テラーノベル
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〈ノワール視点〉
3日前。
モブ「取り逃しました…」
下っ端の者から報告を受けた。
俺はグラウの顔を見る。
彼は、短く頷いた。
俺は、其奴の頬を思いっきり蹴っ飛ばした。其奴の歯が数本とんだ。
暗い静寂の中。
狭い通りで全く音が響かないはずなのに、身体を強打する音だけが響いていた。
腹、顔などを何度も蹴り、半殺しにした。
他の下っ端たちは全員、耳を塞いだり、目を伏せるような仕草を見せる。
ノワ「痛いだろ」
俺は言う。
ノワ「任務失敗の事の重さを自覚しろ」
「次はない」
モブ「………は、い…」
血を吐きながら絞り出して言う、其奴の目。
恐怖と忠誠が、同時に染みついた目だった。
人は、痛みを覚えた分だけ従順になる。
これぐらいが丁度いい。
グラ「派手にやるね。あれで死んだらどうするの」
グラウは言う。
ノワ「あの程度じゃ死なない。甘えんな。折ったのは鼻と歯だけだ」
「…医療班を」
モブ「は、はい!」
別の下っ端が駆け出した。
グラ「ノワール」
「焦らなくて良い。君は十分やってるから。ありがとう」
グラウの穏やかな声。
ノワ「……」
グラ「明日も学校だろ。今日はもう帰って寝て」
俺は短く舌打ちをする。
黒い手袋を外し、ポケットの中に仕舞い込んだ。
〈🍫視点〉
サン🍫「下っ端3人の撃退が完了しました」
クラ『ありがとう。よくやったわ。引き続き警戒は続けてね』
サン🍫「あの…その中に、顔をひどく怪我している者がいたんですが…」
クラ『顔を酷く怪我…?其奴とは初対面よね?』
サン🍫「はい、殴られたり蹴られたりしたような跡でした」
「包帯や絆創膏は、貼られていましたが…かなり痛々しかったです」
クラ『…なるほど。仲間内での揉め事かしら』
…違う。私は、悟った。
これは、制裁なんだ。
サン🍫「あの傷、何だろう……仲間割れというより…〝見せしめ〟みたいでした」
無駄に殺さない代わりに、二度と忘れない痛みを刻み込んで、相手を従わせるための力の使い方だ。
クラ『その人物、回収班が確保したわ。意識はある』
『他の2人も、同じく意識はある。…重症だけどね』
『証言を取れればいいけれど……口を割らない可能性が高いと思う』
サン🍫「…..分かりました」
回収班に連れて行かれた男の顔が、脳裏に焼きつく。
恐怖で歪んだ表情。
それでも、口を閉ざす覚悟。
サン🍫(命令した〝誰か〟が、よっぽど怖いんだ…)
ただ強いだけじゃない。
恐怖の使い方をよく知っているから厄介なんだ…。
クラ『サントラー、撤退して。今夜はここまでよ』
クラウン幹部の声が、無線に流れる。
サン🍫「……了解です」
風が冷たい。
私はビルの縁から立ち上がった。
街の灯りは、まるで星の海みたいに瞬いていた。
【翌朝】
その朝は、昨日と変わらない日常で満ちていた。
教室の中で、🦖ッピと🎸が話しているのが耳に入ってきた。
🦖「残るの、嫌だ。ゼッタイ」
🎸「しょうがないだろただでさえ俺らのクラスが一番遅れてるんだから」
🦖「でも今回の執行部融通が利かない奴らばっかりだし厳しいしなんか怖いし」
🎸「今日は時間がないから、明日のロングホームルームの時間のために個人個人で案を考えてきてもらうことにしようよ」
「そっちの方が今日の委員会でまだ示し合わせられる」
🦖「確かに……🎸リン天才かよ、(泣)」
あの2人…確か、文化祭の実行委員だったはずだ。
文化祭まで、あと3周間ちょいだった。
高校3年生なので、大学受験をする人もいれば、就職する人もいる。
みんなそれぞれが忙しくて、文化祭どころじゃなかった、というのもある。
まだクラスの出し物が何も決まっていないし、実行委員もいよいよ動きを見せるだろうか。
その日、クラス全員が明日までにクラスの出し物のアイデアを考えてくることになった。
私は、あまり良い案が浮かばなかった。
【放課後】
クラ『サントラー。今晩、昨日捕まえた者たちの尋問をするつもりなんだけど』
クラウン幹部だった。
サン🍫「行きます、!」
私は考える暇もなく、咄嗟に答えていた。
クラ『…ありがとう、本拠地の地下室で待っているわ』
本拠地の地下室…そこは、拷問部屋のような場所だった。
私は覚悟を決めて、走り出す。
本拠地の地下室。
私はそこに辿り着くと、空気が一層重くなっているのを感じた。
クラ「言いなさい」
クラウン幹部の声だ。
男「…無理だ」
椅子に縛られた男の顔は蒼白だった。
クラ「ノワールかグラウの特徴を、一つだけでもいいの」
クラウン幹部は、声を低くして言う。
男「言えない、!!」
クラ「…どうして?」
男「…言ったら、言ったら殺される、」
男の目は、どこか遠くを見ているようだった。
男「ずっとそうやって、教育を受けてきた…」
「…どんな理由があろうと、裏切り者は必ず見つかって連れ戻され、…惨い最期を迎える…」
男は、ひどく怯えた様子だった。
私は、地下室の後ろの方に立って話を聞いていた。
男「俺は何度も見てきた……裏切った者たちが拷問を受けて無残な死に方をするのを…!!」
男は、過去の出来事を思い出したようで、何度も嗚咽を漏らした。
男「俺たちはそれを目の前で見せられたんだ、…二度と裏切りを起こさせないためにな……」
クラ「……うーん…、これはなかなかね」
クラウン幹部は、私に一歩前に出るように言った。
私も、男の目の前まで来て言う。
サン🍫「そうですね。…なら、一つだけ教えてほしいことがあるんだけど」
男「な、何だ…俺は、何も話せないぞ、」
サン🍫「顔の傷、痛いでしょ。これは、見せしめ?仲間割れ?」
男「……ノワールさんに、蹴っ飛ばされた」
やっぱり。
男「あの人は秩序を重んじる人だから、」
サン🍫「秩序…か」
私は呟いた。
クラ「皆、彼のことが怖くないの?」
クラウン幹部は聞く。
男「………勿論怖い。けど、あの人の言ってることは、全部正しすぎる、」
クラ「どういうこと?」
男「目的のために手段を選ばないだけで、やっていることに無駄がない」
「だから、どんな無茶な命令でも、やり遂げないといけなかった」
サン🍫「ノワールの目的って?」
一泊間を置く。
男「それは言えない…」
サン🍫「…そうですか。…クラウン幹部、この人、どうしますか…?」
クラ「まだ生かしておいた方がいいわ。身体中の傷も治り切っていない」
「気が動転してるかもしれないし」
サン🍫「…分かりました」
男はそれ以上、何も話さなかった。
唇を噛みしめ、視線を床に落としたまま。
クラウン幹部が合図を出し、医療班が入ってくる。
男は縛られていた縄を解かれ、代わりに施錠がされて、連行されていった。
地下室に残ったのは、私とクラウン幹部だけ。
サン🍫「…ノワールは、正義を語るような人なんですか?」
私は、問う。
クラ「いいえ。あの人は、正しさを疑わないんだと思う」
正しさを疑わない…。
だから間違ったことは、切り捨てる。
クラ「ノワールには、守りたいものがある…。何だかどこか、あなたと似てる気がする」
クラウン幹部は、私の顔を見て言った。
クラ「だけど、あなたと彼では、決定的な違いがあるわ」
「あなたは失った命を忘れないけれど、彼は失った命を壊れた駒としか思っていない」
サン🍫「…」
クラ「あなたはあなたのやり方を信じなさい」
「迷っていいの。いずれ決断しなきゃいけない時がくるから」
クラウン幹部はそう言い残し、地下室を後にした。
私は、しばらくそこに立ち尽くした。
地下室の扉が閉まる音が、低く響いた。
残された空間には、血と薬品と、恐怖の名残だけが漂っている。
私は、無意識に拳を握っていた。
サン🍫(正しさを、疑わない……)
それは、強さだ。
そして同時に___最も危険な思想でもある。
強くて、脆い。
サン🍫「…守りたいものがある、か」
私にもある。
だからこそ、引き金を引いてきた。
だからこそ、後悔を抱えたまま夜を生きている…。
サン🍫(でも……)
あの男の目を思い出す。
恐怖と忠誠が混じった、歪んだ光。
「正しすぎる」人間に従う時、人は自分で考えることをやめる。
私は静かに地下室を出た。
『あなたはあなたのやり方を信じなさい、迷っていいの』
クラウン幹部の言葉が、脳内で再生される。
サン🍫「もしノワールなら…迷うことは弱いことだって、言うのかな」
それでも、いずれ決断しなきゃいけない時がくる。
何かを選ぶということは、何かを捨てるということだ。
迷って、選んで、時に後悔する。
それは……そのやり方は____
強くて、弱いんだ。
夜風が、頬を刺す。
本拠地の屋上に出ると、街の灯りが広がっていた。
無数の光。
ノワールは、「秩序」を口にする人間だという。
守るために壊し、壊すことを合理化する。
サン🍫(……それは正義なんかじゃない)
(でも、理解できてしまう自分がいる…)
ノワールは正しさを疑わない。
サン🍫(…私と同じじゃないよ)
夜の街は、今日も私の「知らない夜」を孕んでいる。
その闇の中で、私は一歩ずつ進むしかない。
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