コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
_____________
優しい風が、そよそよと俺の髪を揺らす。それは、風呂上がりの肌には少し冷たく感じた。
ベランダで、煙草を片手に空を見上げる。火は、まだ付けていない。なんだか今日はそういう気分で、なんの迷いもなく手に取った。別に、吸いたいわけではないけど。そういう気分、ただ、それだけ。
ライターをカチッとすれば、小さな火が風に揺れながら灯る。煙草を咥え、ゆっくりそいつに近付けた。
もうすぐで着火、という所まで来て、窓がガラガラっと開く音。反射で視線をそちらに向けた。
「なに、めずらしー」
「…..まぁ、たまにはな」
「ふーん…..」
不思議そうにこちらを見ながら、乾いた返事を返してくる奏斗。せっかく灯した火は、奏斗が現れたことで一度消えてしまう。その為、もう一度カチッとライターを鳴らす。
再びそれを煙草に近付けるが、あまりに視線が痛くてもう一度消すことにする。
「どした?そんな見て」
「んーん、べっつに〜」
「そ?」
煙草を咥え直すと、横から腕が伸びてきて、それは口元からいなくなる。
「奏斗も吸いたい?」
「…全然?」
ベランダの柵に腕を置き、俺から取り上げた煙草をじっ、と見つめている。
なにか、言いたいことでもありそうな、ただ単に邪魔してるだけのような、…..いやでもこれは、俺に言いたいことがあるんだろうな、と思いながら、ポケットから箱を取り出し、煙草をつまみ出す。それにすぐ気付いた奏斗が、また腕を伸ばしてきたので今度は避ける。
「どした?」
「それ、身体に悪いでしょ」
「…まぁ、そうだけど。珍しいな、そんなん気にするなんて」
「そうかな?普通じゃない?」
「どーだか」
先程つまみ出した煙草を咥えると、やっぱり近付いてきて、取り上げられてしまった。
それと、………..。
「っん…..、」
重なった唇は、すぐに離れた。されると思ってなくて、ぽかんと奏斗を見つめる。
「それ辞めてさ、…..コレにすれば良くない?」
「………….。」
「なんか言えよ!」
「…….いや、…..びっくりして。」
俺が、『そういう気分』になった時、キスをしても許されるという事なのだろうか。俺からすれば、そう言われているようだが。
「それ、吸いたくなったらさ、俺の事引っ張り出していいよ」
「そんなに吸って欲しくないん?」
「…….別に、吸うのは雲雀の勝手だけど。」
「じゃあ、なんでそこまで…..」
「………….。」
「あれ?…..奏斗さーん?……っわ」
言いたくないのか、黙り込んだ奏斗を呼べば、グイッと胸ぐらを引っ張られ、再び唇が重なった。
「っん、…んぅ…..ん」
自分からする分には平気だが、されるのはなかなかに慣れず、情けない声が漏れてしまう。それに、奏斗からキスをしてくる事は稀だ。慣れているわけが無い。
なんとか自分のペースにしようと、奏斗の腰を引き寄せる。すると、目を見開いてから眉を寄せた。途端、舌がいやらしく絡まってくる。それに対して、負けるか、と、俺は奏斗の耳を弄る。
「っん、…..んん…..っ」
「…..んっ…….はっ、」
どちらかともなく、唇を離す。謎に競った為、二人して肩で息をした。
薄い酸素の中、奏斗が途切れ途切れに口を開く。
「っもう、…..いいから、…っ煙草吸うくらいなら、俺にしろ…..」
「っえ、…..?」
耳を疑った。『煙草吸うくらいなら、俺にしろ』?
俺は別に、煙草じゃ無くても良かった。たまたま、コンビニで目に止まったから買ってしまっただけで。煙草じゃ無くて、酒でも、…..奏斗でも、良かったけど。そこで奏斗を選ぶのは、自分が許せなくなるから辞めた。奏斗は、人間だ。都合の良い、物では無い。
だから、………。
「…..でも、…さぁ…..」
「…もー、俺が良いって言ってんの。」
「…..うん、」
「雲雀は優しい奴だよ。だから、俺がこうやって言わなきゃ、そのまま肺が真っ黒になってっただろうね」
「…..そうだな」
「吸いたくも無いくせに」
「…..はは、…..バレてた」
なんとなく、分かってた。俺が、別に吸いたくもない煙草を手に取ってることを、奏斗は分かってて止めに来てるんだと。吸おうとしてる理由も、きっとなんとなく、理解しているんだろう。だから、俺にしろ、と。俺を使え、と。
………頼れ、と。言いたいんだろう。
「分かった?」
「…..ん、…..ありがとな、奏斗」
「それでよし」
くしゃっと頭を撫でられる。その手の温かさに少し、泣きそうになった。
_____________