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「それさー…。絶対恋じゃん」
はらり、とフォークに巻き付けたばかりのトマトパスタが散らばった。食べようと開けていた口があんぐりと開いて閉じない。俺は最近涼ちゃんと居ると調子が狂うことと、その具体例を出しただけなのに。
「…な、に言って…。そりゃ可愛い顔してるとは思うけど涼ちゃんは男だし、大切なメンバーだし、何より10年来の仲じゃん。今更そんな…」
思考は停止しているけど、言葉が次々と出てくる。そんな俺を見て若井が市販のグラタンをテーブルに運びながら、ウザさ満点の陽キャスマイルを向けてきた。
「そうだな。恋って無自覚から始まるとそうなるよな。でも大丈夫、何せ元貴には恋愛マスターの若井さんが着いてるんだから」
隣に座り、肩をぽんぽんと叩かれた。いやおかしいだろ。今まで俺には彼女もいたし、男にときめいた事は1度もない。そのまま伝えたがいーや、と聞く耳を持たれない。
「よく言うし、元貴も言ってたけど男女問わず惹かれる性格とか見た目とかあるしさ。別におかしい事じゃないと思うけど」
よく覚えてるな。いつのインタビューだそれ。フェーズ2で恋愛の話はあまり出さないようにしているから、もしかしてフェーズ1の頃か?
「か、仮に!…仮に俺がそういう感情を抱いてるとしても、どうすんの?今後のこともあるし告白して振られたとかで関係性を変えたくないんだけど」
「じゃあ両想いになるように頑張るしかないな」
うんうん、と若井が首を上下に振る。呆れのあまり下瞼がピクピク動く感覚があった。と同時に涼ちゃんにも近づきたい人がいることを思い出す。
「涼ちゃんには近付きたい人がいるって言ってたし!それにきっと涼ちゃんの恋愛対象は女性でしょ?」
自分でも見苦しいほど躍起になって否定する。若井の陽キャの恋愛ノリが嫌なのか?それとも単純に恋心を抱いてないのにとやかくいわれるのが嫌なのか?自問自答を繰り返してみたが、どれもしっくりこない。思考の海の大分深いところまで来た時に、蓋のような扉のような感情を隠しているものを見つけた。それの奥には既に植物のように成長しきった「好き」があった。どうにかするには、1歩踏み出さないことには手段がないと悟る。
「……変化しないのも嫌だけど、変化するのは怖い、ってことか…」
我ながら子供らしく、でもそれにしては大きすぎる思いを持っているようだ。すとん、と腑に落ちる。やっぱり若井に相談して正解だったな。やり方は強引だが、たどり着きたいところまでちゃんと導いてくれる。彼をみれば本当に優しい人の顔をしてこちらを見守っているようで。それが癪にも感謝にもなるのが、若井と長い間ここまで来れた原因なのはお互い分かりきっていた。
「どう?整理できた?踏み出せそう?」
「…うん。ありがと、若井」
おうよ、そう言って幼なじみは笑った。
実に数年ぶりかもしれない片想いが、確認出来たのに時間をかけてようやく始まった。
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読んで下さりありがとうございます!
こちらの連載の更新、遅くなってしまい申し訳無いです。2週間程私生活が忙しく不定期になると思われます。ご了承頂けると幸いです。でも新しい連載も始めたいので、早く一段落つかせたいです泣
次も是非読んで頂けると嬉しいです。