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夜が明けるまで、君と

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夜が明けるまで、君と

1 - 夜が明けるまで、君と

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2025年04月28日

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魔法が解けたのは、夢が叶ったその夜だった。

ないこは、あの武道館のステージに立っていた。無数のペンライトが揺れ、何千という声が自分の名前を呼んでいた。照明が落ち、音が止み、最後の一音が会場に響いた瞬間、彼は静かに目を閉じた。


それは、あまりにも美しく、あまりにも現実離れしていた時間。まるで夢の中にいるようだった。


彼はその夢を、現実に変えてしまった。



◇◇◇



ないこは、6人組歌い手グループ「いれいす」のリーダーだ。ふざけ合い、歌い合い、時にぶつかり合いながらも、仲間たちと一緒に走ってきた。


最初はただ、「好き」を届けたかった。ネットの向こうにいる誰かに、心を込めて歌を届けたかった。やがて、ファンが増え、舞台は大きくなり、いつしか本気で口にするようになった。


「武道館、行こう」


それは冗談のように聞こえた。でも、ないこは本気だった。誰よりも強く、誰よりも遠くをみつめていた。仲間は笑いながら、「 ないこが言うなら、やってやるよ」と背中を預けてくれた。

何度も挫けそうになった。思うようにいかない日々も、数字に縛られた夜もあった。でも、そのたびに思い出すのは、画面越しに涙を流してくれたリスナーさんのこと、一緒に曲を作った夜のこと、コンビニ帰りに夢を語った仲間の顔だった。


そして、武道館の夜。

その全てが報われた。夢が現実になった瞬間。



◇◇◇


だが、それは同時に「終わり」の始まりでもあった。


ライブが終わったあと、ないこは一人、ステージの隅に立っていた。照明が消えた客席を見渡しながら、胸の奥にぽっかりと穴が開いているのを感じていた。


「もう…届いてしまったんだな…」


燃えるような情熱、張り詰めた緊張、全てが終わりを告げた。そこに残されたのは、強烈な喪失感だった。


“憧れ”は追い越された。

“夢”は現実になった。

“魔法”は、解けた。



それでも、ないこには一つだけ変わらなかったものがあった。


日々の痛みを持ち寄って彼らと息をした。


あの頃、何も無かった部屋で、声だけで繋がっていた。夜が明けるまで何度も話した。「無謀だ」って言われても、「やれるだけやろうぜ」って笑っていた。仄暗い寂しさを分け合い、傷を見せ合いながら、何度も立ち上がってきた。


その全てが自分をここまで連れてきた。



◇◇◇


ライブから数週間が過ぎたある日、ないこはひとり、雨上がりの街を歩いていた。水たまりに映るビルの灯りが、まるで別世界のように揺れていた。ふと見上げた空は、変わり映えしない曇り空。でもその下には、いつに増して明るい彼らの声があった。


「ないちゃん、次はどこまで行こうか?」


メンバーの一人が言った。いたずらっぽい笑みで。


「世界でも目指すか?」


「いや、まずは今日の収録からやろ笑」


ないこは笑って頷いた。


「ははっ、そうやな笑」


今日も、君と息をする。


たとえ、魔法が解けても━━━


この道を選び続ける限り、彼らは止まらない。

憧れの先に、新しい夢がまた生まれていく。


そして、その度に夜は明ける。

君とともに。












𝑒𝑛𝑑


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