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日本国外務省の朝霧 武雄だ。ティナさんから渡されたドリンクを飲んでまるでブ◯リーみたいな肉体を獲得して1ヶ月が経過した。あの時エネルギーを撃ち出したのが幸いしたのか、ケラー室長のように髪を失うことも無く肉体も少しずつ元に戻りつつある。いや、まあ正確には逆立った髪が落ち着いて真っ白な目が普通の目に戻った程度で、ボディービルダーのような肉体はそのままなのだが。
日本に残してきた妻子は今の私をみてなんと言うだろうか。ケラー室長のお嬢さんのような寛容性を持っていることを願わずには居られない。
とは言え、仕事は変わらずに存在している。異星人対策室に出向の身であり、仕事を手伝いつつアメリカの方針を駐米大使と共有して、大使館や領事館と共に各種調整に追われる日々だ。幸い現地大使館には同期と柔軟な人物も何人か居たので連携はスムーズに行われた。まあ、私の姿を見て皆が唖然としていたのは良い思い出だ。
……唯一大爆笑した同期の飯田とはいつか決着をつけなければならないがな。覚えてろ。誰がヤ◯チャだ。
早急の課題としては、アメリカ政府主導で開催される国際会議についてだった。各国首脳を集めて今回の件、すなわち宇宙からの来訪者への対応を協議する事が目的だ。相手が異星人である以上、ある程度は国家間で情報を共有して対応も統一すべきとの意見には賛同する。
ティナさんに、地球の複雑怪奇な外交事情や国家間のパワーバランスに対する理解を求めるのは酷だろう。話を聞く限りアードは統一された惑星文明のようだし、未だに群雄割拠とも言える地球は時代遅れに見えるだろうな。
もちろんこの会議にはアードとの交渉の主導権を明確にしたいアメリカの思惑もある。現状接触した国家はアメリカだけだし、次回の訪問も先ずはアメリカに滞在することが決まっている。
ティナさんが他国を訪問する際はアメリカの斡旋と言う形になる。これがどれ程有効なカードになるか、言うまでもないな。
当然各国はこの方針に様々な形で反応を示した。露骨にアメリカと友好を叫ぶチャイナ国はある意味いつも通りにしても、明確にアメリカの方針に反発する国も多々ある。
尚、北の某国ではティナさんは将軍様の妹であると想像の斜め上を突き進む謎の主張が繰り返されて各国の失笑を招いた。
「ブッ飛びすぎだろwww」
「今日も絶好調だなぁwww」
「ある意味尊敬するわwww」
「いや、勇気があると思うよ。俺なら絶対に言えないもんwww」
「これ、ティナちゃんが知ったらどんな反応するかな?」
「スルーするんじゃないか?マトモに受け取ったら外交問題になるぞ」
「ティナちゃんの周りに居る人達に期待しよう」
我が祖国のネット界隈では別の意味で盛り上がったが。言われるまでもない。こんな妄言をティナさんの耳に入れるわけにはいかないからな。
とは言え、日本では窓際族だった私も異星人対策室で頼れる仲間達を得られた。ケラー室長を中心に皆がこの異星人来訪を重要視しているし、何より皆宇宙が大好きだ。
先日は私の好きな“創造の柱”について熱論を交わした。あの時間は楽しかったなぁ。
それはなんだって?数多の宇宙の写真の中でも人気の高い写真さ。気になるならググってみてくれ。感動するぜ。
っと、話がそれたな。アメリカに限らず他国では人種差別が当たり前なんだが、異星人対策室にそんなものはない。いや、宇宙なんてものにロマンを感じてしかも夢にまでみた宇宙人関連の仕事が出来るんだ。こんな小さな地球で内輪揉めしてる暇なんてないさ。専任のジャッキー=ニシムラ(下戸)も日系人だしな。日本の話題についてこれるナイスガイさ。ちょっと性癖が特殊だけどな。
さてこんな窓際族だった私に転機を与えてくれた異星人対策室なんだが、当然私は日本政府相手の窓口になった。駐米大使とか雲の上の存在なんだが?打ち合わせの度に胃痛が激しくなる。この身体になっても胃はデリケートみたいだ。
駐米大使でさえこれなんだぞ。なのに。
「随分と変わってしまいましたね。体調は大丈夫なのですか?」
「はい、すこぶる好調です。まるで十代の頃に戻ったような気分ですよ」
私の目の前に居るのは、会議に参加するため訪米している我が国の内閣総理大臣椎崎 美月首相。日本国初の女性首相であり、実力でのし上がってきた女傑。年齢は四十代後半の筈なんだが、どう見ても三十代前半にしか見えない美人さんだ。
女性議員が増えたとは言え政治の世界は男の世界。何かと批判などに晒されているが、いつも笑顔を絶やさないのが印象的な人。
特に力を入れているのが教育改革、特にいじめ問題解決に積極的な姿勢を見せている。これは議員時代から一貫して変わらない。何でも、自身もいじめに合い自殺しようとするほど追い詰められた経験があるのだとか。
で、なんでそんな人が私の目の前に居るのか。ティナさん関連の最前線に立つ異星人対策室に出向している私から出来る限り情報を集めるためだ。
椎崎首相は既にアメリカのセッティングでティナさんとの個別会談を予定しているし、日本はティナさんの来訪地の最有力候補のひとつだ。多分にアメリカの思惑が絡んでいるが、日本としても悪くない話だ。二番手ではあるが、やはり箔が付くからな。
「朝霧さんから見て、ティナさんはどんな方ですか?」
「善意の塊です。マンハッタンの奇跡を見れば分かるように、他者の危機を捨て置けるような娘では無いでしょう。後先を考えない面もありますが」
「あの大活躍は凄かったですね。となると、政治は苦手かしら?」
「ええ、少なくとも腹芸が出来るような娘ではありませんよ。政治家や外交官、商人には向きませんな」
「そうですか……ふふっ、彼女の事が好きになりそうです」
「ええ、人物としては好感が持てるでしょう。下手に策を用いず誠意を以て当たれば、ティナさんは答えてくれます」
少なくとも彼女をサポートしているAI、アリアだったか。彼女は侮れる存在ではない。ティナさんは知らないみたいだが、アリアが此方のコンピューター経由で出した様々な警告は我々を戦慄させるには十分なものだったからな。
外務省の部外秘情報を羅列された時は背筋が凍り付いたものさ。アリアにとって地球のあらゆるセキュリティは意味を成さない。敵に回して良い存在じゃない。文字通り世界中で大混乱を巻き起こせるだろう。片手間にな。
「分かりました。個別会談の時はあなたも出席するように。見知った地球人が居る方がティナさんも安心できるでしょうから」
「えっ」
私が……会談に参加……?
……いかん、胃がキリキリする。ジョンさんに新しい胃薬を貰おう……。