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シーフェル王女に成り代わったスキュラはとある村に来ていた。それは王国に入ることを拒んだ見習い騎士、リエンスによって連れられていたからである。
――山奥の村リカンシュ。
断崖上に築かれた村で、全ての建物が不安定な場所に位置している。かつて王国を守る要塞として造られた町であり、多数の冒険者で賑わっていた場所だ。しかし王国の近くにザーム共和国が出来た辺りから衰退化。
今では冒険者はおろか、力を持つ者が訪れることがない寂れた村と果てている。そんな今にも崩れ落ちそうな断崖絶壁の上に建つ教会に、二つの人影が鳴りを潜める。
「ここの教会なら滅多に人も近寄らないため、心配いりません」
リエンスはここが落ち延びた者の行きつく先であることを知っていたようだ。
「随分お詳しいのね。しかし、どうして王国を避けてわざわざ寂れた村に来たのかしら?」
「僕は王国を出たくてたまらなかったのです。王女さまが真っ先に王国を見限られたのも、僕にはいいきっかけとなったのです」
「あなたは見習い騎士なのでしょう? ――ということは、騎士となるのを諦めるつもりだったのかしらね?」
「い、いえ……騎士は」
元水棲怪物の彼女が持つ記憶は王国の王女、そして名前だけである。目の前にいる見習い騎士リエンスの素性など、はっきりと分かっていないままだった。そんな偽の王女に気付くことなくリエンスは自分の話を続ける。
「王女さまは戻る意思を固められた。それなら僕も決めねばならない……そう思ったのです」
「決める、とは? あなたは何を企んでいるのかしら?」
「僕は――」
成り代わった自分も本当の正体を隠している。だが、見習い騎士であるこの男も何かを隠し続けている、そんな予感が彼女にはあった。
――予感を感じたそんな時。
「ほぅ? ここで出会うとは珍しいことがあるものだな!」
人が滅多に近寄らないはずの寂れた教会に、出会うはずのない者が姿を現わした。
「あら? あなたもしかして、貴族騎士?」
王女の姿となっていたのを忘れ彼女は思わず声をかけた。隣に立つリエンスは男の姿に絶句し声を失っている。
「これはこれは、麗しのシーフェル王女ではござらぬか! そして隣はリエンス王子。寂れた村にお二方が揃われるとは奇妙なものですな」
「――リエンス……王子? うふふ、そうでしたのね」
「しかし妙ですな。王女様が俺をご承知だとは……」
「でしたら貴族さま、どうぞこちらへ――」
「王子を差し置いて俺と話をされるおつもりか。まぁ、よいでしょう」
見習い騎士を名乗っていたリエンスのことは最初から信じていなかった。素性を見破ったアルビンに対し、彼女は全て明かすことにした。
「あたくしとあなた、アルビンとの出会いは……そうね、貴族酒場といった所かしらね。アグエスタという町。その名前に聞き覚えはなくって?」
「ふむ……。あの時の者ということか。ではエドラは死したのか?」
「ええ。あたくしが直接手を下したわけではありませんけれど」
「なるほど。グルートの関わりは全て消したということか。しかし何故その姿でここにいる?」
貴族騎士アルビンはすぐに王女の正体に気付いた。纏う気配が違うことを知りながら教会の中へ入って来たからだ。
「あたくしを王女と疑わない男、リエンス。彼の心の支えとなっていたのがエドラ王女だったのではなくて?」
「……ふ。第二王女を追った王子か。まぁ、王のいる国は争いが絶えないからな」
王国における問題に触れ、双方ともに理解を示したように頷いてみせた。
「あたくしは本当のパーティーに戻りたいのだけれど、今のままでは叶わないのですわ。どうすればいいのかご存じかしら?」
「あの若者か。ふむ、俺の依頼もまだ終えていないからな。だが、今は王国のことを何とかしなければならない」
遠く離れたアックのことを案じる彼女に対し、アルビンも思い出したように頷く。
「かつて勇者だった者を弟に持つ騎士の意地があるとでも?」
「王国が弱体化している以上、何とかしたいといったところだ。他意など無いさ」
「それでは、あなたの力も貸していただくことにするわ!」
「成立だな」
王女に成り代わった彼女は再び貴族騎士アルビンと手を組むことを決める。
全てはアックと会うために。
「アックさま、再び……必ずお会い出来るのを楽しみにしていますわ!」