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「やっほー、英雄さん。遅刻常習犯の肩書に恥じない到着時刻だね?」
「10分は遅刻じゃないだろ。私1日寝過ごしたことあるんだから」「あの時はよく死ななかったよね」
「その10分は何してたのさ?」「今後の自分に思いを馳せてた」「何言ってんの?」
「きっと私は怒られるけど私の最強でイケメンさに磨きがかかるイベだろうなと」「何言ってんの?」
「じゃあ何?妄想で10分遅刻したの?blossomじゃないんだから……」「イメトレと言えよ。私の最強さはそこから来てる」
happyは深くため息をついた。messiahの扱いに苦戦しているらしい。
ここはネームド達が集まり、今後について討論したり自分の推しを語る場所だ。
今回はhappyとmessiahがタイマンしていて、俺が推しを拝みに来ている(二人には見えてないけど)。
最下層にあり、参加者には入れないようになっている。
その場所で、今からmessiahの扱いについて話されていた。
messiahは第一ゲームにて木更津の霊と同化した。
これは実は霊媒体質じゃないとできない。
だから今、messiahは死にかけている。
霊媒体質の何がいけないのかといえば、まだ言えないこともあるが、ネームドは霊媒体質の人間がなってはいけない。
本人は「霊媒体質は後天的な物で、ネームドに任命されたころは違う」らしい。
しかし霊媒体質は「体質」とついている通り、生まれたころから備わっているもので、後天的なもののはずだ。
だから、今messiahの心証はかなり悪い。
彼の事を信じる様なもの好きは、おそらくすべてが見える俺くらいしかいないだろう。
「今から君の処分を決めようとしてるんだよ?なんでそんな余裕あるの?今の所”ambition行き”確定だよ?」
「あー……いやそれは絶対によくないと言いますか……」
「え?前の会議で君、ambitionの話題だしたよね?ambitionの話はしちゃだめってルールじゃん。それほど言うんならambitionと永遠に遊べるようになりたいんじゃないの?」
「じゃああいつから目を背けろとでも……?」
「うん。触れちゃいけない存在だよ。君がヘンテコな正義感持ってるのは知ってたけど、もう誰も救えないよ」
「んなことわかってる!!でも……あいつを”あんな役割”にしない選択肢があったんじゃないかって思ってる」
「変なこと言うよね君。その役割に自分はなりたくないんでしょ?そういうのを自分勝手って言うんじゃないの?」
「……でも!」
「あ?」
「……分かった。私をどうしてもambitionの遊び相手にしたいんだな?」「うん」
「あいつの所に行ったら確定で死ぬ?」「知らない。ambitionの気分次第」
「お前は私が死んでも困らないってことか」「当然じゃん。僕より強くないんだし」
「……嫌なことばっか起きてんな、私」
「もしかしたら誰かが助けてくれるかもよ?」
「誰かって?」
「いるじゃん一人。僕らに挑戦状送ってきてる、meutrueってやつだよ」
*
この二人の中から黄落人を探し出して殺す。
俺の第二ゲームの最低条件だ。
2分の1。確率は50%。
無駄な犠牲を出しませんように。
「この扉の向こうにネームドがいるんすかね?僕戦えないし、天神さんに頑張ってもらうっす」
候補1は勝利を確信している。
「勝てるかわかんない。仮に2人とかで来たら怪しい」
候補2は未だに不安そうだ。
「そんな二人もいるか?そもそもネームドって何人いるんだろうな」
「messiahは7人とか言ってなかった?」
「七人か。今tearが死んでるからあっちも6人?」
「んね。てことは単体で来るよりも二人とかで来そう」
残念なことにネームドはブラックなんだ。下に厳しくて上に優しい。
だから下に単体で特攻させて、参加者を最下層に引きずり込み、最下層で上三人でフルボッコにする。
俺だって二人でお前らを狩れたらどれほどよかったか。
でも今回はそのブラックさがかえっていい方向になっている。
なぜなら、俺には今回もう一つ使命があるのだ。
「二人相手できねぇの?俺も音端も戦えないぜ?」
「1対2は流石に厳しい。僕1on1が得意なんだよね」
「でもお前いっぱいナイフ持ってるしいけそうじゃん」
「僕そんなに万能じゃない。逆の意味だけどなめないで」
……ナイフ。そうだ、ナイフ。
音端の着てる服に黄色い模様があって、てっきり音端が黄落人だと思っていたが、まだ全然天神の可能性がある。
彼はナイフを入れるケースを持っていて、そこにナイフを集めている。
そのケースの方を見る。そしてすぐに気づいてしまった。
「そろそろ行きます?」
「ん、そしよ」
ドアが開く。二人が中に入る。
俺は姿を隠し、猛ダッシュで中に先回りする。
「あれ」「どこ行ったのあいつ」
奇遇なことにさ、ナイフケースは俺も持ってるんだよ、天神。
俺は黄落人に切りかかった。
*
それは僕の目の前で起こった。
鋭い斬撃。俺に迫る。
避ける。いや避けろ!全身が、魂が叫ぶ。
避けるために。足は動いた。はずだった。
脳は、脳は理解している。
目の前で散った大切な仲間に。
「うっっっそ!!二択は合ってんのにんなことある?!」
「音端……?」
脳に体が追いつき、俺は彼の方へと駆け寄る。
音端は、俺を庇ってあの斬撃を食らったらしい。
あの斬撃、俺の視界がスローモーションになるほど威力が高いはずだ。
彼もきっとただでは済まないだろう。
実際、彼は腹がぱっくりと裂け、歯ぎしりをしていかにも痛そうにしている。
「神器の目」を隠していたウィンドウは点滅し、青い光を宿す左目が見え隠れしている。
しかし、すかさずその体は奴の方に引き寄せられる。
「お前と音端はつながってたのか……これは予想外だ」
「……返して」
「ん?」
「音端を返して」
「……まぁ、音端を切るつもりはなかったんだが、こいつがお前を庇ったせいで仕方なく……。俺の狙いは」
衣川は音端を切ったと思われるナイフを俺に向けた。
「お前だ、天神。いや……”天竺”」
天竺。懐かしい響きだ。
俺が天神にすり替わり、変身する前の苗字。
すなわち俺が何者でもない時の名前だ。
「一騎打ちしようぜ、俺と」
衣川は笑っている。心には邪悪な何かが巣食っている。
彼の能力が透明化的なものと魔法が分かれているかどうかで話が変わってくる。
俺を先程襲ってきた透明化は魔法なのか、それとも別の能力なのか。
そもそも透明化で合ってるのか?それも不明だ。
しかし今言えるのは、彼はまだ完全に手の内を明かしていないこと。
そして、あのナイフさばきは間違いなく能力じゃない。彼の技能だ。
また透明化を使われたら……俺、いや天神ならきっと対処できる。
というか魔法系を使われた時の勝ち目はほぼないと考えていい。
というのも、天神は概念系、つまり切れないものにはめっぽう弱い。
だから、その場合は捨て身特攻するしか。
いや、そもそも俺は正体がバレてる。
お父さんが言っていたが、黄落人とバレた時の黄落人は非常に弱くなるらしい。
だから、俺は普段の天神よりも弱体化していると考えていい。
となると。
二人の目が合い、同時に駆けだす。
残像が見えるほど素早くナイフを取り出し、鋭利な切っ先が垣間見える。
敵から繰り出された斬撃は非常に強力だ。
俺が身に染みて分かるほど。
天神になって初めて知った感覚だ。これが痛覚というのか。
本日二回目のスローモーション。しかしその瞬間、俺の右手は隠し持っていたあのナイフに瞬時に切り替わる。
欠損した左手に目もくれず、俺がナイフを向けるのは敵の右半身。
「そのナイフ……!」
少し色あせた黄色のリボンがついたナイフが、衣川の右肩あたりに突き刺さった。
本来、天神はナイフで「切る」のみを行い、「刺す」はしないらしい。
このリボンのナイフはピック状になっていて、「刺す」に特化している。
なので、天神はこのナイフをほぼ使わなかったらしい。
衣川もおそらくそのことを知っていて、だから驚いているのだろう。
しかし、黄落人は四肢のいずれかが欠損すれば変身が解けてしまう。
衣川が放った斬撃は俺の左腕の第二関節付近に直撃し、左腕は取れてしまった。
天神の真っ白な髪は段々と黒に染まり、真っ黒な目は茶色みを帯びてきた。
変身が解け、「本来の俺」が表面上に出てきたことになる。
衣川にダメージをくらわせたはいいが、こちらのダメージの方がでかい。
前も言ったが、変身が解けた黄落人はただの一般人。
つまり俺の負けだ。
「俺の勝ちってことでいいかな、天竺さん?」
「そうダ。俺の負けダ」
「いい攻撃貰っちまったけど、なんとか勝ててよかったー。じゃあ、俺についてきてくれ」
「……??殺すんじゃないのカ?」
「敵対してるふりはしとかなきゃいけなくてさ。黄落人も知りたかったし。あと俺死体が嫌いなんだよね」
「え、じゃあ」
「味方だよ。でもちょっと事情があってな……。お前たちをみすみす帰すわけにもいかなくて」
「????」「いやごめんて」
「ど、どこに連れていく気ダ?マグマに突き落とすのカ?」
「信用ないな悲し。一旦回復したいだろ?だから最下層に連れていく」
「最下層??そこに行けば回復できるのカ?」
「色々あるからなんとも……。まぁ俺が連れていく部屋から出ないでおとなしくしといてくれ。そしたら悪いようにはしないからさ」
「音端も……?」
「今は気絶してるだけで回復する。というか俺の魔法で回復させる。しばらく待ってもらうけど」
「よかっタ……。”また”俺のせいで死人が出てしまうところだっタ」
「まー詳しくは着いてから説明する。とりあえず行こう。悪いけど音端はお前が運んでくれない?」
「俺達を助けてくれるならなんでもいいからナ!絶対助けてくレ」
「おっけー」