pnside
夜の風が冷たかった。
頬に当たるたび、さっきまで泣いていたことを思い出す。
涙の跡が冷えて、皮膚に張りついていた。
足も手も震えて、うまく息ができなかった。
それでも俺は、まだ屋上に立っていた。
“また飛び降りようとした”
その事実だけが、頭の中で反響していた。
ら ── いや、先生は、少し離れた場所で俺を見ていた。
何も言わず、ただじっと。
その沈黙が怖くて、俯いた。
もう、何も残ってないと思ってた。
感情も希望も、全部死んだと思ってた。
それなのに、先生の声が胸の奥を掴んで離さない。
“俺はぺいんとといたい”
その言葉が頭の中で繰り返される。
嘘みたいだった。
そんなことを言われる資格なんて、俺にはない。
死にたいって言って、
傷つけて、
迷惑ばっかかけて、
それでも、「ぺいんとといたい」って言うなんて。
信じたいけど、信じたら壊れる気がした。
pn「……先生」
やっと絞り出した声は、かすれていた。
喉の奥が焼けつくみたいに痛い。
先生は、静かに歩み寄ってきた。
屋上の床を踏む靴音が、やけに優しい音に聞こえた。
rd「寒いね」
その一言で、胸が揺れた。
先生はただそう一言だけ言った。
そんな当たり前の言葉が、いちばん沁みた。
pn「俺なんかを……どうして」
顔を上げられなかった。
目が合ったら、泣いてしまいそうで。
pn「俺なんか、.. いなくても 、」
pn「… 誰も困らないのに 、」
風が吹いて、髪が顔にかかる。
その下で、目の奥がじんと熱くなった。
自分でも分からないくらいに、感情が溢れてた。
先生は、少し間を置いてから言った。
rd「困るよ」
その声は、静かで、それでもはっきりしていた。
風の中でもちゃんと届いた。
rd「ぺいんとがいなくなったら、俺ちょー困る」
優しい音だった。
でも、その優しさが刺さった。
涙がまた溢れた。
pn「そんなこと言わないでください」
pn「俺……もう、信じられないんです」
rd「信じなくていい」
rd「でも、俺は言うよ」
先生の目が、まっすぐに俺を見ていた。
逃げられなかった。
目をそらしたら、この夜ごと崩れてしまいそうで。
rd「好きだよ」
息が止まった。
時間も、風も、全部止まった気がした。
その言葉はあまりにも真っ直ぐで、
誰かを傷つけるでもなく、誰かを救うでもなく、
ただ“俺に向けられて”いた。
pn「先生……ッ 」
声が震えた。
心臓が、痛いくらいに打ってた。
この胸の中にまだ血が流れてることを思い知らされた。
pn「だめ ッ だめだよ ッ …」
pn「俺なんかを、好きになったら、先生が壊れる」
嬉しかった。嬉しかったはずなのに。
言葉の端が涙で滲む。
けど先生は微笑んだ。
いつものあの、やわらかい笑顔で。
rd「壊れてもいいよ」
rd「ぺいんとが生きてくれるならそれで」
そんなの、ずるい。
そんな言葉をもらったら、もう戻れない。
泣くことしかできなかった。
息を吸うたび、胸が痛いのに、それでもまだ息をしてる。
“生きたい”なんて思ってないはずなのに、
今だけは、“死にたくない”と思ってしまった。
どうして、こんなにも優しいんだろう。
どうして、俺なんかに、
pn「先生……」
名前を呼んだ瞬間、涙が頬を伝って落ちた。
それが止まらなくて、嗚咽が漏れた。
先生は何も言わず、ただそばにいた。
風が二人の間を抜けて、白衣の裾が揺れる。
その音さえ、やさしく響いた。
少しの沈黙のあと、俺はやっと口を開いた。
pn「……俺も」
言葉にならなかった。
その先の言葉が、喉に詰まった。
けど先生は、何も催促しなかった。
ただ、目を細めて小さく頷いた。
“それで十分だよ”って
目だけで、そう言ってくれてた。
その瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
あんなに冷たかった世界が、少しだけ色づいて見えた。
屋上の風が、いつの間にかやわらいでいた。
遠くの空が、夜明けの色を混ぜはじめていた。
このまま夜が明けてしまえばいいと思った。
“生きててもいいことなんてない”
そう思ってた俺が、
今はただ“この時間が終わらなければいい”と思ってた。
俺の中で何かが、少しずつ溶けていくのが分かった。
先生がそっと息を吐く音がした。
それだけで、胸がいっぱいになった。
“生きたい”なんて、まだ言えない。
けど今なら、“死にたくない”って言える気がした。
目を閉じると、風の中で先生の声が小さく響いた。
rd「もう、大丈夫だよ」
違うよ、全然大丈夫なんかじゃない。
けど、そう言われるのが嬉しかった。
誰かにそう言ってもらえる夜が、こんなにもあたたかいなんて。
涙がまた零れた。
でももう、痛くはなかった。
この夜の光の中で、
俺は初めて“心が生きている”って思えた。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝ ♡1000 💬1
次回最終話
コメント
2件
よかった……やばい目から塩水がぁ…ついに次回最終話か、応援してます!