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がさごそと物音がして意識が浮上する。柔らかい光が瞼に当たって目を開けた。
朝だ。
ちょっとだけ体が怠い。ベットに寝かされて服を着ていて掛け布団をちゃんとかけられて仰向けで眠っていたらしい星導。覚めきっていない頭でぼんやり思い返す。
昨日の出来事は夢だったんだろうか。
隣を見るも彼はいない。既に起きているらしい。薄暗い部屋でも分かるくらいの至近距離で愛おしげに見つめてきた彼。少し痛む腰。思い返して顔が熱くなった。
「あっつ!」
キッチンの方から聞こえた小柳の声。
慣れない料理でもしているのだろうか。
ピーンポーン
玄関のチャイムが鳴り、小柳が出ればそこに伊波とカゲツがいた。
「おはよう」
「おはよう。え、任務はどうした?」
「本部が直近の病み上がりだいたい1週間くらいは実務は与えないって言ってたから在宅でも出来る仕事持ってきた」
「在宅勤務だよ」
「そう、か」
「やっぱ心配でさ。星導も小柳も 」
「ごめん」
「や、いいんやって。とりあえず今週は伊波と俺は在宅勤務だからるべの家におってもいいことになってる」
「来週からは1人在宅、1人出勤にしてもらった。一日づつ交代でやってく予定」
「1人で区間巡回の許可おりたの?」
「ううん、来週1週間はオリエンスに手伝ってもらうことにした。マナに来てもらう予定」
「そっか……後でお礼しないとな」
「昨日はあの後疲れてすぐ寝てたけど」
退院から5日目の夜。星導が湯船に浸かっていればシャンプーを終えた小柳がシャワーを浴びながら星導に言った。
「体は平気?」
ザーザーとシャワーのお湯が彼の肌に当たって床に散っていく。
鮮明に蘇る熱と腕の温もりと知らなかった優しい声。
星導は彼の肌から目を背けた。今はその話をしないで欲しかった。現実だろうと分かってはいたけど夢だと錯覚していたかった。
だってあんなの狡いだろう。
壁の方を見ながら返事をする。
「うん、大丈夫」
「跡残っちゃったな」
小柳は星導の背中を見ながら呟いたらしかった。いつの間にそんなことしたのか分からない。
「悪いけど明日も風呂一緒でいい?万が一、跡が残っててライとカゲツに見られたら気まずいでしょ」
「分かった」
「あと_」
「おーい、タオルここに置いとくよ」
バスルームの向かいの洗面所、すりガラス越しにカゲツが大袈裟にジェスチャーする。
「分かった。ありがとう」
「あーい」
すぐに離れて行ったが家に4人いる状態では2人きりで話す時間がない。
星導にはそれが好都合だった。あの時の行動の答え合わせなんかしなくていい。
「……後で話そう」
小柳は他の2人に話を聞かれてはまずいと思ったのか話を切り上げた。黙って頷いた。
その後、どんな顔して彼のすぐそばで浴槽に浸かっていたのか星導はよく覚えていない。
退院5日目から13日目までの間、4人で過ごした。ほぼ星導の世話のためだったがなかなか楽しかった。共同生活なんてしたことがなかったから。
「風呂どうする?」
「俺と星導で入ってくる」
退院6日目のとある会話。カゲツは小首を傾げる。
「なんか、お前ら昨日も風呂一緒じゃなかった?」
「え」
「小柳疲れない?」
「う…うん。平気。あ、でも髪乾かすのは手伝って欲しい」
「?……分かった。上がったら言って」
なんだろう。さっきの妙な間は。聞こうとして口を開くが、それより先にキッチンから顔を覗かせた伊波の声が届く。
「夜ご飯レトルトとサラダでいい?」
「イッテツが差し入れのドライカレーオススメって言ってた」
「じゃあそれ準備しとく」
その会話の間に2人はそそくさとバスルームに向かって行く。
「あれ……昨日ってか、一昨日から一緒やん」
ひとりごとを呟いた。