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小鳥遊みや
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小鳥遊みや
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――パシャッ。
あの日から、カメラの音が嫌いになった。
シャッターが切られるたび、胸の奥がざわつく。
俺たちは、ただ同じグループのメンバーだった。
少なくとも、世間から見れば。
でも本当は違う。
俺と、その二つ年上のテヒョンイヒョンは、恋人同士だった。
もちろん、こんなことを世間に知られたら俺たちの人生はきっと酷いものになる。
だから常に気を付けていた。
仕事場では必要以上にくっつかない。
インタビューなどで互いのことについて言及しすぎない。
二人きりになると、つい距離が近くなってしまうから、なるべく他のメンバーがいるところで過ごす。
それでも。
好きな人が同じグループにいるということは、思っていたよりずっと難しかった。
ヒョンが笑えば嬉しい。
ヒョンが疲れていれば当たり前に心配になる。
ヒョンが俺の名前を呼ぶだけで、顔が緩みそうになる。
そんな小さな積み重ねが、いつか誰かに見つかることなんて。
本当は分かっていたのかもしれない。
でも、あまりにも幸せだった。
だから、油断した。
◇◇◇
「テヒョンイヒョン、肩貸して~」
「えー?なんで」
「眠いんです」
「何その理由ㅋㅋ」
「五分だけでいいから!」
「そう言ってこの前は1時間くらい寝てたよねぇ」
そう言いながらも、テヒョンイヒョンは自身の肩に頭をのせた俺の髪を撫でる。
夜の練習室にはもちろん俺たちしかいないわけで。
それをいいことに、俺はヒョンに思い切り甘えた。
抱きついてみたり、
じーっと目を合わせて笑いあったり、
その後ちょこっとだけキスしてみたり。
こういうことに照れるヒョンが可愛いくて、俺は以前まで気を付けていたはずの意識が軽くなってしまったのだろう。
◇◇◇
初めて記事が出た日のことは、今でも忘れられない。
『人気アイドルグループ、VとJung Kookに熱愛疑惑』
そういった文字とともに、写真が載っていた。
深夜、同じマンションに入っていく俺とテヒョンイヒョン。
それだけなら、まだ言い訳できた。
同じグループなのだから、仕事の相談をしていたと言えばいい。
けれど。
次の写真。
オフの日、二人で手を繋いで出掛けているところ。
その次の写真。
なんと互いの鎖骨あたりにキスマークがある。
さらに、俺とヒョンが宿泊先ではないホテルに入る写真まで撮られていた。
顔も、服装も、日時も。
全部がはっきり写っていた。
ネットはすぐに騒ぎ出した。
『これ付き合ってるだろ』
『ただのメンバーじゃない』
『証拠が多すぎる』
『事務所説明しろ』
俺はスマートフォンを握りしめたまま、何も言えなかった。
隣にいたヒョンも、黙っていた。
ただ、顔色が異様に悪かった。
「テヒョンイヒョン…?」
「………ど、どうしよう」
震えた声でヒョンは小さく言った。
◇◇◇
数日後。
俺たちは、事務所に呼び出された。
マネージャーだけじゃない。
事務所の責任者までいた。
「しばらく二人で行動するのは禁止。会話も必要最低限にしてくれ。」
「……はい」
「事務所としても疑惑はマイナスだから。事態が収まるまで距離をとるんだぞ。」
「……っ」
「それから、明日のことについてだけど――」
そこから先の話は、あまり頭に入ってこなかった。
◇◇◇
翌日。
俺たちが会場から出た瞬間。
フラッシュが一斉に焚かれた。
「ジョングクさん! Vさんとの交際について答えてください!」
「Vさん、二人はいつから付き合っているんですか?」
「同じグループ内での交際は事務所も把握していたんですか?」
「写真について説明してください!」
「昨日の夜も一緒にいましたか?」
「手を繋いでいたのは恋人だからですか!?」
たくさんのカメラとマイク。
怒鳴るような声。
逃げ道を塞ぐように取り囲む人々。
俺はテヒョンイヒョンの隣にいた。
ヒョンは一言も話さなかった。
顔が真っ白だった。
「Vさん!」
「Vさん、否定しないということは事実ですか?」
「ジョングクさんとの関係を認めるんですか?」
「ファンへの説明は?」
「グループはどうなるんですか?」
「Vさん!」
その瞬間。
テヒョンイヒョンが一歩、よろめくように後ろへ下がった。
ほんのわずかな動きだった。
でも俺には痛いほど分かる。
怯えている。
明らかに。
ヒョンはカメラを見ていなかった。
何かに追い詰められたみたいに、ただ俯いていた。
「……すみ、ません」
小さな声。
「Vさん?答えてください!」
「すみません……」
ヒョンの手はとても震えている。
俺は思わず、その手を掴みそうになった。
でも、
今そんなことしたら。
また写真を撮られる。
もっと最悪な事態になる。
だから、触れられなかった。
それが一番、苦しかった。
結局、スタッフに囲まれて俺たちは車へ押し込まれた。
ドアが閉まる。
外から聞こえるシャッター音が、まだ止まらない。
テヒョンイヒョンは座席の端で、小さく息をしていた。
「……ヒョン」
「……、……」
「大丈夫ですか?」
「……うん」
嘘だ。
全然大丈夫じゃない。
それなのに、ヒョンは笑おうとした。
俺は何もできなかった。
◇◇◇
その夜からだ。
ヒョンがおかしくなったのは。
メッセージを送っても、返事が来ない。
電話をしても出ない。
どこにいても一切俺を見ない。
俺が近づくと、さっとどこかに行ってしまう。
最初は、事務所に言われているからだと思った。
実際、そうしているのが一番良いことも分かっている。
でも。
一週間が過ぎても。
1ヵ月が過ぎても。
ヒョンは俺を避け続けた。
そしてある夜。
仕事が終わって帰ろうとした俺を、テヒョンイヒョンが呼び止めた。
「……ジョングガ」
「…何ですか?」
「ちょっと、話したい」
誰もいない廊下。
テヒョンイヒョンは壁にもたれる。
その暗く苦し気な表情を見た瞬間、嫌な予感がした。
ヒョンが重々しく口を開く。
「……おれたち、もう別れよう」
コメント
1件
ああ、これ…胸が締め付けられるような話ですね。アイドル同士の秘密の恋が、写真一枚で崩れていく。カメラの音が嫌いになる、という冒頭の一文が最後まで効いてくる構成、巧いなと思いました。お互いを想うからこそ触れられない、その距離感の描写が切なくて。最後の「別れよう」の重みがすごい。続き、どうなってしまうんだろう…。