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陽と影の境目を超えればそこには沢山の猫達が居た。路地裏の一角、という空間で無機質なコンクリートの壁に囲まれている。踏み出した右足を優しく包み込む芝生に驚き、思わず視線を落とす。なんでこんな所に芝生が、と疑問を持ちながらも顔を上げると先程まで見ていた景色が一変していた。辺りには木々が芽生え、鳥の囀りが時折聞こえる。 何処から吹いてくるのか、暖かい空気が荒んでいた心を溶かしていく。林檎の様な物が実る木の下で寛ぐ猫や、お互いに毛繕いをし合う猫。あまりにも目に優しい景色にほっ、と息をつく。
心が落ち着くのも束の間、腕の中で身じろぐ存在に目的を思い出し慌てて振り向く。ずっと先が続く暗闇の中で浮かび上がる瞳がこちらを捉える。肉付きの悪い前足が灯りの境界線を超えた瞬間、背後にある沢山の気配が動くのを感じた。こちらに歩み寄る影から遠ざかるように後退りをしていく。無意識に耳元のピアスに指先で触れれば不安な気持ちが吸い込まれるような錯覚がする。深く呼吸をしてうるさい胸の音を落ち着かせる。聞こえた気がした。大丈夫だって。
影が低く姿勢を取り、尻尾を揺らす。獲物を狙うかのような鋭利な視線に自分は狩られる側、だと思い知らされるような気がした。再び恐怖が顔を出そうとした時、目の前の相手との間に立ち塞がるように1匹の猫が影と睨み合う。それにつられてもう1匹、また1匹と阻んでいく。
有り得ない状況に目を見開く。怯みを見せる相手に、初めて優位に立ったと感じられた。今のうちに、と腕に抱えたまるの様子を伺う。浅く呼吸を繰り返し、苦しそうに身を捩っていた。少しだけ身体が冷たくなっている、そんな気がして雨の日の事を思い出す。
「ごめん……僕が窓開けてたから…、」
懺悔の言葉を呟くが返ってくるのは鳴き声ではなく苦しそうな短い呼吸だった。「死」というものに直面している、その事実に胸が締め付けられる。
「涼ちゃん!!!」
突然聞こえた声に俯いていた顔を向ける。涙で張られた膜の向こうで朧気に映る見慣れた顔達に情けない声を出す。
「たすけて……。」