「ぐ、ぁ……」
魔神の手から剣が滑り落ち、ガランガランと乾いた音が響く。
「これは……」
魔神の胸には、小さな針が突き刺さっていた。
「【神殺の毒】……私が作れる毒の中でも、最も強力で残酷な毒よ」
「貴様……」
声のした方から現れたのは『みや』。かつて魔王であったが、今はリュウトの仲間として共に戦う存在だ。
「が、は……」
魔神が膝をつく。
「なるほど……最初からこれが目的……」
リュウトは、みやに肩を貸されながら、その言葉を否定する。
「いや、これは最終手段だ。俺はこの毒に頼らず、お前を倒すつもりで全力を出していた……だが、敵わなかった。完敗だ」
「ぐ……」
「こんな形で決着をつけてしまってすまない。だが俺も……負けるわけにはいかなかった。どんな手を使ってでも」
「貴様はそれでも!」
「……あぁ、今日限りで【勇者】を名乗るのはやめる。元々、俺には大層すぎる肩書きだった」
「っ!!!」
リュウトとみやは、ヒロユキの元へ歩み去る。
「ぐ、がぁぁぁぁあ! ぁぁぁああ!」
魔神を襲う激痛――魂がヤスリで削られるような拷問。
肉体を変えれば耐えられるというものではない。脳と心臓に負荷がかかり、全身が痙攣する。
思考は霧散し、視界は真っ白に染まっていく__
「こんな……! こんな事でぇっ!」
魔神の身体が見るも無惨に溶け始める。
「ぐわぁぁぁあ! あ! あ! ぁぁぁああ!」
魔神は身体を変える――だがすぐに同じ症状が再発し、また変える。
「バカな!我が……! こんな……!」
毒は魂に作用している。
身体を変えた所で意味がないのだ____
右から断末魔が響いては消え、左からも悲鳴が響き、四方八方に現れては苦悶し続ける魔神の姿が見える。
「……」
「これが……【神殺の毒】……」
「うんっ……私の中にあった全ての毒を使った、究極の毒っ」
「すまない……俺の力が足りなかった」
「ううんっ、いいの」
ふらつくリュウトの足に合わせ、三人は出口へと向かう。
「がぁぁぁぁあ! あ! ぁぁあああああああああ!」
背後で、なおも叫び続ける魔神。
あまりにもおぞましい光景に、三人は振り返らず、背を向けた。
だが――それは、誤りだった。
見届けるべきだったのだ。
魔神の“最後”を。
ドンッ!
みやは背中から、何者かに突き飛ばされた衝撃を受ける。
「えっ……」
「みや!?」
「……!?」
リュウトに肩を貸していたみやは、その勢いで前に倒れ込み、足腰の弱ったリュウトも一緒に崩れ落ちる。
「あ……あれっ」
――みやの背中には、“魔神の大剣”が深々と突き刺さっていた。
「【目撃封】……寄越せ! 貴様の力を!」
大剣が禍々しく光を放ち、みやの魔眼の力が封印された。