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shknkのバレンタインです。
少しknbr要素があります。
スーパーに訪れて真っ先に目に入る、色とりどりで可愛いたくさんのチョコレート。制服姿の女子たちがこぞって集まるその場所は、バレンタインのコーナーだった。
俺も今までなら自分のチョコを買いに来ていたところだが、今日は甘いチョコなどに用事は無い。
少し奥のお菓子売り場まで行き、甘さ控えめのビターチョコを手に取った。
スマホに映る、本日の日付。バレンタイン当日だ。
俺の通う学校はお菓子の持ち込み禁止だが、それでもこの日はやっぱり、ほとんどの男女が挙動不審になっていた。
様子がおかしい友人たちに絡まれながら授業を受け、ついに放課後になった。
学校でチョコを渡すことはできないが、学校の外ならいいという謎のルールがいつのまにか生まれていて、チョコを渡したい人は皆放課後を狙うのだ。
モブ「あの、なかむくん!」
nk「ごめん、時間ないから!」
何度か女子に話しかけられるが、それに構っている余裕も興味も、今の俺には全くない。
申し訳ないとは思いつつも全て断って、ある人を探す。
今年は俺にも、チョコを渡したい人がいるんだ。
nk「シャケ!」
やっと見つけた彼は、大勢の女子に囲まれていた。
俺の声が届くこともなく、焦りと不安に襲われる。
もたもたしていると、シャークんが誰かに取られてしまう。だが、男の俺なんかに好意を寄せられても彼は嬉しくないんじゃないか。
考えれば考えるほど、どんどん自分が小さくなっていくような気がして、彼が手の届かない位置に行ってしまうような感じがして、滲んだ涙を振り落とすようにその場から走り去った。
nk「は、はぁ、はぁっ…ぁ…」
nk「ぁ…あぁ…ぅ“〜〜…ヒグッ」
自室に籠って息を整えると、今度は涙が溢れ出てくる。
渡せなかった。話すことすらできなかった。
投げ出されたカバンから覗く、綺麗にラッピングされたチョコレートに、何故だか怒りが沸いてきてしまう。
いっそのこと捨ててしまおうかと思ったが、頑張って手作りした気持ちを思い出すとあまり気は進まなかった。
スマホを手探りで拾い、電話のコールを鳴らす。
電話はすぐに繋がり、俺の家まで来てくれることになった。
息を切らして駆けつけてくれたジャージ姿の彼、きんときは、俺の唯一の相談相手だ。
俺は、顔を上げずに一言呟いた。
nk「チョコ、渡せなかった…」
へらっと笑ってみせる俺を強く抱きしめるきんとき。
背中をさすられるうちに笑顔は崩れて、部屋には俺の嗚咽と鼻を啜る音だけが響いていた。
気づけば日は沈み、辺りは薄暗くなり始めていた。
kn「…落ち着いた?」
nk「うん。ごめん、きんとき…」
kn「俺のことは気にしなくていいから、良ければなかむの話聞かせてくれない?」
nk「…うん。」
シャークんが女子にモテてることなんてわかっていたけど、実際目の当たりにすると苦しくてたまらなかった。男のくせに男に恋するなんて、最初から間違っていたんだ。
色んな感情でぐちゃぐちゃになりながら、そんな話をし続けた。
nk「それで、チョコなんて渡さない方がいいんじゃないかって…」
nk「シャケは俺のことなんか好きじゃないから…」
kn「…そっか。」
kn「なかむはそう思ってるんだね。」
nk「…きんときはどう思う?やっぱり気持ち悪いかな。」
我ながら酷い質問だと思う。
今まで相談に乗ってくれたきんときが、今更そんなこと言うわけもないのに。
kn「うーん…俺、貰ったよ?男から。」
nk「え…?」
想像の斜め上な答えが来て、驚愕のあまり言葉を失ってしまう。
kn「ぶるーくって知ってるでしょ?ほら、隣のクラスの。」
nk「ああー…って、その、どうだったの?」
nk「男からチョコ貰って…みたいな。」
kn「…すっっごく、嬉しかったよ。」
kn「男とか女とか、正直全然関係なくて。ただ、俺のことが好きで、行動に起こしてくれるっていうのが本当に嬉しかった。」
顔を少し赤らめて、照れくさそうにそう話すきんとき。その言葉には嘘なんかなく、心から幸せなんだろうというのが俺にも伝わってきた。
kn「あ…ごめん。なかむが悩んでるのに惚気聞かせちゃって。」
nk「いいよ。その代わり、後で詳しく話聞かせろよ!」
2人で笑い合っていると、突然インターホンが鳴った。
目が真っ赤に腫れた俺を気遣って、きんときが見に行ってくれるそうだ。
しばらく待っていると、誰かがドアをノックした。
きんときが戻ってきたのだろう。
返事をすると、ゆっくりとドアが開いた。
nk「あ…」
shk「…なかむ。」
ドアの先に見えたのは、小さな紙袋を両手一杯に提げたシャークんの姿だった。
nk「シャケ…」
shk「…泣いてたの?」
nk「ぇ…いや、違くて…」
必死に誤魔化そうとするも、混乱した脳は上手く回らない。
荷物を置いたシャークんが、こちらに近づいてくる。
shk「これ…さ。」
シャークんの指差す先には、俺のカバンから飛び出たチョコレートがあった。
リボンの間に挟まれたメッセージカードには、しっかりと彼の名前が書かれている。
nk「ち、違う!これは、その…」
shk「くれるんじゃないの?」
nk「いや、だって…シャケはいらないだろ、そんなの…」
nk「ごめん、ほんとに…迷惑だよな。」
shk「そんなわけないだろ!」
nk「気遣いなんていいよ。もう口聞いてくれなくたっていい。」
焦りのあまり思ってもいないことを言ってしまう。
こんなことを言いたんじゃないのに。シャークんを突き放すつもりなんてないのに。
shk「意味わかんねぇし、話聞けよ!」
nk「…何。」
shk「その、悪い。急に入ってきて、なかむの気も知らずに…デリカシーなかったよな。」
shk「きんときから聞いたんだよ。チョコのこととか。あんまり詳しい話は知らないんだけどさ…」
shk「とにかく、なかむが俺にチョコ準備してるって聞いて、舞い上がっちゃってさ。だから、その…」
nk「ま、待って!」
話しながらだんだん耳まで真っ赤になっていくシャークん。
これから起こることは少し察しがついたが、どうせなら俺から言いたくて、床からチョコの箱を拾い上げた。
nk「シャケ…シャークん。」
nk「好きです。付き合ってくれませんか…!」
チョコを差し出してそう言った。
緊張で言い回しがおかしくなってしまったが、そんなことも気にならないぐらい心臓がうるさい。
恥ずかしさのあまりぎゅっと目を瞑ってしまったそのとき、チョコを持っていた俺の両手が少し軽くなった。
恐る恐る目を開けると、シャークんは小さな箱を大事そうに手に包んで微笑んだ。
shk「…喜んで。」
再び崩れる俺の涙腺。しかしさっきまでのような苦しさはどこにもなく、幸福感で満たされた涙だった。
shk「じゃあ、またな。」
shk「ごめんな、急に押しかけてきて。チョコ断りきれなかったからなかむにあげようと思ったんだよね。」
nk「甘そうなのばっかだったもんなw」
nk「…じゃあホワイトデーはちゃんとシャケからのお返し待ってるから。」
shk「うん。」
nk「好きだよ。シャケ。」
shk「俺も、大好き。」
短く鳴るリップ音。
薄らと頬を染めて笑う彼は、後ろの空で輝く月のようだった。