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紡いだ言葉と共に涙が溢れ出す。滲む視界に、駆け寄る2人の輪郭が見える。 すっかり酔いの覚めたような表情を浮かべた若井が地面に片膝をつき、伸ばされた指先が頬に触れる。
「怪我してんじゃん…。」
それどころじゃない、そう口を開こうとした時劈くような鳴き声が空間に響く。逃げようとした影を囲んで通らせまいと威嚇をする猫達がいた。不思議な状況を目の当たりにした元貴がその光景に釘付けになっていた。
為す術もなく、ただひたすらに腕の中で抱き締めていれば段々と動きを感じなくなる。
「やだ、ぁ………死んじゃやだよ”まる”……。」
零れ落ちた涙がまるの身体へと染み込んでいく。その瞬間、目映い光が身体を包む。まるで重力が無くなったような不思議な感覚に、ふわりと髪が宙で遊ばれる。微かに香るカーネーションの匂いを肺いっぱいに吸って吐き出す。
身体を包み込むような暖かい光に瞳を閉じれば、ふわふわとした何かが瞼を撫でるような感覚がした。
再度瞼を開ける時、耳元で僅かに聞こえた硝子の割れる音と共に壊れたピアスが地面に落ちる。自分を苦しめていた忌まわしい気配も消えていた。
「……ッは、ぁ、……。」
まるで時が止まっていたかのような感覚に息を吐き出す。 満ちていた光は消え、周りはただの路地裏の広い空間と化していた。状況を理解出来ないのは2人も同じで、暫く3人で顔を見つめ合う。
「……俺まだ酔ってる?」
続く沈黙を破ったのは若井だった。ぺたぺたと自身の頬に触れてそう呟く。
「僕も酔ってるかも。元貴も、多分酔ってるよ。全部お酒のせい、だよね?」
死んだ、という事実がチラついて、言葉を発しない元貴に縋るように答えを求める。
「現実だよ。」
突きつけられた2文字に身体が酷く重くなる。痛みを主張する節々もそう言ってる様だった。
「涼ちゃん。」
徐に名前を呼ばれ、元貴に目を向ける。向けられた指先は僕の後ろを指していた。行動の意図を理解し、振り向けば”まる”がいた。淡い光を放つその姿に目を大きく見開く。