女神様の繋げてくれた、光の勢いにのって押されるように飛び出した。
「ピーッス!お久しぶりっす」
そこには、ゲームをしていたであろう葛葉くんと遊びに来ていたであろうりりむちゃんがソファに並んで座っていた。
「ガックン!!」
「がっくん!?」
ずはくんとりりむちゃんが同時に振り返り俺の名前を叫んだ。
唐突に現れた俺に驚いているようだった。
「びびったぁ」
ずはくんが胸に手を当てる
「急にきてごめんな、遊んでる途中だったか」
両手を合わせて、謝りながら2人の方へ近づいた。
「がっくん、どうしたの?葛葉の家に来るなんて珍しくない?」
りりむちゃんが不思議そうにしながら俺をソファに流れるように座らせる。
「えーっと、ですね。刀也さんが亡くなったのでそれの報告と俺が元の場所に帰るので挨拶をしておこうとおもって」
一瞬ずはくんが顔を強ばらせ、少し寂しそうな顔をした。
りりむちゃんは、俯いていた。
「もちさんもついに逝ったかー」
ずはくんが毛程も気にしないような声でわざとらしく言っていた。表情はよく見えなかった。
「寂しいね、いいむ、もう一回けんもちに会っとけばよかったなぁ」
りりむちゃんが髪を指に絡ませた。
「そうっすね」
暗い沈黙が流れる。
「しぃしぃもいなくなっちゃったし、どんどん少なくなっちゃうね」
りりむちゃんが、手元を見ながら哀悼するように言った。
「で、がっくんは帰るんすか」
スバくんがゲームをしながら聞いてきた。
懐かしいゲームをしているVALORANTか。俺はそういうゲームをしないから、やったことないけど。
昔叶くんも配信でやってたな、懐かしい
「りりむ、冷蔵庫からいちごミルクだしてきて、ついでに茶も」
「もー、しょうがないなぁ」
りりむちゃんが、立ち上がって冷蔵庫の方へ向かった。
りりむちゃんが座っていた反対側に、いつも持っていたピンク色のうさぎのぬいぐるみが置いてあった。
ぬいぐるみには何度か縫い直した後があった。
「そうっすね。挨拶が終わったら元の場所に帰ります」
「誰のとこ回って来たんすか」
ゲーム画面を見ながら話し続ける。
りりむちゃんがお茶といちごミルクを持ってきてくれた。
「はい、どーぞ!」
ずはくんにいちごミルクを渡し、俺にお茶を渡して、真ん中にちょこんと座った。
「ありがとう」
持ってきてくれた暖かいお茶を膝の上に乗せて手を添えた。
「回ったのは、ベルさんと山神さんとお女神様のところですね。毎度お茶やお菓子をくれた」
「みんな元気そうだったぜ」
ずはくんがふーんと軽い相槌を打って、別のゲームに切り替えた。
「もう、挨拶できる人も少ないもんね」
りりむちゃんが、明るいトーンで話し始めた。
手には、まだ白い湯気が出ている暖かい紅茶のマグカップが握られていた。
マグカップは、昔にグッズで出していたピンクと白のりりむちゃんが描かれたものが使われていた。
「いいむ、ずっーとしぃしぃのこと待ってるの、けどね、しぃしぃ来てくれないの」
寂しそうな声。
りりむちゃんが顔を下に向ける。
「しぃしぃ、逝っちゃう時に言ってた。また、いいむと葛葉達に会いに来るって、しゃしゃにも会える、ひまたんにも会えるよって」
「いいむの頭優しく撫でてくれたの」
声が少し震えていた
握っているマグカップに力が入る
「そうか…。早く来ると…いいな」
りりむちゃんの頭を軽く撫でた
りりむちゃんは、軽く頷いた
「いつになったら、来てくれるのかなぁ」
りりむちゃんは、笑顔でこっちを向いた
りりむちゃんの気持ちが痛いほどわかった。
葛葉くんもずっと叶くん達がまた来てくれることを待ってるのだろう。
俺だってむぎっち達が来てくれるのを待ってた。
でも、そんなの神様の気まぐれでしか起きないし、いつになるかも、自分が生きている間に会えるかもわからない。
どこでまた命を灯すのかさえも。
「あと、どのくらい待てばいいんだろうなぁ」
りりむちゃんの目から一粒の涙が零れ落ちた。
「いいむ、もう、たくさん待ったのになぁ」
ずはくんがゲームをする手を止めた。
「りりむ」
りりむちゃんが、泣いて充血している目をゆっくりとずはくんに向けた。
「もう、、諦めろ」
慰めるかと思っていた。
彼は彼女に現実を間接的に突きつけた。
彼女は、涙が溜まった目を大きく見開いて驚いた表情をしていた。
彼女も予想外の言葉だったのだろう。
「な、んで、くずは、なんで、そんなこというの。今までずっと一緒に待ってたじゃん」
途切れ途切れに言葉を繋ぎ、捻り出すようにか細い声をだしていた。
彼女の目から大粒の涙がもうひとつ、ふたつと溺れおちた。
部屋の照明に照らされた水は、宝石のように見えた。
「俺たちは、待っただろ。何年、何十年、もう何百年待つことになる。」
彼女から目を離さずに彼の言葉が現実をゆっくりと伝えていた。
「そうだけど、でも、しぃしぃもねぇやんもレインもしゃしゃもコウくんもみんな、会えるって」
彼の言葉を全て否定するように、前のめりになりながら旧友の名を出した。
俺もそんな現実受け入れたくなかった。
「そうっすよ、ずはくん。待っていればいつの日か会えるぜ。何百年でも、待とう」
りりむちゃんが小さい手をぎゅっと握り、小さく頷く。
「そうだな。俺もそうしたい、けど、俺らにも寿命はあるだろ。俺もりりむもがっくんもドーラやレヴィさん、山神さん、りつきんさんだって」
いつまでも待てるわけじゃない____
彼は苦虫を噛み潰したような表情をした。
彼だって、受け入れたくなかったんだ。
こんな現実。
苦しい現実、寂しい現実、
俺とりりむちゃんは何も言い返せなかった。いや、言うことができなかった。
「運命は、必然なんじゃなくて偶然からできてる。俺は何十年も叶を捜して色々な所を回ったよ。それでも、見つけることができない。今までに、何度もこの工程を繰り返した。」
記憶を辿る。
「大体は偶然だ。一番最初の叶は、たまたま俺が休んでいた場所で、次は、森の中。今回は、配信者としてだった。そして、あいつはまた俺の前から消えていった」
いちごのパックを開けてストローを刺す
白く細く、鋭い人間に似て似つかない吸血鬼特有の手
そんな彼の手にも細かいシワがあった
「そんなもんだ」
ストローに口を付ける。
桃色の液体が白いストローで吸い上げられていく。
「それでも、りりむは待つよ。ずっと待ってる。」
強い決心が声になる
りりむちゃんの肩に軽く手をのせる。
「俺も。」
りりむちゃんが俺の方を向いた。
涙はもう引っ込んでいた。
「いつなるかわからない、偶然かも必然かもしれないけど、俺は皆を毎日捜したいぜ」
ストローの桃色がパックに戻る。
ずはくんの口からストローがはずれる。
「いつまで経ってもわかんない約束も破りたくなる時があるし、あの頃に戻れたらなんて叶わないことを思う日もある」
「そのくらいその人たちのことが大切で大好きだったってことなんすよ、きっと」
真っ直ぐな思いを言葉にした
本当はずはくんも信じて待ちたいんだ。
「どんなに離れてても、りりむが覚えてる限りしぃしぃ達も生きてる。葛葉とも100年先も一緒にゲームしてたいし話してたい」
それに乗っかるようにりりむちゃんも言葉を繋いでいく。
「葛葉が死ぬ時は、りりむがそばにいてあげるし、りりむが死ぬ時は葛葉がそばに居てくれるでしょ?」
「みんなが帰ってきた時に笑顔で出迎えるんでしょ?おかえり!って、また、ゲームしてお喋りするんでしょ?」
ずはくんの目が揺れていた。
りりむちゃんの目も揺れていた。
「そうっすよ、諦めちゃうなんてずはくんらしくないぜ」
そう言うと、ずはくんが口を開いた。
「俺らしく、ない、か。そうだよな。あいつらに約束したもんな。待ってるからいつでも来いって」
「俺がいないとあいつら帰るところないし、約束果たせねぇもんな」
ずはくんの言葉が温かみを増していく。
そう、この温度こそずはくんだ。
決して諦めない、相手のことを真っ直ぐに信じる彼だ。
彼も彼女も俺もみんな諦めかけていたから、彼の言葉に揺れていたんだ。
いつになるのか、途方に暮れる日々の連続になるとどうしても疲れてしまう。
いつまで信じていればいいのだろうと、何度も何度も自問し続ける。
その度に、目を細めたくなるような懐かしい思い出の日々を振り返り、泣きたくなるような戻りたくなるような衝動にかられてきた。
「きっと、大丈夫。また、寂しくなっても思い出が寂しさをゆっくり埋めてくれるよ」
りりむちゃんが胸に両手を当てて、目を閉じた。
俺も胸に手を当て、ゆっくり目を閉じる。
きっと、葛葉くんも目を閉じている。
「目を瞑ると綺麗に見えるの。あの頃の思い出と友達の顔が」
「そうっすね」
「あの頃、楽しかったよな。毎日のようにあいつらとゲームして、馬鹿みたいなことして応援してもらって、ライブして歌うたって。引退した時は、後輩も火畜も泣きながら送り出してくれて。」
自分が引退した時のことを思い出す。
直接顔を見れない代わりに、沢山の文字が埋もれるくらいに届けられた。
相変わらず、金曜日には早起きをしてご飯をたべている。
「そうだな」
暗い中の思い出から目を覚ます。
「探す側も大変だよね」
りりむちゃんとずはくんも目を開き、湯気が溶けた紅茶を1口飲んだ。
俺も続いて飲んだ紅茶は冷えていた。
「場所が限られてないからな」
「そうそう、りりむ飛び回りすぎて羽痛くなったもん」
小さな羽を動かしながら言う。
「俺も」
ずはくんがジャージのチャックを開いて、羽を出し言う。
「大変すね」
俺は羽を使わないから、わからないけど。
「がっくんは、どうやって探すんすか。飛べるんすか?」
ズズズと音をさせながら残りが無くなったいちごミルクパックを掴みながら問う。
「いや、俺はある程度の範囲をちょちょいと映し出してから、普通に浮かんで探してるぜ」
よくわからないと言いたげな表情をりりむちゃんがしながらも、あまり気にならないようでもう一度紅茶を飲んだ。
「いいっすね〜、俺ももうちょい魔力があれば良かったんすけど」
「いいむも〜」
「お前は無理、弱いだろ」
「そんなことないしぃ〜」
そんなこと言って笑いあった。
そんな笑いあって話すのも久しぶりな気がした
最近までは、刀也さんがいて2人で話してたのになー。
やっぱ仲間が減るのは寂しいし、この2人にも俺の事を見送ってほしい。
生きていてほしい。
けど
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作者 黒猫🐈⬛
「まどろみの中で」
第三話 赤い羽根の2人
※この物語は、ご本人様と関係はありません
※この物語の無断転載等の行為はお控えください。
※改善点や感想がありましたら、コメント欄にてよろしくお願いします。
続く
コメント
7件
初コメ失礼します。最近読み始めました!ガチ泣きしました… ほんとに好きです!続きいつまでも待ってます!
読んでいたらいきなり前が見えなくなったんですが!!! 最高に好きでした╰(*´︶`*)╯♡
ぅぁぁあぁぁ、、、、涙がァァァァァァァ、、、