「あー…気持ちよかったぁ…」
洗面室で顔を洗っていたところへ、腰にタオルを巻いた姿の聖也がバスルームから出てきてギョっとした。
聖也がうちに来て1週間。
朝シャワーが定番らしいが、ここで出くわすのは初めてだ。
「吉良さん、おはようございますっ」
「あぁ、おはよう」
挨拶を返しながら、その姿を目の端でもう一度見る…
…なんだかすごいぞ肉体美。
筋肉なら、俺だって程よくついている自覚はある。正直俺も、半裸になればこのくらいの色気は出るんじゃないかと思うものの…
確かまだ…18だったよな。
なのにこの、匂い立つような色気はなんだ?
「んー…髪伸びたなぁ…」
気づかれないようにチラ見したのはバレてない。聖也は濡れ髪を手櫛で整えながら、俺の横で鏡を覗き込んだ。
「吉良さんてぇ…髪、どこで切ってるんですかぁ?」
「俺は、青山の方で」
「そこって俺も行けますぅ?」
「まぁ…紹介すれば、予約は取れると思うけど」
チラリと時計を確認して、俺は聖也より先に洗面室を出た。
すると聖也も追いかけてきて、また質問を繰り返してくる。
「ねぇねぇ…そこって女の美容師さんいます?」
「どうかな。俺の担当は男性美容師だよ」
「えー…!髪って女の子に触ってほしくないですかぁ?」
聖也はそう言いながら、バスタオルを巻いたままの姿でソファに座って、足を組む。
そんな格好でそんなに大きく足を組むな…と言いたくなる。
モネが起きてきて、こんなあられもない姿を見せたくない。
「聖也くんさ、服を着たら?…そろそろモネが起きてくる」
「えっ!モモちゃんまだ起きてないの?」
「あぁ。女性にその姿を見せるのは失礼だろ?いくら従兄弟でも…
って、おい…っ!」
ソファから立ち上がる気配がして振り返ると、腰にタオルのままリビングを出ていく聖也。
何してんだアホなのか?
…俺は慌てて追いかけた。
「モモちゃ〜んっ!朝だよぉ」
ためらいなく俺たちの寝室のドアに手をかける聖也。
「ちょっ…待て待て待て!」
昨夜はしないかわりにいっぱい触った。俺の記憶が確かなら、モネは下着(下だけ)の状態で寝ているはずだ!
追いついて俺も寝室に入ると、ふんわりしたベージュのワンピースを着て、髪をクリップで無造作にあげた姿のモネが、ベッドの縁に座ってモコモコの靴下を履いている。
セーフ…!
が、聖也がモネの横に、ちょこんと座りやがった。
「…聖也!なんて格好してるの?早く服を着ないと風邪引いちゃうよ?」
「うん…今日寒いか暑いかわかんないから、モモちゃん一緒に服選んでぇ…」
またあざと可愛い顔でモネを見ている聖也。
どうやら…バスタオル1枚の姿に、モネはいい反応を見せてくれなかったらしく、作戦変更したとみた。
「しょうがないなぁ…確かに3月は、暑かったり寒かったりするもんね…」
聖也は嬉しそうにうなずいて、立ち上がったモネの手を、ドサクサに紛れて握った。
おいおい…そこ、手を繋ぐ必要あるのか?目の前の部屋へ行くだけだろうがよ?!
心の声は表情にも現れたらしく、モネは俺に「聖也の服選んだら、朝食のおにぎり作るね?」と首を傾げて見せた。
さっきの聖也のあざと可愛い姿と違い、モネの首を傾げる姿はひどく可愛い…。
キッチンでコーヒーを落としながら…ベーコンエッグでも作ろうかと思ってやめた。
ここにいても聞こえてくる…聖也の甘えた声に、耳を澄ませてしまう。
もしかして、選ぶだけじゃなく、着せてくれとか言ってるんじゃないだろうな…?!
悶々としながらドリップコーヒーの仕事を眺め、たいして広くないキッチンをうろつく。
そのうち、2人がこちらへやってくる気配がした。
「お待たせ…それじゃ今日は、チーズとたくあんを具にしたおにぎり作るね?」
「あぁ…新作だな」
この際、チーズとたくあんの掛け合わせがどんな味を生むのかはもう…関係ない。
モネが唯一得意なおにぎりを嬉しそうに握る姿を見ることが、俺の出勤前の楽しみだからだ。
そして俺は、なんでもない風を装い、フライパンに火をかけてベーコンを焼き、卵を落とす。
聖也に目をやってみれば、オーバーサイズの白いセーターに黒のパンツ姿で、すでにテーブルに座っていた。
…足の長さが際立っている。
「あ…吉良も座ってて。ネクタイに油飛んじゃうから…」
俺の横でおにぎりを握りながら、モネが少し赤い顔をして言う。
「うん…なんか顔赤いけど、どした?」
「…えぇっ?!」
思いがけず驚かれて後ずされば、テーブルに座っていつの間か頬杖をついてこちらを見ている聖也が、知った顔で話に加わった。
「モモちゃん、スーツ姿の吉良さんがあんまりカッコいいから、緊張してるんだよ?」
「ちょっと聖也…よけいなこと言わないでよ!」
「だってさっき言ってたじゃん。俺にズボン履かせながら…!」
いまだに俺にドキドキしてくれて、頬を染めるモネは本当に可愛い。
…可愛いが、今の俺は、聖也の言葉のほうが聞き捨てならない。
ズボンを履かせてやっただと?
聖也はバスタオル1枚だったはずだ。
もしかして、下着まで履かせたとか言うんじゃないだろうな…?
「もういいから!聖也は明日からちゃんと自分で服を着ること!」
やっぱりか…このあざとクソ男子が…
出来上がったおにぎりとベーコンエッグ、そしてあり合わせのフルーツをカットしてヨーグルトに混ぜた3品をテーブルに運んでゆくモネ。
テーブルについた聖也と、何やら話をしている。
その表情は至って平然。
まったくテレはない。
ほぼ裸の聖也に服を着せてやったテレはなく、スーツ姿の俺には赤い顔になる…
まぁ…悪くない朝だと思ったのは、俺だけの秘密だ。
コメント
1件
吉良ティンの心の声、面白い。 面白がっちゃ可哀想だけど、面白い。 それ以上におにぎりの具が面白い! チーたく?それはありなの??