歓迎会兼食事会が終わり、ネフテリア達は割り当てられた部屋へと案内された。
クォンが話をつけた事で、大部屋と小部屋が用意されている。小部屋はクォンとムームー用に、大部屋は残りの4人で使う事になっている。
部屋に入ったらドレスやパーツは身に着ける必要が無いとクォンが言ったので、全員身に着けていた物を外していった。残るのはボディースーツや身軽な服だけ。それでもサイロバクラムでは、これが未武装の普段着となっている。
「なんか水着で過ごすみたいな感じですね」
「だな」
(目のやり場に困るなぁ……)
(みんなセクシーだ)
ヨークスフィルンでも部屋で水着に着替えたりしていたので、抵抗はそれほど無い。だが普段に比べての違和感はしっかり感じている。
そんな中、ムームーがあまり直視しないように明後日の方向を向いて考え事をし、アリエッタも少し照れた顔になってピアーニャの横に座っている。2人とも状態は違えど中身は男なのだ。一瞬視線が交わり、お互い笑い合った。
(不思議な子。こんなに可愛い女の子なのに、男の娘と似た感じがする)
(不思議な人。こんなに綺麗な女性なのに、TS転生者と似た感じがする)
この瞬間、また絆が深まったようだ。その理由は本人達を含め、誰にも分からない。
「アリエッタ? どうした?」
「ムームーさま?」
2人の不思議な雰囲気を、間近で感じ取ったピアーニャとクォン。ムームーは妙に焦ってしまった。
「違うよっ、この子とはなんていうか、気が合うというか……」
「ホントですかぁ~?」
ジト目で詰め寄るクォンだが、実はからかっているだけである。
しかし、ピアーニャの方はそう平和な事にはならない。
「ぴあーにゃ、ごめんね。だいじょうぶ。すき」
「おあぁ!? ちょっはなせー! シンパイとかしてないから!」
「よしよし、よしよし」
「ひいいい!」
勝手に妬かれていると解釈され、抱きしめられ、撫でられながら、必死に弁解されていた。否定しても拗ねているとしか思われない。
「イヤイヤ期ってやつなのよ」
「ちがうわっ」
「見た目って大事よねぇ」
「うるさいなっ!」
3歳児頃まで、何をやっても「イヤッ」と反抗する、幼児の習性である。ピアーニャは見事に見た目の条件が当て嵌っている為、アリエッタがさらに必死になって落ち着かせようとしているのだ。
「まぁピアーニャの事はアリエッタちゃんに任せるとして」
「ぅおおいっ!!」
「よしよーし」
「ひぃっ! たすけっおわあああ!」
ここで一旦、クォンがアリエッタとピアーニャを抱えて退室する事になった。邪魔しないように、隣の小部屋に運ばれるのである。
「おいちょっと! わちもハナ──」
シュイン
ピアーニャは手を伸ばしていたが、自動ドアが閉じてその姿は見えなくなってしまった。
閉じたドアを少しだけ見つめたネフテリアは、満足気に頷いて、ミューゼの方に向き直った。
そのミューゼは、パフィと一緒に正座中。アリエッタがいたので軽口は叩いていたが、パーツを外してからはずっと座らされていたのだ。
「さーて、OHANASHIしましょうか」
「怖いんですけどっ」
普段なら反論しようとするミューゼ達だが、今回は負い目がある為逆らわない。背後からムームーに見張られているというのもある。
「まず、なんで怒られるのか、理解してる?」
「はい……証拠を隠滅する事を怠りました」
「報告しないように、脅迫…じゃなかったのよ、説得しておくべきだったのよ」
「ちっがあああああう! 何堂々とコロニーを破壊しているのよ!」
ミューゼは何も無かったと報告したが、その一部始終はツインテールの少女の部下と、敵対していた者によってしっかりとソルジャーギアに報告されていた。両方にソルジャーギア隊員が数名ずついたのだ。
その報告の確認にと、食事が終わってからハーガリアンと話をした結果、ネフテリア達3人に全てが明かされてしまっていた。
つまり、今は説教タイムである。
「だってアリエッタに危害加えられたし~……」
「仕返しが過激すぎるんだってば。ほらそんな『あたし悪くないもん』って顔しないの」
建物を壊したというのに、このユルさ。ムームーは3人のやり取りに呆れているが、以前に起こったニーニルでの騒ぎを知っているので、納得もしている。
(あーあ。これ、街とかよりもアリエッタちゃんの方が大事ってパターンだ)
アリエッタが元気であれば、2人はまともな考えで動く。アリエッタのしている事で周りに迷惑がかかるようであれば、ちゃんと止めに入る。
しかし、アリエッタに何かよくない事が起こると、町や城などお構いなしの暴走をする事がある。ネフテリアもその事は分かっているので、そんなトラブルが起こる前に自前で防衛出来るようになる期待を込めて、ミューゼを鍛えていたりするのだ。
だからこそ、今回は相手が悪い事も理解している。しかしやり過ぎはやり過ぎとして、同じ過ちをしないように言い聞かせなければいけない。
一通り説教が終わると、次はお仕置き。これも抑止力の一環である。
「この騒動の刑として、パフィにはお母様と2人きりで2日過ごしてもらいます」
「んなっ!?」
言い渡された刑に、パフィの顔が絶望に染まった。
「いくらなんでも刑が重すぎるのよ! 人でなしなのよ! いっそ殺せなのよ!」
「そこまで言っちゃう!? 一応王妃なんですけど! わたくしの母なんですけど!」
「パフィにとっては死刑より重いんだ……」
パフィにとって、王妃は特別な相手である。恥ずかしい意味で。
納得出来ないパフィだが、ネフテリアは容赦しない。
「これでも温情なのよ? もし嫌だというのなら、実行犯のアリエッタちゃんにその刑が言い渡されるからね」
「うっぐぐぐぐ……悪魔なのよ。悪魔がいるのよ」
悪い顔で代案を伝えているが、ムームーには分かっていた。アリエッタが王妃の所に単独で放り込まれても、ただ甘やかされて帰ってくるだけだという事を。2日間会えないだけで、笑顔で帰ってくるであろう事を。
「ごめんなのよっ、アリエッタ。どうする事も出来ない私を許してなのよ……うぅ」
(なんっか腹立つなぁ……)
確かにパフィには刑になるが、母親を悪く言われるネフテリアも、複雑な心境であった。
むせび泣くパフィはムームーに任せ、今度はミューゼの刑を言い渡す番。
「ミューゼには、2日間わたくしと夜──」
「いやああああああそんなの耐えられないいいいいい!!」
「全部言う前に嫌がらないでよっ! 泣くわよ! わたくしが!」
全力で嫌がられる王女であった。普段の変態発言や行動を考えれば、仕方のない事かもしれない。
王女をクズのように扱うその態度は、ムームーを驚愕させるばかりである。
「もちろん、わたくしとアリエッタちゃんが数日、2人きりで過ごしてもいいのよ?」
「あ……あ゛だじがっ…刑…を゛っ……うけばずっ」
「傷つくわぁ……」
血の涙を流しながら返事を絞り出すミューゼを見て、ネフテリアは心底落ち込むのだった。
説教と刑の言い渡しが終わり、アリエッタ達を部屋に呼び戻した。ピアーニャがやたらとグッタリしている。
「ずっと抱きしめて、あやしてましたから。助けて大丈夫なのか迷ってました」
「たすけろっていったぞ」
「でもアリエッタちゃんが……」
「なんでどいつもこいつも、アリエッタだいいちなんだ」
『可愛いから』
ピアーニャの疑問には、アリエッタとピアーニャ以外の全員が応えていた。
「……ま、まぁアシタは、きょうみたいなコトには、ならないようにしないとな」
今日の反省を踏まえて明日の予定を立てていると、アラームが部屋に響いた。
「誰か来たみたい」
「ノックじゃないから驚くね」
「でもベンリだな。リージョンシーカーで、ためしにドウニュウできないかな」
遠隔の呼び出し音は便利である。魔法でも似たような事は出来るが、それでも視認している場所でないと、どこに音が鳴るのか分からない。
この技術をファナリアに取り寄せる事が出来ないか、早速交渉したいピアーニャであった。
その間に、クォンがドアの向こうにいる相手と話をし、要件を聞き出していた。
「パフィさーん。ご指名でーす」
「え? 私なのよ?」
サイロバクラムとは特に関りの無い自分が呼ばれた理由が分からないパフィ。首を傾げながら、ドアの方へと向かった。
「何の話だろうね」
「みゅーぜ、みゅーぜ、かみ、え、かく」
「うん? あ、ちょっと待ってね。今出すからねー」
パフィの事は気になるアリエッタだったが、それよりもサイロバクラムの事を描き止めたくて仕方がない様子。今まで話があるのを把握し、我慢していたのだ。
なんとなく自由な雰囲気を感じ取り、紙と炭筆を催促したのである。
「ありがとなのっ」(よーし、描くぞー)
「や、やっとカイホウされた……」
「ご苦労様ピアーニャ。何か飲む?」
ピアーニャが、何か言われる前に機嫌を取ろうとしたネフテリアを睨むも、心身ともに疲れていて、大人しくジュースを貰う事にした。
気を取り直して明日の事を話しあっていると、ドアの外で話をしていたパフィが戻ってきた。
「みんなゴメンなのよ。ちょっと呼ばれたから行ってくるのよ」
『へ?』
ソルジャーギアでパフィが呼び出される理由が分からない一同は、揃って首を傾げていた。
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