テラーノベル
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第30話読了〜!!🌸✨ 映画館だと思ったらまさかの芝居小屋って、もうそこからワクワクが止まらんかったよ!🫣💕 結が翠の横顔ドキドキしちゃう感じとか、「魔法があるんだ」って願うシーン、胸がギュッてなった😭🌈 手を引いて信号渡る翠、かっこよすぎん!?2人の距離がじわじわ縮まってくの、尊すぎて泣く🥹💖 続き、待ってます!!
映画館だと思って入った扉には、『チケット一枚八〇〇円ぽっきり!』と手書きで書かれてポスターが貼られていた。チケットを売ってくれたおじさんに、
「いくつ観ていってくれてもいいよ」
と言われて結は首を傾げた。映画のチケット代にしては安すぎるし、一枚のチケットでいくつも観られるなんて今時の映画にしては珍しい。本当にここは映画館なのかと怪しく思えたが、翠は特に気にする様子もなく、どんどん先を歩いて劇場に中に入っていってしまった。結は慌ててあとを追いかける。
「結、こっち」
端の席を確保した翠が手をあげて呼んだ。
「なんか昔ながらの映画館って感じよね」
周囲を見回しながら、興味深そうに翠は言う。上演を知らせる音が鳴って、客席の灯りが消えて暗くなる。逆に舞台にぱっと灯りがついて、舞台の左右の袖から人が出てくる。
一人はわざとらしく走って来て息を切らす。もう一人は椅子を抱えて出て来て、二人が揃うと台詞を言い合い出した。
映画観だと思っていたが、繰り広げられていくものは芝居だった。
「こういうの嫌い?」
顔を横へ向けると、翠の顔がすぐ横にあって、初心な女の子になったみたいに結は頬を赤らめて首を左右に振った。
「そう。じゃあ一つ観て行こう」
隣で芝居を見て翠が笑っている。それだけで結の鼓動は速くなって苦しくなる。
嫌なことを忘れようと意味不明な台詞を繰り返す芝居に、無理して笑おうとしているのかと思っていたが、そこまで無理をしているわけではなくだんだん心から楽しんで笑っているように思えて、また違う翠の一面を知れたようで嬉しくて、やっぱり結の鼓動は速く打ち続けた。
最初はちょっとバカにしていた。
こんなド素人の芝居だからって。
翠のようには、最初からは笑えなかった結だったが結局続けて三本も見てしまった。
どれもショートストリーで、一つの話が十分か長くても十五分ほどの芝居で、三本続けてやると一度客席の照明が明るくなった。結と翠が立ち上がると、すぐ後ろの席に座っていた男性が話しかけてきた。
「あんたたち随分熱心に見てくれていたねえ」
「こういうの初めてだったので新鮮でした」
翠が答えた。
「そう。ならよかったよ。みんないい奴なんだけど、どうも芝居に向かいないっていうか、素質が足りないのか万年ダイコンでね」
ああ大根役者って言いたいのね。演技力のない役者のことをそう呼んだりする。
「僕ねえ俳優養成事務所の社長をやっている者でね。あいつらもうちの所属の役者なんだけど、なかなか芽が出なくてね。よかったらまた見に来てやって」
社長は低くていい声をしていた。結たちよりも先に劇場から出て行く後ろ姿を見ながら、結がぽつりと言った。
「社長が芝居すればいいのにね」
翠が笑う。
「確かに。どの役者よりも社長の方がよっぽどいい声をしていたわね。まあ下手なのは、最初からわかっていたけど」
「あら、そうだったの?」
「だってどうみても動きがぎこちなかったでしょう。台詞だって棒読みだし」
「ぼそぼそ言って、なに言っているか全く聞こえない」
「丸メガネちゃん」
結と翠の声が揃い、顔を見合わせて笑い声をあげた。役者の中にすごく背が低くて、声がめちゃめちゃ小さくて台詞が客席までほとんど聞こえない、丸いメガネをかけた女の子がいた。彼女が舞台に出てくると、それがお決まりのように観客は前のめりになる。
「下手だけどなんか憎めないのよね、ああいう子って。それよりこんな時間まで付き合わせてごめん」
翠が言うと、結は首を振った。
「今日休みだったし、私も楽しかったから」
ちょうど信号が点滅し始め、横断歩道の手前で二人は足を止めた。スーツ姿の男性が二人を追い越して行く。
赤く染まる信号を結は見ていた。
魔法という言葉は信じてこなかったし、その言葉が似合う女でもなかった気がする。けれど、このとき結はこの瞬間が終わらないことを願った。こんな幸福な時間は二度と訪れないだろう。もう少し、あと少し。翠といたかった。魔法が解けないように指先にぐっと力を込めた。
「もう少し時間ある?」
翠の言葉に顔をあげた結は、ものすごく驚いた顔をしていたのだろう。
「ある、けど」
またぎこちなく答えてしまった結に翠がくすっと笑った。
「辛いものって平気? 夕飯おごる。行こう」
翠が結の手を引いて信号を渡る。魔法はあるのだと、願えば願いは叶うのだと結は初めて知った。