、二重の意味で彼等は感謝した。
そう、三日後に発生した大事件までは。
そして冒頭の大統領の言葉に戻る。
「火消しは不可能です。全てのメディアが一時的に乗っ取られてこれらの情報を垂れ流しています。更に、インターネット上では恐ろしい勢いで拡散されています」
世界中の主要メディアが乗っ取りを受けて、逃げ出した小国首脳陣の不正やティナに対する強欲な要望などが音声や映像付きで垂れ流されたのだ。
この内容は全世界で凄まじい非難を招き、亡命先であるヨーロッパ諸国は世論に押される形で非難声明を出し、彼等に速やかな退去を通告。最早彼等に居場所は無い。
「CIA長官。仮定の話だが、同じことが我々にも可能かね?」
「充分な時間と設備、人員を用意してくだされば……いえ、それでも非常に困難かと。全世界で同時に乗っ取りを行うなど不可能に近いです。まして、この証拠の数々を三日以内に集めるなど不可能です」
ハリソンの問いかけにCIA長官は額の汗を拭いながら答える。
それを見て、会議室の片隅で空気に徹していたジョンが口を開く。
「大統領、直ぐに我が国も非難声明を出してください」
「ケラー室長、それはもちろんだが……今すぐにかね?」
「はい。間違いなくアリアの仕業ですが、指示した人物はティナでもフェルでもありません」
「……妹を名乗る新たなアード人……かね?」
「おそらくは。ティナは間違いなくこんな手段は取りませんし、スーパーマーケットの件から見て、フェルならば直接的な手段を選ぶ筈。
ですが、今回は地球全土を巻き込みました。メディアを支配し、民衆を煽り、そして為政者を突き動かした。まだ幼い彼女達にこんな真似が出来るでしょうか?」
「アリアが無断で行った可能性は?」
「断言は出来ませんが、可能性は限りなく低いかと。これまでアリアがアクションを起こす際には、ティナやフェルの承諾を得て行っています。それに、今回の件は直接ティナに危害が加えられたわけではありません。
ティナならば笑って許すでしょう。そしてティナが許せば内心はどうあれフェルも動きません」
「ふむ。ケラー室長、何が原因だと思う?」
「暴露されたティナと亡命した首脳陣とのやり取りのデータを見る限り、彼等はティナの善意を悪用しようとした。おそらく、その行為が引鉄だったかと」
「その結果が、この凄まじい報復か。マイケル、どう思う?」
「この報復で彼等はもちろん、彼等と取引をした人物は全員社会的な地位を失うことになるでしょう……」
「恐ろしいものだな……」
ざわめく中、再びハリソンはジョンへ視線を向ける。
「ケラー室長、これは警告と判断して構わないかな?」
「……そう考えても宜しいかと。この暴挙に対する各国の反応も見ているでしょう。早速接触するため現地へミスター朝霧を派遣しました。日本側の意思もありますが」
「構わない。直ぐに非難声明を出そう」
「ありがとうございます」
新たなアード人の来訪は、彼等に幸運と胃痛をもたらした。だが、本人爆誕による追撃が待ち構えているとは知るよしもなかった。
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