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monologue 4
あれからの日々はなんだか酷く無味乾燥な日々だった。
ギターにもなかなか触れずに、サッカーに明け暮れた。
「お前ギターはもういいの」という兄の言葉に、「卒ライ終わったし」と答えたが、今思えば逃げていた。
元貴がいなくなったことを、感じていたくなかったから。
サッカーはやはり楽しくて、新しい高校の制服に腕を通すのも慣れてきた時、スマホの通知音が鳴った。
元貴のYouTubeアカウントの通知音だった。
新しい曲をあげたようだった。
地元の知り合い同士しかフォローしてないような小さなアカウントだった。
聞くか小一時間迷って、そのままスマホを閉じた。そのままサッカーの練習に向かったが、結局俺は聞いた。
サッカーの練習中も頭の中から離れなくて、モヤモヤとして失敗を重ねた試合の後、部員たちに文句を言われながら、適当に相槌を返して、すぐに着替えると、飛び出すように学校を出た。
やたら早足で帰路を歩き、暫くしてから、意を決してイヤホンを繋いで、聞いた。
その日、俺は少し泣きながら帰った。
何に泣いていたのかは分からない。
感動したのか、戻れない卒ライの瞬間を思い出したのか、はたまた、元貴に会いたいという感情が溢れて仕方なかったのか、自分の後悔なのか、もはや今でも分かりはしないが、俺は泣いて帰った。
帰ってすぐ俺の顔を見た母親は少しギョッとした顔をして、「どうしたの」と声をかけてきたが、なんでもない、と軽くいなして、自分の部屋に戻った。
その晩、ギターを手に取るのに、もはや何の説明も要らなかったことは、いうまでもない。
あれから、日中はサッカー、帰宅したらギター、その繰り返しで、指の痛みもすっかり感じなくなるほど、ギターを繰り返し繰り返し腐るほど練習した。
中学卒業時と比べて、相当うまくなったと思う。
今なら元貴に会える。
そう思った。
あの時の俺は、何に焦がれていたのか、音楽なのか、ステージなのか、分からなかったが、俺は軽音部には入らなかったから、やっぱり、どうしても元貴と音楽をしたかったのだと、今更ながらに思う。
今思えば気持ち悪い話だが、元貴の最寄駅、俺の家からも歩いて行ける距離なのだけど、俺の最寄りではなかったその駅を何度もウロウロするようになった。
似たような背格好の人を見て、少し小走りで近づいて見て、何度もがっかりした。
昔はチャイムを鳴らして簡単に会えたのに、今は、会いに行く口実がない。
あまりにも虚しくて悲しくて、でも諦めきれずに通っては、そろそろ、もう無理か、と思っていた頃だった。
「若井じゃん」
後ろから声をかけられて、振り返らずともわかるその声に、全身に電気が流れたような衝撃と、待ちに待ったはずのその姿に、どうしようもない緊張を感じた。
ドキドキしながら振り返ると、俺とは違って制服を持たない元貴は少し大きめのパーカーを着ていて、相変わらず背中にはギターバッグを背負っていた。
「こんなとこでなにしてんの」
記憶より背が低く見える元貴は、俺の背が伸びたからに違いなくて、時間の経過を感じさせた。
「あっ、いや、元貴、久しぶり!なんかこの辺の本屋で買い物してて…たまたま!」
「ふぅん」
元貴の視線は俺から俺の背中のギターバッグに移った。
元貴ってこんな顔してたっけ。
綺麗な顔だな。
睫毛長いな、上から見えてるからかな。
「…若井まだギターしてんの?」
「し、してる!してるしてる!超してるよ、前よりずっとうまくなったと思うし…今でもずっと、好きだよ」
今でもずっと好きだよ、が、何を指していたのかは、そりゃ、ギターのつもりで言ったのだが、なんか紛らしかったただろうか、とか、そう思ったのは、あの頃から俺がめちゃくちゃ元貴をそういう意味で無意識に考えてたからだろう。
元貴はさっきよりトーンの高い「ふぅん」を寄越すと、悪戯っぽく笑って、
「俺、今、ギタリスト探してるんだけど。興味ない?」
と言った。
神様がいるなら、いつだって自分勝手で、傲慢で、気まぐれだ。
俺が探してる時は見つからないし、ある時急にこちらに擦り寄ってくる。
どうしようもない高揚感を再び感じながら、俺がyesを答えるのに理由など要らなかった。それが、最初から、目的だったから。
あの日から、俺の神様は、元貴の姿をしている。
コメント
1件
ああ、もう……この話、深すぎるよ。元貴に再会するシーン、待ちわびてた感が一気に溢れてきて泣きそうになったわ。特に「今でもずっと好きだよ」がギターの話でもあり、元貴そのものにも聞こえる絶妙なライン、ヤバかった。若井くんの成長してるけどまだ青い感じ、すごく伝わってきた。次の話、絶対読みたい🔥