rdside
屋上の扉を押した瞬間、冷たい風が頬を切った。
夜の匂いが重い。
金属の匂いと、雨上がりの湿った空気が混ざって、息を吸うたびに喉の奥が痛い。
そこにいた。
ぺいんとが、柵の向こうを見ていた。
月明かりが背中を照らして、髪が淡く光ってる。
その輪郭が静かすぎて、まるでもうこの世界にいない人を見てるみたいだった。
rd「ぺいんと」
名前を呼んだ。
返事はない。
ただ肩がわずかに動いた。
足が勝手に前に出る。
遠く感じた距離がやけに重くて、心臓が脈打つたび、靴の底から音が響く。
近づくたびに、胸の奥の恐怖が大きくなっていった。
あの柵を越えた先に、もう言葉は届かない。
そんな未来が一瞬でも頭をよぎって、全身が震えた。
rd「また、飛び降りるつもり?」
自分の声が、あまりにも静かで驚く。
怒りでもなく、問い詰めるでもなく、ただ必死だった。
どうか違うと言ってほしかった。
ぺいんとがゆっくりこちらを向く。
その瞳は、深い湖の底みたいに何も映していない。
笑っているのに、笑っていなかった。
pn「…別に」
その声はひどく軽くて、風に乗って消えた。
pn「別に、死にたいわけじゃないよ」
微笑んで言った。
けれどその笑顔が痛い。
口角は上がってるのに、目の奥には何もなかった。
pn「ただ、生きててもさ、どうでもいいんだ」
pn「起きても眠くて、笑っても疲れて、何してても“終わればいい”って思ってる」
小さく息を吐くように言葉が落ちる。
言葉が一つ一つ、胸に沈んでいく。
俺の中の何かが、音を立てて崩れていった。
rd「… ぺいんと ッ」
それしか言えなかった。
声が震えた。
pn「この前ね」
彼は空を見上げながら続けた。
pn「夜、寝る前に考えたの。あのとき屋上から落ちてたら、今頃どんな気分だったんだろうって」
息が止まる。
一瞬、音が全部消えた。
鼓動の音だけが頭の中に響いていた。
「怖かった?」といつも通り聞くつもりだった。
でも言葉にならなかった。
喉が硬くなって、声が出ない。
彼は続けた。
pn「怖くなかったと思う。もう何も感じないから。寒くも痛くもないし、誰にも何も言われない」
その笑みが、穏やかで、静かで。
それが何よりも恐ろしかった。
rd「ぺいんと」
名前を呼んだ。
一歩近づく。
rd「やめよう、そんなこと言わないで」
pn「なんで?」
首をかしげるように言う。
pn「先生は、生きてるのが楽しいの?」
問いかけられて、一瞬返せなかった。
俺は、どうだっただろう。
忙しさに飲まれて、ただ毎日を繰り返してきた。
それでも、ぺいんとが笑うたびに心が温かくなった。
それは確かに“生きてる”って感じる瞬間だった。
rd「俺は、生きててよかったって思う」
rd「ぺいんとに会えたから」
正直に言った。
沈黙。
ぺいんとがわずかに眉を寄せて、息を飲んだように見えた。
pn「…そう言えるの、すごいね」
小さく笑って、目を伏せた。
その笑顔の裏で、声が震えていた。
pn「俺には、もうそう思えない… 笑ヾ」
ぽつりと落ちた言葉が、夜の空気を割った。
風が吹いて、髪が揺れる。
その動きさえも、壊れそうだった。
俺は一歩踏み出した。
rd「ぺいんと、お願いだから戻ろう」
pn「先生はさ」
ぺいんとは俺の言葉を遮った。
pn「もし俺がここからいなくなったら、悲しい?」
rd「当たり前だよ ッ」
即答していた。
rd「悲しいに決まってる。ぺいんとがいない世界なんて、考えられない」
その瞬間、ぺいんとの瞳が震えた。
だけど、すぐに微笑みに変わる。
pn「優しいね、先生」
その笑みは、あまりにもやさしすぎて、
もう二度と戻ってこない人が見せるような顔だった。
pn「でも、先生はきっと生きていけるよ」
pn「俺がいなくても、誰かを救えるし、誰かに感謝される」
言葉が、刃のように胸に刺さった。
rd「そんなこと言わないで 、 」
思わず声が荒くなる。
rd「俺はそんな強くない。ぺいんとがいないと、きっと何もできない」
pn「うそだ」
静かに返された。
pn「先生は優しいから、誰かのために生きられる」
rd「違う」
俺は首を振る。
rd「俺はぺいんとのために生きたい」
その言葉が出た瞬間、ぺいんとが目を見開いた。
少しの間、何も言わなかった。
風がまた吹いて、白い息が二人の間をすり抜ける。
pn「俺がいなくても、生きて」
その声は震えていた。
pn「お願いだから」
何かが崩れる音がした。
俺の中で、どうしても守りたかった理性みたいなものが、一瞬で消えた。
rd「ぺいんと」
rd「俺は、ぺいんとといたい」
名前を呼んで、彼にそっと近づいた。
声が震えているのに、気持ちはまっすぐだった。
pn「どうして」
ぺいんとが、呆れたように笑う。
pn「俺なんかを見ても、何もないよ」
rd「そんなことない」
rd「俺には見えるよ、ぺいんとが笑うと、世界が少しだけ明るくなる」
pn「…それ、医者としての優しさ? 笑ヾ」
rd「違う」
rd「俺の本音」
ぺいんとの唇がわずかに動く。
何かを言いかけて、言葉が喉の奥で途切れた。
沈黙が落ちる。
夜が重くのしかかる。
心音が二つ、かすかに響いて、溶け合っていく。
俺はそっと手を伸ばした。
触れるか触れないかの距離で止まる。
rd「もう、無理に笑わなくていい」
rd「泣いてもいい」
rd「生きてるだけでいいんだよ」
その言葉に、ぺいんとの表情が崩れた。
ぽたり、と涙が落ちる。
それでも彼は笑ったままだった。
pn「… 先生、やっぱりずるいね」
掠れた声で彼は言った。
pn「そんな風に言われたら、死ねなくなるじゃん」
夜風が通り抜けた。
ぺいんとの肩が震える。
月が雲の切れ間から顔を出して、二人を照らした。
涙の光が淡く反射して、夜が静かに揺れた。
その音が確かに聞こえた気がした。
ぺいんとの心音。
弱くても、ちゃんと生きている音だった。
俺はその瞬間、息を吸って、ただ願った。
どうか、この鼓動が止まらないでくれ。
ぺいんとは俯いたまま動かない。
その細い肩を見つめながら、俺は静かに目を閉じた。
rd「ぺいんと」
rd「ここにいて」
夜が、二人を包み込んだ。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝ ♡1000 💬1
コメント
4件
うわぁ、、、雰囲気最高過ぎるし先生は神だしもう何なのー!!(???) ♡頑張ってポチポチしてきますっ!!

うひゃー最高すぎる もう、ね、ありがとうらっだぁ…