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「ティナ、これはなに?綺麗な水晶みたいだけど」
私が取り出したお土産に興味津々のカレン。年相応の可愛らしさがあってちょっと和む。
「取り敢えず座ろっか、これの説明をしたいしね」
私達は椅子に向かい合って座り、テーブルに水晶を置いた。丸い見た目に反して勝手に転がる様子もない。ばっちゃんお勧めの品だけあって質も良さそうだ。お値段も張ったけど、そこは気にしない。ワクワクしてるカレンを見て和みつつ、私は両手で水晶に触れる。
「カレンも同じようにして。大丈夫、危ないものじゃないよ」
「そこは信じてるよ、ティナ。こうすれば良いの?」
私と同じように青い水晶に触れるカレン。周りの大人達も興味津々だ。
「メリルさん、今から何が起きても驚かない……は無理だと思いますけど、ゆっくり待っててくださいね」
「何をするか分からないけれど、ティナちゃんがそう言うなら従うわ」
「ありがとうございます。カレン、目を閉じて。何があっても手を離さないでね」
「う、うん」
カレンが目を閉じるのを確認して、私も目を閉じた。何かに吸い込まれるような感覚に身を委ねる。カレンも……うん、動じてないみたいだ。大丈夫だよ。
吸い込まれるような感覚が消えて代わりに浮遊感を感じた私は静かに目を開いた。
「ティナ!これはっ……?ここは……何で裸なの!?」
「大丈夫、大丈夫だよ。私達しか居ないからね」
私達は素っ裸の状態で漂ってる。カレン、服の上からも分かってたけど発育が良いなぁ。羨ましい。
っと、そうじゃなかった。
「周りを見て」
「周り……?……わぁっ……!!」
周りに広がるのは一面の珊瑚礁に多種多様で鮮やかな海洋生物達。日の光がまるでカーテンのように降り注ぐその光景は幻想的だ。
「ここ……海の中……?なんで息が出きるの?」
「ほら、地球に水族館ってあるよね?アレのアード版みたいなものかなぁ」
私がプレゼントした水晶は、“海洋庭園”と呼ばれる魔法具。空間魔法の理論を応用したもので、トランクに近い道具だよ。
中に海そのものを閉じ込めた庭園で、ゆったりと海の中で過ごすことが出来るアードでは数少ない娯楽品だ。
地球の単位で言えば直径で3キロくらいの空間になるかな。いや、もう少し狭いかな?
それなりの広さがある空間は海水で満たされて、一面に珊瑚礁が広がって様々な海洋生物が独自の生態系を形成してる。生態系がこの空間内で完成してるから、餌やりの必要もない。
魔力が切れないように注意するだけ。満タンまで魔力を込めたら100年は持つみたいだけどさ。
そしてそんな海の世界で海洋生物達とのんびり過ごすのがこの道具の使い方。仕様上何故か全裸になるけど、呼吸も出来て万が一に備えた防護魔法が付与される。海洋生物達も大人しい種類を中心に集められてるから安全性も高い。
カスタマイズも可能で、中には凶暴な生き物だけを集める人も居るんだとか。私が買ったのはベーシックタイプだから危険はないけどね。
乱暴な言い方をすれば、VRを進化させたようなものだよ。もちろん海洋生物に触れることも出来る。
「凄い……っ!綺麗……っ!」
カレンは目をキラキラさせて周りを見渡してる。ばっちゃんにお願いして海洋生物は極力地球の生き物に似た種類を用意して貰ったから、そこまでビックリはしない……筈。
「わっ!わっ!わっ!」
うん、イルカっぽい生き物と戯れるカレン可愛い。人懐っこい種類を多めにして貰ったから……うわっ!?
「わわっ!?ビックリしたぁ……!」
私の背中を……なんだろう、亀みたいな生き物が突っついた。いや可愛いけどさ、ビックリするからちょっと控えてほしいなぁ。
「カレン、ちょっと移動しよっか」
「どうすれば良いの?」
「泳ぐだけだよ。ほら」
足をバタつかせると、身体が動く。海中に居るのと変わらない。何故か翼を羽ばたかせても動ける不思議仕様だけどさ。
「わぁああっ……!」
二人でゆったりと海の中を泳ぐ。回遊魚が群れを成して泳ぎ、ちょっと大きな魚が小さな魚を狩る。大きな魚が死んだら養分になって小さな魚のエサになる。こうしてみると、食物連鎖って面白いよね。
「ティナ!ティナ!あれを見て!」
カレンが指差した方角を見ると……うっわっ、おっきい。巨大なクジラみたいな生物がゆったりと泳いでる。地球最大の生物、シロナガスクジラだっけ?あれより一回り大きいけど、エサとかどうなってるのかな?
ばっちゃんの話じゃ、とても穏やかな生き物らしいけど生態については謎が多いんだって。あの巨体を維持するために必要なエネルギーは膨大な筈なのに、とっても少食らしい。謎だ。
「ここの生き物はアードの……?」
「そうだよ。地球の生き物に似た生き物を集めたから、カレンもゆったり楽しめるよ」
「凄い……まるで魔法みたい!」
「魔法だよ?」
「あっ、そうだった。えへへっ」
はい可愛い。フェルと言いカレンと言い、私の周りには可愛い人ばかりだ。眼福眼福。
しばらくカレンと夢のような時間を過ごした。ちなみに空間そのものが固定されているから、海洋庭園の中では時間が経過しない。理屈?時空魔法の原理らしいけど、魔法に適性がほとんどない私には分からない。
「こんな素敵なものを貰って良いの?」
大きくて平べったい珊瑚に腰掛けたカレンが、小魚?と戯れながら聞いてきた。
「友達へのプレゼントだよ、遠慮しないで貰ってほしい」
「ありがとうティナ!とっても嬉しい!」
うん、喜んで貰って良かった。私達は海を満喫して、使用する際の注意点をいくつか教えて海洋庭園を後にした。
「カレン!ティナ!ああ、良かった」
戻った私達を心配そうな顔をしたメリルさんが迎えた。
「ごめんなさい、メリルさん。ビックリさせちゃいましたね」
「二人が光に包まれて、この水晶に吸い込まれた時は腰を抜かすかと思ったわよ。次からはちゃんと教えてね?」
「はい、メリルさん」
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
カレンとメリルさんは叔母と姪の関係なんだけど、メリルさんまだ二十代だし叔母さんと言うよりお姉ちゃんと妹みたいな関係に落ち着いたらしい。
まあ、カレンが小さい頃なんてメリルさんも十代だろうし、そうなるのかな。
「やあ、ティナ。カレンに素敵なものをプレゼントしてくれたみたいだね。どうもありがとう」
この声は、ジョンさん!
「ジョンさん!お帰りなさ……い?」
振り向いた先に居たのは、相変わらずマッチョなんだけど頭がとっても大きな虹色のアフロになったジョンさんだった。
……why?