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ご本人様関係ありません
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# 拝啓大嫌いな君へ
ー 登場人物 ー
紫崎 茈
口が悪くて意地悪。素直になるのが苦手で、桃をからかうのが好き。桃とは顔を合わせれば喧嘩ばかりしている。恋愛には鈍感だが、桃のことになると余裕がなくなる。
桜司 桃
負けず嫌いで口が達者。茈のことが大嫌いで、いつも言い合いをしている。しかし、茈がほかの人と楽しそうにしていると、なぜかイライラしてしまう。恋愛には初心で、自分の気持ちに気づくのが遅い。
# 01.大嫌いなあいつ
桃「……最悪」
それが、俺の朝一番の言葉だった。
理由は簡単。
教室に入った瞬間、見たくもない顔が視界に入ったから。
茈「おはよう、桃。朝からすごい顔してるな」
桃「誰のせいだと思ってるの?」
茈「さあ? 鏡でも見たら?」
桃「……本当に性格悪いよね」
茈「お前にだけは言われたくない」
こいつ。
紫崎 茈。
俺がこの世で一番嫌いな人間。
人をからかうのが好きで、口が悪くて、何を考えているのか分からない。しかも、腹が立つことに顔がいい。
成績も悪くないし、運動もできるし、周りからの評判もそれなりにいい。
本当に腹が立つ。
何より嫌いなのは、俺が怒っているときほど楽しそうに笑うことだった。
桃「もう話しかけないで」
茈「それ、昨日も聞いた」
桃「今日も言ってるの!」
茈「はいはい」
そう言って、茈は俺の頭を軽く小突いた。
桃「っ、何するの!?」
茈「寝癖」
桃「え?」
茈「後ろ、跳ねてる」
そう言って、何事もなかったように自分の席へ戻っていく。
俺は慌てて髪を触った。
……最悪。
本当に最悪。
なんでこいつに寝癖なんか指摘されなきゃいけないんだ。
というか、頭を触る必要あった?
普通に言えばよくない?
桃「……大嫌い」
誰にも聞こえない声で呟いた。
なのに。
さっき頭に触れた指先の感触が、なぜかいつまでも消えなかった。
# 02.お前なんか、どうでもいい
俺たちがこんな関係になったのは、いつからだっただろう。
初めて会った日から仲が悪かったわけではない。
むしろ、最初は普通だった。
話しかけられれば返事をしたし、同じグループになればそれなりに会話もした。
ただ、いつからか茈は俺をからかうようになった。
俺が本気で怒ると笑う。
俺が言い返すと、さらに意地悪なことを言う。
その繰り返し。
いつしか俺も、茈を見るだけで言い返すようになっていた。
そして今では、周りから犬猿の仲だと言われる始末。
赫「お前らって、毎日よく飽きずに喧嘩できるよな」
桃「こいつが絡んでくるからでしょ」
茈「お前がいちいち反応するからだろ」
桃「誰のせいだと思ってるの!?」
茈「はいはい、悪かったな」
桃「絶対思ってない!」
赫「……本当に仲いいな、お前ら」
桃・茈「「どこが!?」」
声が重なった。
友人は腹を抱えて笑っていた。
俺はますます腹が立った。
茈「……息ぴったりじゃん」
桃「今すぐ黙って」
茈「怖い怖い」
桃「っ、もう!」
茈が笑う。
俺は怒る。
いつも通りの光景。
いつも通りのはずだった。
なのに、その日の昼休み。
茈が別のクラスの男子と楽しそうに話しているところを見て、俺は妙な気持ちになった。
茈は、俺と話すときとは少し違う顔で笑っていた。
優しい顔。
落ち着いた声。
相手の話をちゃんと聞いて、時々小さく笑っている。
……何、それ。
普通にできるんじゃん。
俺にだけ、あんなに意地悪なの?
桃「……何なんだよ」
思わず呟いた。
赫「ん? 何が?」
桃「何でもない」
赫「茈のこと見てなかった?」
桃「見てない!」
赫「いや、めっちゃ見てたけど」
桃「見てないってば!」
慌てて視線を逸らした。
意味が分からない。
あいつが誰と話そうが、誰に笑いかけようが、俺には関係ない。
どうでもいい。
本当に、どうでもいいんだ。
……なのに。
その日の帰り、茈がいつものように俺に話しかけてきたとき。
俺は、少しだけほっとしてしまった。
# 03.何で待ってるの
その日は、放課後から雨が降っていた。
俺は昇降口で立ち尽くしていた。
朝は晴れていたから、傘なんて持ってきていない。
天気予報くらい見ればよかった。
桃「……最悪」
雨はしばらく止みそうにない。
走って帰るか。
いや、絶対に濡れる。
どうしようか悩んでいると、後ろから声がした。
茈「何してんの?」
桃「……何でもない」
茈「傘ないの?」
桃「あるように見える?」
茈「見えないから聞いてるんだけど」
桃「じゃあ聞かないでよ」
茈「お前、ほんと可愛くないな」
桃「うるさい!」
茈は笑いながら、手に持っていた傘を広げた。
茈「入れば?」
桃「……は?」
茈「傘。入る?」
桃「いや、いい」
茈「何で?」
桃「茈と一緒に帰るくらいなら濡れて帰る」
茈「そっか」
茈はあっさり頷いた。
そして、傘を差して歩き始めた。
……本当に行くんだ。
いや、別にいい。
俺が断ったんだから、当たり前だ。
そう思っていたのに。
茈は数歩進んだところで立ち止まった。
茈「……桃」
桃「何?」
茈「五秒待つ」
桃「は?」
茈「五、四、三……」
桃「ちょ、何それ!?」
茈「二、一」
桃「待ってよ!」
気づいたら、俺は茈のところまで走っていた。
茈「……何。濡れて帰るんじゃなかったの?」
桃「うるさい! やっぱり入る!」
茈「素直じゃないな」
桃「茈にだけは言われたくない!」
茈は小さく笑った。
傘の中に入る。
思ったより、近かった。
肩が触れそうな距離。
俺は慌てて少し離れた。
茈「……離れすぎ」
桃「は?」
茈「そっち行ったら濡れるだろ」
桃「別にいいし」
茈「よくない」
茈は俺の腕を軽く引いた。
その瞬間、肩が触れた。
桃「……っ」
茈「何?」
桃「な、何でもない!」
心臓がうるさい。
何で?
ただ肩が触れただけなのに。
相手は茈だ。
大嫌いな、あの茈。
なのに、顔を見られない。
茈「……顔、赤くない?」
桃「雨で暑いだけ!」
茈「今日、寒いけど」
桃「うるさい!」
茈は楽しそうに笑った。
いつもの意地悪な笑い方。
なのに、その日は少しだけ違って見えた。
帰り道、茈はずっと傘を俺の方へ傾けていた。
そのせいで、茈の肩は少し濡れていた。
桃「……そっち濡れてる」
茈「ん?」
桃「傘、そっちにも寄せてよ」
茈「お前が濡れるだろ」
桃「茈だって濡れるじゃん」
茈「俺はいい」
桃「よくない!」
茈が一瞬、驚いた顔をした。
それから、少しだけ目を細める。
茈「……何。心配してくれてんの?」
桃「違う!」
茈「へえ」
桃「風邪ひかれたら、明日うるさいから!」
茈「はいはい」
また笑われた。
本当に腹が立つ。
でも。
家に着いてからも、俺は何度もその日のことを思い出してしまった。
茈の手。
肩が触れた感触。
傘を傾けてくれたこと。
そして、最後に言われた言葉。
『心配してくれてんの?』
桃「……するわけないじゃん」
そう呟いた声は、自分でも驚くくらい小さかった。
# 04.近づかないでよ
それから、少しずつ変わった。
いや、変わっていないのかもしれない。
茈は相変わらず意地悪だったし、俺も相変わらず言い返していた。
ただ、以前なら気にも留めなかったことが、妙に気になるようになった。
茈が教室に入ってくる音。
茈の笑い声。
俺を呼ぶ声。
くだらないことでからかってくる顔。
全部、気づけば目で追っている。
……おかしい。
絶対におかしい。
桃(何で俺、あいつのことばっかり考えてるんだろ)
答えなんて分からなかった。
分かりたくもなかった。
そんなある日、俺は廊下で茈と女子が話しているところを見かけた。
女子は楽しそうに笑っていた。
茈も、少し照れたように笑っていた。
その光景を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと苦しくなった。
桃「……っ」
何で。
何で、そんな顔するの。
俺にはいつも意地悪なくせに。
俺には、そんな優しい顔しないくせに。
桃(……何で俺、こんなに嫌なんだよ)
気づいたら、俺はその場から逃げるように歩き出していた。
その日、茈が話しかけてきても、まともに返事ができなかった。
茈「桃」
桃「……何」
茈「今日、何かあった?」
桃「別に」
茈「……怒ってる?」
桃「怒ってない」
茈「じゃあ、こっち見ろよ」
桃「嫌だ」
茈「……は?」
桃「今、茈と話したくない」
言ってしまった。
茈の表情が、ほんの少しだけ変わった。
いつもなら、すぐに言い返してくるはずなのに。
茈「……何で?」
桃「何でもいいでしょ」
茈「よくないだろ」
桃「何で? 俺が誰と話そうが、茈には関係ないじゃん」
茈「……それは」
桃「俺だって、茈のことなんかどうでもいいし」
本当は、どうでもよくなんてなかった。
むしろ、気になって仕方なかった。
でも、言えなかった。
自分でも分からない感情を、茈に知られるのが怖かった。
茈「……分かった」
それだけ言って、茈は離れていった。
俺はその背中を見送ることしかできなかった。
……何やってるんだろう、俺。
嫌いなはずなのに。
話したくないなんて、本当は思っていないのに。
桃「……ばか」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
# 05.お前がいないとつまらない
桃に避けられるようになって、数日が経った。
茈は、明らかに機嫌が悪かった。
茈「……なあ」
友人「何?」
茈「桃って、最近何かあった?」
赫「桃? 別にいつも通りじゃね?」
茈「……ふうん」
赫「何、お前ら喧嘩したの?」
茈「してない」
赫「じゃあ何でそんな顔してんの?」
茈「どんな顔だよ」
赫「捨てられた犬みたいな顔」
茈「……殴るぞ」
赫「はいはい」
茈は机に頬杖をついた。
桃がいない。
正確には、同じ教室にいるのに、自分のところへ来ない。
いつもなら、くだらないことで言い返してくる。
自分がからかえば、すぐに怒る。
うるさいし、面倒くさいし、素直じゃない。
なのに。
茈(……つまんねえ)
桃が自分を見ない。
話しかけても、すぐに離れていく。
前みたいに笑わない。
それだけで、こんなに落ち着かなくなるなんて思わなかった。
茈(……何なんだよ)
自分でも分からない。
ただ、桃に避けられるのが嫌だった。
ほかの人と話している桃を見るのも嫌だった。
自分以外の誰かに、あの笑顔を向けているのを見ると、どうしようもなく苛立った。
茈「……最悪」
気づけば、桃と同じ言葉を呟いていた。
その日の放課後。
茈は、桃が一人で教室に残っているのを見つけた。
桃は机に向かって、何かを書いていた。
茈「……何してんの?」
桃「……っ!?」
桃は慌ててノートを閉じた。
桃「何でもない!」
茈「いや、何か書いてただろ」
桃「茈には関係ない!」
茈「……またそれかよ」
桃「何?」
茈「最近、そればっかりじゃん」
桃は黙った。
茈「俺、何かした?」
桃「……してない」
茈「じゃあ、何で避けるんだよ」
桃「……」
茈「前みたいに話せよ」
その声は、いつもよりずっと低かった。
桃は思わず顔を上げた。
茈は、笑っていなかった。
からかってもいない。
ただ、真剣な顔で桃を見ていた。
桃「……何で?」
茈「は?」
桃「何で、前みたいに話したいの?」
茈「……それは」
桃「俺のこと、嫌いなんでしょ?」
茈「……は?」
桃「いつも意地悪してくるじゃん。からかって、怒らせて、楽しそうに笑って」
桃の声が震えた。
桃「……俺、ずっと嫌だった」
茈は何も言えなかった。
桃「なのに、たまに優しくするから……」
言いかけて、桃は口を閉じた。
これ以上は言えない。
言ったら、全部知られてしまう。
茈「……たまに?」
桃「……何でもない」
茈「桃」
桃「もう帰る」
桃は鞄を掴んで、教室を飛び出した。
茈は追いかけられなかった。
ただ、閉じられた教室の扉を見つめていた。
茈(……嫌だった、か)
初めて知った。
自分が何気なくしていたことが、桃を傷つけていたこと。
茈は、ぎゅっと拳を握った。
茈(……何やってんだ、俺)
# 06.大嫌いなのに、好き
桃は、茈を避け続けた。
話しかけられても必要最低限の返事だけ。
目が合えば、すぐに逸らす。
一緒に帰ることもなくなった。
それでいい。
これでいいはずだ。
だって、茈と一緒にいると、どんどんおかしくなる。
優しくされると嬉しい。
笑いかけられると、もっと話したくなる。
ほかの人と仲よくしていると、胸が苦しくなる。
こんなの、もう嫌だった。
桃(……何で好きになんかなったんだろ)
その答えは、考えれば考えるほど分からなくなる。
最初は本当に嫌いだった。
今だって、意地悪なところは嫌いだし、素直じゃないところも嫌いだ。
なのに。
自分が困っているとき、何も言わずに助けてくれるところ。
くだらない話を覚えているところ。
自分が笑うと、少しだけ嬉しそうにするところ。
そういうところを知ってしまった。
知る前には戻れない。
桃「……大嫌い」
呟いて、目を閉じた。
桃「……大嫌いなのに」
どうして、こんなにも好きなんだろう。
一方、茈もまた、桃のことばかり考えていた。
自分は、桃が嫌いだったわけじゃない。
むしろ、最初から気になっていたのかもしれない。
何を言っても言い返してくるところ。
怒るとすぐ顔に出るところ。
嬉しいときには、隠そうとしても口元が緩むところ。
そんな小さなことまで、全部覚えている。
ほかの誰よりも。
茈「……ああ、もう」
自分の気持ちを認めた途端、すべてが腑に落ちた。
桃がほかの人と話していると嫌だった理由。
桃に避けられて、あんなに苦しかった理由。
桃の笑顔を、もう一度自分に向けてほしいと思う理由。
茈「……好き、なのかよ」
初めて口にした言葉は、驚くほど頼りなかった。
誰にも聞かれていないのに、耳が熱くなる。
茈「……最悪」
でも、もう誤魔化せなかった。
自分は、桜司 桃が好きだ。
大嫌いだと思っていた相手が。
誰よりも、好きだった。
# 07.拝啓、大嫌いな君へ
桃は、机の引き出しから一枚の便箋を取り出した。
誰にも見せるつもりはない。
渡すつもりもない。
ただ、この気持ちをどこかに書き出したかった。
ペンを握り、ゆっくりと文字を書く。
『拝啓、大嫌いな君へ。』
桃「……何書いてんだろ、俺」
自分で書いたくせに、笑ってしまった。
大嫌いな君へ。
本当に、その通りだと思う。
君は意地悪で、口が悪くて、いつも私を怒らせる。
私が嫌がることを知っているくせに、わざとからかってくる。
なのに、私が本当に落ち込んでいるときは、何も聞かずに隣にいてくれる。
傘を忘れた日には、一緒に帰ってくれた。
歩くのが遅い私に合わせてくれた。
私が寒そうにしていた日は、何も言わずに窓を閉めてくれた。
そんなこと、覚えていなくていいのに。
優しくなんて、しなくていいのに。
君に優しくされるたび、私は君を嫌いになれなくなる。
ほかの人と笑っているだけで、苦しくなる。
君に話しかけられない日は、寂しくなる。
君が私を見ていないと、気になって仕方がない。
本当に、最悪だ。
大嫌いなのに。
どうしようもなく、大好きだ。
桃は、最後の一文を書こうとして、ペンを止めた。
桃「……言えるわけないじゃん」
こんなの、絶対に言えない。
茈に知られたら、きっと笑われる。
いつものようにからかわれて、きっと恥ずかしくて、もう顔も見られなくなる。
それだけは嫌だった。
桃は便箋を丁寧に折りたたみ、封筒に入れた。
表には、もう一度だけ書く。
『拝啓、大嫌いな君へ。』
その手紙は、鞄の奥にしまわれた。
誰にも見つからないように。
自分の気持ちごと、閉じ込めるように。
# 08.もう、知らないふりはできない
翌日。
桃はいつもより早く教室に来た。
茈に会いたくなかったから。
まだ誰もいない教室で、窓の外を眺める。
もう、これ以上好きになりたくない。
好きになればなるほど、苦しくなる。
だから、少しずつ忘れよう。
そう決めたはずだった。
茈「……桃?」
背後から聞こえた声に、桃の肩が跳ねた。
桃「……っ、何?」
茈「早いな」
桃「茈こそ」
茈「……話したいことがある」
桃「俺、ない」
茈「俺にはある」
桃「……」
桃は鞄を持って、教室を出ようとした。
その瞬間。
茈「待って」
腕を掴まれた。
強くはない。
振りほどこうと思えば、簡単にできるくらいの力。
それでも、桃は動けなかった。
茈「……頼むから、逃げないで」
桃「……っ」
いつもの茈なら、絶対に言わない言葉だった。
からかうように笑って、適当に話を終わらせるはずだった。
なのに、今の茈は違った。
真剣で、少しだけ不安そうで。
桃は、どうしていいか分からなくなった。
桃「……何なの」
茈「この前は、ごめん」
桃「……え?」
茈「お前が嫌がってること、ちゃんと考えてなかった」
茈は一度、視線を落とした。
茈「お前が怒るのが面白くて、ついからかってた。でも……本当に嫌だったなら、もうやらない」
桃は何も言えなかった。
茈「……だから、前みたいに話してほしい」
桃「……何で?」
茈「……」
桃「茈は、何で俺にそんなに構うの?」
ずっと聞きたかった。
ずっと知りたかった。
どうして、自分にだけ意地悪をするのか。
どうして、時々あんなに優しくするのか。
どうして、離れようとすると追いかけてくるのか。
茈は、しばらく黙っていた。
そして。
茈「……お前だから」
桃「……え?」
茈「お前だから、構いたくなる」
桃の心臓が大きく跳ねた。
茈「お前だから、気になる。お前だから……」
そこで言葉が止まる。
茈は、少しだけ顔を赤くした。
茈「……くそ。何でこんなこと言わなきゃいけないんだよ」
桃「……知らないよ」
茈「……だよな」
二人の間に、沈黙が落ちた。
あと少し。
あと少しで、何かが変わる気がした。
けれど、桃には聞けなかった。
その言葉の続きを。
聞いてしまったら、きっと戻れない。
桃「……ごめん。俺、ちょっと考えたい」
茈「……分かった」
茈は、掴んでいた腕をそっと離した。
桃は教室を出た。
今度は、逃げるようにではなく。
自分の気持ちと向き合うために。
# 09.お前が好きだなんて、言えるわけない
それから数日間、二人は少しずつ会話をするようになった。
以前のように、何でも言い合えるわけではない。
けれど、完全に避けることもなくなった。
茈は、以前よりも桃をからかわなくなった。
桃が嫌がることを、ちゃんと気にするようになった。
それが嬉しい。
嬉しいのに、どこか寂しかった。
桃(……前みたいに、からかってくれればいいのに)
自分勝手だと思う。
嫌だったはずなのに。
今では、あの意地悪な笑顔さえ恋しくなっている。
そんな自分が嫌で、桃はため息をついた。
放課後。
桃が一人で帰ろうとしていると、茈が隣に並んだ。
茈「一緒に帰る?」
桃「……別に、いいけど」
茈「何、その言い方」
桃「茈こそ」
茈「……はは」
久しぶりに、茈が笑った。
その笑顔を見た瞬間、桃の胸がぎゅっと締めつけられた。
やっぱり、好きだ。
どうしようもなく、好きだ。
桃「……ねえ、茈」
茈「ん?」
桃「……茈って、好きな人いるの?」
言ってしまった。
自分でも驚くくらい、自然に。
茈は足を止めた。
茈「……何で?」
桃「いや、何となく」
茈「……いるって言ったら?」
桃の心臓が、嫌な音を立てた。
桃「……そっか」
茈「……桃?」
桃「……よかったじゃん」
笑おうとした。
いつも通りに。
何でもないふりをして。
けれど、うまく笑えなかった。
桃「……じゃあ、俺こっちだから」
茈「待てよ」
桃「何?」
茈「……お前は?」
桃「……え?」
茈「好きな人、いるの?」
桃は答えられなかった。
いる。
目の前に。
でも、言えるわけがない。
桃「……いないよ」
嘘だった。
人生で一番、下手な嘘だった。
茈は桃を見つめていた。
茈「……そっか」
その声が、少しだけ寂しそうに聞こえたのは、気のせいだったのだろうか。
# 10.大嫌いだから、苦しい
次の日。
桃は、茈が女子から告白されているところを見てしまった。
廊下の隅。
女子は真剣な顔で、茈を見上げていた。
女子「ずっと前から好きでした。付き合ってください」
桃の足が止まった。
聞くつもりなんてなかった。
見るつもりだってなかった。
ただ、通りかかっただけ。
なのに、どうして。
茈は少し驚いたあと、申し訳なさそうに口を開いた。
茈「……ごめん。気持ちは嬉しいけど、付き合えない」
女子「……好きな人、いるの?」
茈は、ほんの少しだけ黙った。
そして。
茈「……うん」
桃は、その場から逃げた。
これ以上聞いていられなかった。
茈に好きな人がいる。
当たり前だ。
茈は優しいところもあるし、顔だっていい。
好きになる人がいてもおかしくない。
それなのに。
桃(……嫌だ)
嫌だ。
聞きたくなかった。
知りたくなかった。
茈が誰かを好きだなんて。
その誰かが、自分じゃないかもしれないなんて。
桃「……っ、何で……」
目の奥が熱くなった。
こんなことで落ち込むなんて。
こんなことで傷つくなんて。
本当に、どうかしている。
桃「……大嫌い」
何度も言い聞かせた。
大嫌い。
大嫌い。
大嫌い。
そうすれば、この気持ちも消えてくれると思った。
でも。
桃「……好き、なのに」
声に出した瞬間、もう誤魔化せなくなった。
俺は、茈が好きだ。
大嫌いだと思っていた。
ずっと、そう思い込んでいた。
なのに、気づけば誰よりも大切になっていた。
桃「……ばか」
誰よりも、茈のことを好きになってしまった自分が。
一番、ばかだった。
# 11.手紙の行方
その日の放課後。
桃は、誰もいない教室で鞄の中を探していた。
ない。
いつも入れていたはずの封筒が、どこにもない。
桃「……え?」
何度も鞄の中を確かめる。
教科書の間。
ノートの下。
ポケットの中。
どこにもない。
桃「……嘘でしょ」
あの手紙。
茈への気持ちを、全部書いた手紙。
誰にも見せるつもりなんてなかった。
ましてや、本人になんて。
桃「……どうしよう」
顔から血の気が引いていく。
もしかして、落とした?
教室に置いてきた?
誰かが拾った?
考えれば考えるほど、頭が真っ白になる。
そのとき。
茈「……桃?」
背後から声がした。
桃は勢いよく振り返った。
茈が立っていた。
そして、その手には。
見覚えのある封筒が握られていた。
桃「…………え」
茈「……これ」
桃「っ、返して!」
桃は慌てて手を伸ばした。
けれど、茈は封筒を少しだけ持ち上げた。
茈「待って。これ、お前の?」
桃「そうだよ! だから返して!」
茈「……中、見てない」
桃「……本当に?」
茈「……ああ」
桃は、少しだけ息を吐いた。
よかった。
まだ、知られていない。
まだ、間に合う。
桃「……じゃあ、早く返して」
茈は封筒を差し出した。
桃が受け取ろうとした、その瞬間。
封筒の口から、一枚の便箋が滑り落ちた。
床に落ちた紙。
そこに書かれていた文字。
『拝啓、大嫌いな君へ。』
茈の視線が止まった。
桃「……っ!」
拾おうとした。
けれど、その前に茈が便箋を手に取った。
茈「……これ」
桃「見ないで!」
桃の声が、教室に響いた。
茈は驚いたように顔を上げた。
桃「お願いだから……見ないで」
その声は、震えていた。
茈は、しばらく桃を見つめた。
そして、静かに便箋を封筒へ戻した。
茈「……分かった」
桃「……え?」
茈「見ない。約束する」
茈は封筒を桃に渡した。
桃は、それを胸に抱きしめるように受け取った。
茈「……でも、一つだけ聞いていい?」
桃「……何」
茈「これ、誰に書いたの?」
桃は息を止めた。
答えられない。
答えられるわけがない。
茈は、少しだけ笑った。
茈「……いや。答えなくていい」
桃「……」
茈「ただ、お前が誰かを好きなんだなって思っただけ」
その言葉が、胸に刺さった。
違う。
違うんだ。
好きなのは。
ずっと好きだったのは。
桃「……茈には、関係ない」
そう言うのが精いっぱいだった。
茈は何も言わなかった。
ただ、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
# 12.もう一度、好きになってもいいですか
その夜。
茈は、自分の部屋で一人、天井を見つめていた。
桃の手紙。
中身は見ていない。
約束したから。
けれど、表紙に書かれていた言葉が、頭から離れなかった。
『拝啓、大嫌いな君へ。』
誰に向けて書いたのだろう。
桃には、好きな人がいる。
そう思うだけで、胸の奥が苦しくなった。
茈「……最悪」
今まで、こんな気持ちになったことはなかった。
誰かに好かれても、告白されても、特に何も感じなかった。
でも、桃だけは違った。
桃が笑うと嬉しい。
桃が怒ると、つい構いたくなる。
桃が自分を避けると、どうしようもなく苦しい。
桃が誰かを好きだと思うと、胸が締めつけられる。
茈「……好きなんだよな」
分かっている。
もう、とっくに分かっていた。
けれど、今さら伝えるのが怖かった。
もし、桃に好きな人がいたら。
もし、桃に嫌いだと言われたら。
今度こそ、本当に隣にいられなくなるかもしれない。
茈「……でも」
茈は目を閉じた。
このまま何も言わなかったら。
桃が誰かと付き合ったら。
自分はきっと、ずっと後悔する。
茈「……言うしかないか」
小さく呟いた声は、誰もいない部屋に消えていった。
翌日。
桃は、いつも通り茈を避けようとしていた。
けれど、教室に入った瞬間。
茈「桃。今日、放課後空いてる?」
桃「……何で?」
茈「話したいことがある」
桃の心臓が跳ねた。
もしかして、手紙のこと?
いや、でも、中身は見ていないと言っていた。
それなら、何の話だろう。
桃「……別に、空いてるけど」
茈「じゃあ、待ってて」
そう言って、茈は自分の席へ戻っていった。
桃は、その背中を見つめた。
胸の奥が、嫌なほど騒がしかった。
# 13.大嫌いで、大好きな君へ
放課後。
茈に連れてこられたのは、校舎裏の静かな場所だった。
夕日が差し込んで、辺りがオレンジ色に染まっている。
桃「……何? 話って」
茈「……ああ」
茈は珍しく、なかなか口を開かなかった。
桃「……?」
茈「……俺さ」
桃「うん」
茈「お前のこと、ずっと勘違いしてた」
桃「……何を?」
茈「嫌いだと思ってた」
桃の胸が、ぎゅっと痛んだ。
やっぱり。
そうだよね。
茈にとって、自分はそういう存在なんだ。
桃「……うん」
茈「でも、違った」
桃「……え?」
茈は、桃を真っ直ぐ見た。
茈「お前がほかのやつと話してると、腹が立つ」
桃「……」
茈「お前に避けられると、何も手につかなくなる」
桃「……」
茈「お前が笑ってると嬉しいし、俺以外のやつに笑いかけてると、嫌になる」
茈は、一度だけ息を吐いた。
茈「……最初は、本当に分からなかった」
桃は何も言えなかった。
茈「お前のこと、うるさいと思ってた。面倒くさいとも思ってた。素直じゃないし、すぐ怒るし」
桃「……ひどい」
茈「最後まで聞け」
桃「……はい」
茈は少しだけ笑った。
けれど、すぐに真剣な表情に戻った。
茈「でも、気づいたら、お前がいないとつまらなくなってた」
茈「お前と喧嘩できない日が、嫌になってた」
茈「お前が俺を見なくなるのが、怖くなってた」
茈は、少しだけ視線を落とした。
茈「……好きなんだよ」
桃の呼吸が止まった。
茈「桜司 桃。俺、お前が好きだ」
夕日の音が聞こえる気がした。
もちろん、そんなものはない。
ただ、心臓の音だけがうるさかった。
桃「……嘘」
茈「嘘じゃない」
桃「……だって、茈は……」
茈「うん」
桃「俺のこと、ずっとからかってたじゃん……」
茈「……悪かった」
桃「嫌いだって、何度も言ったじゃん……」
茈「……うん」
桃「……俺、ずっと……」
声が震えた。
言いたいことは、たくさんある。
どうして今なの。
どうして、もっと早く言ってくれなかったの。
どうして、そんなに真剣な顔をするの。
どうして。
どうして、そんなに嬉しいんだろう。
桃「……俺も」
茈「……え?」
桃「……俺も、茈が好き」
茈は目を見開いた。
桃は顔を真っ赤にしながら、必死に言葉を続けた。
桃「大嫌いだった。意地悪だし、口悪いし、いつも私を怒らせるし……」
茈「……お前、それ今言う必要ある?」
桃「ある!」
茈「……はい」
桃「でも……優しいところも知ってるし、一緒にいると楽しいし……茈がほかの人と話してると、嫌で……」
桃は俯いた。
桃「……ずっと、好きだった」
茈は、しばらく何も言わなかった。
桃「……何か言ってよ」
茈「……いや」
桃「いや?」
茈「……嬉しすぎて、何言えばいいか分かんない」
桃「…………っ」
その言葉に、桃の顔がさらに赤くなる。
茈も、耳まで赤くなっていた。
いつもなら余裕そうな茈が、こんなに照れている。
それが嬉しくて、恥ずかしくて、どうしようもなかった。
茈「……なあ、桃」
桃「……何」
茈「……付き合ってほしい」
桃は、目を丸くした。
桃「……え?」
茈「だから。俺と、付き合ってください」
桃「……っ、何でそんなに真面目なの!?」
茈「真面目に言ってんだよ!」
桃「……っ」
桃は口元を手で覆った。
嬉しい。
嬉しすぎる。
ずっと望んでいた言葉だった。
桃「……よろしく、お願いします」
茈「……っ、ああ」
二人とも、顔が真っ赤だった。
しばらく沈黙が続く。
やがて、茈がそっと手を差し出した。
茈「……手、つないでもいい?」
桃「……っ、いちいち聞かないでよ」
茈「嫌ならやめる」
桃「……嫌じゃない」
小さな声だった。
それでも、茈にはちゃんと聞こえた。
茈は桃の手を、そっと握った。
桃も、握り返した。
初めて触れた手。
初めて伝えた気持ち。
初めて知った、好きな人の温度。
桃「……手、熱い」
茈「お前もな」
桃「……緊張してる?」
茈「……してるよ。悪いか」
桃「……別に」
茈「お前は?」
桃「……してる」
茈「……そっか」
二人は顔を見合わせた。
そして、同時に笑った。
今まで何度も言い合ってきた。
大嫌いだと。
顔も見たくないと。
二度と話したくないと。
けれど、本当は。
ずっと、隣にいたかった。
ずっと、笑い合いたかった。
ずっと、好きだと言いたかった。
# 14.拝啓、大好きな君へ
付き合い始めてから、三日が経った。
……たった三日。
なのに、桃にとっては大事件の連続だった。
まず、茈が恋人になった。
次に、茈が以前より優しくなった。
そして何より。
桃「……何でそんなに見るの?」
茈「別に」
桃「絶対見てた!」
茈「見てたけど」
桃「……っ、何で!?」
茈「彼氏が彼女を見るのに理由いる?」
桃「…………は!?」
桃は思わず声を上げた。
桃「ちょっと待って! そういうの、急に言わないで!」
茈「何で?」
桃「恥ずかしいから!」
茈「……ふうん」
茈は、楽しそうに笑った。
桃「……もう! やっぱり嫌い!」
茈「はいはい」
桃「本当に嫌い!」
茈「……俺も」
桃「……っ」
一瞬、胸が痛くなった。
けれど。
茈「……大好きだけどな」
桃「…………っっ!?」
桃はその場で固まった。
茈「……何、その顔」
桃「……っ、うるさい!」
茈「顔、赤いぞ」
桃「茈のせいでしょ!」
茈「そうだな」
桃「……っ、もう知らない!」
逃げようとした桃の手を、茈がそっと握った。
茈「……待って」
桃「……何」
茈「一緒に帰ろう」
桃「……最初からそう言えばいいじゃん」
茈「悪い悪い」
桃「……本当に反省してる?」
茈「してるよ」
桃「……絶対嘘」
茈「はは」
二人は手をつないで歩き始めた。
まだ、恋人になった実感はない。
手をつなぐだけで緊張するし、目が合うだけで恥ずかしい。
好きだと言われるたびに、顔が熱くなる。
それでも。
以前より、ずっと近くにいられる。
桃「……ねえ、茈」
茈「ん?」
桃「……これからも、喧嘩すると思う」
茈「だろうな」
桃「……意地悪も、するでしょ」
茈「お前が怒らない程度にな」
桃「……できるの?」
茈「……努力する」
桃「ふふっ」
茈「……何笑ってんだよ」
桃「何でもない」
茈は、つないだ手に少しだけ力を込めた。
茈「……桃」
桃「何?」
茈「好きだよ」
桃は足を止めた。
何度聞いても、慣れそうにない。
そのたびに胸がいっぱいになる。
桃「……俺も、好き」
今度は、逃げなかった。
顔を隠さなかった。
ちゃんと、茈を見て言えた。
その夜。
桃は机に向かい、一枚の便箋を取り出した。
あの日、茈に渡せなかった手紙。
『拝啓、大嫌いな君へ。』
その文字を見つめ、桃は小さく笑った。
そして、新しい便箋にペンを走らせる。
『拝啓、大好きな君へ。
君は、今でも意地悪で、口が悪くて、素直じゃない。
きっとこれからも、私は何度も怒ると思う。
君のことを大嫌いだと言う日だって、あるかもしれない。
でも、もう知っている。
君が笑うと嬉しいこと。
君に名前を呼ばれると、胸がいっぱいになること。
君の隣が、一番落ち着くこと。
君のことを考えると、どうしようもなく幸せになること。
私は、君が大嫌いだった。
なのに、気づいたら君が大好きになっていた。
だから、これからも隣にいさせてください。
喧嘩しても、すれ違っても、ちゃんと君と向き合いたい。
大嫌いで、大好きな君へ。
これからも、ずっとよろしくね。』
桃は書き終えた手紙を、そっと胸に抱いた。
そして、次の日。
桃は茈に、その手紙を渡した。
桃「……これ」
茈「何?」
桃「……読めば分かる」
茈は不思議そうに封筒を受け取った。
表に書かれた文字を見て、目を見開く。
『拝啓、大好きな君へ。』
茈「……桃」
桃「……何?」
茈「……これ、俺に?」
桃「……ほかに誰がいるの」
茈「……いや」
茈は、少しだけ笑った。
そして、大事そうに手紙をしまった。
茈「……ありがとな」
桃「……うん」
茈「……俺も、書こうかな」
桃「……え?」
茈「お前宛てに」
桃「……っ、別にいいよ!」
茈「何で?」
桃「恥ずかしいから!」
茈「……じゃあ、書く」
桃「何で!?」
茈「お前に、ちゃんと伝えたいから」
桃は、もう何も言えなくなった。
ただ、茈の手を握った。
茈も、握り返してくれた。
# 00 大嫌いな君と、これからも
数週間後。
桃「……茈、嫌い」
茈「はいはい」
桃「……本当に嫌い」
茈「俺も」
桃「……っ」
茈「……大好きだけど」
桃「…………っ、ばか!」
茈「ははっ」
桃「笑わないで!」
茈「悪い悪い」
桃「……もう知らない!」
茈「……桃」
桃「……何」
茈「こっち向いて」
桃「……嫌」
茈「お願い」
桃は、少しだけ迷ってから顔を上げた。
茈は、いつもの意地悪な笑顔ではなく、優しく笑っていた。
茈「……好きだよ」
桃「……っ」
桃「……俺も」
茈「……もう一回」
桃「絶対に嫌!」
茈「えー」
桃「……っ、もう!」
それでも、桃はつないだ手を離さなかった。
大嫌いだった。
本当に、大嫌いだった。
意地悪で、口が悪くて、素直じゃなくて。
何度も腹が立ったし、何度も泣きそうになった。
それでも。
その全部を知った今、桃は思う。
ああ、やっぱり。
この人が好きだ。
誰よりも。
何よりも。
大嫌いで、大好きな、この人が。
そして茈もまた、つないだ手をそっと握り直した。
もう、好きという気持ちから逃げない。
もう、大嫌いという言葉で誤魔化さない。
これからも、きっと喧嘩する。
意地を張るし、素直になれない日もある。
それでも、二人なら大丈夫。
だって、二人はもう知っているから。
大嫌いという言葉の奥に、どれだけ大きな好きが隠れていたのかを。
拝啓、大嫌いな君へ。
今では、誰よりも大好きな君へ。
これからもずっと、隣にいてください。
大嫌いで、大好きな君へ。
心からの愛を込めて。
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夜凪くらさん、第1話読了しました🌙 「大嫌い」って言い合いながら、無意識に相手を気遣ってるところが尊すぎます…雨の日に傘を傾ける茈くん、何それずるいです。桃くんの「大嫌いなのに好き」っていう気持ちの変化が丁寧に描かれていて、読んでるこっちまで切なくなりました。続き、ゆっくり読ませていただきますね🤍