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✧ プロローグ
夜明けは、二度と訪れなくなった。
かつて天と地を分かつ光があった。
その名は——ルシエル。
七つの天に名を連ねた最初の大天使にして、
“黎明の王(Morning Star)”と讃えられた存在である。
彼はかつて、神の右手として世界に秩序をもたらし、
千の光をもって夜を追い払い、万の祈りを受けた。
だが、彼の心が望んだのは天の栄光ではなく——
ひとりの“人間の女”だった。
その名は、エリシア。
蒼い瞳を持ち、神の沈黙を恐れぬ魂の持ち主。
彼女の祈りは天に届かずとも、
その声だけで、ルシエルの心は動いた。
だが、神々は彼女を“禁忌”とした。
彼女は古き神の血を引く“原初の巫女”であり、
天の秩序を揺るがす“異端の器”だったのだ。
それでもルシエルは抗った。
神の命に背き、彼女を守ろうとした。
そして——神は、罰を下した。
エリシアは、炎の祭壇で“贄”として捧げられた。
その光景を見つめたルシエルの翼は、
その瞬間、黒く灼け落ちた。
「神よ、あなたが愛を許さぬなら——
私がこの世界を、焼き尽くそう。」
炎は空を覆い、天は沈黙した。
七つの天のうち、四つが崩れ、
光の民は灰となって地に落ちた。
こうして、黎明の王は堕ちた。
名をルシファーと変え、
“哀哭の星(Mourning Star)”として永遠の夜に囚われる。
✧ 舞台設定
〈天界〉
かつて神々が住まい、光の秩序が支配していた世界。
だが神は沈黙し、天使たちは統率を失った。
今は“虚の王座”のみが空に残っている。
〈地上界(アーリエン)〉
神の沈黙以後、人々は信仰を失い、
古き契約の残骸を使って生き延びている。
“星なき夜”が続き、月は血に染まったまま昇る。
〈冥界(アビュソス)〉
堕天した者たちが流れ着く地。
そこでは“記憶”が通貨であり、
愛を思い出す者ほど早く朽ちていく。
✧ 登場人物
ルシエル(Luciel)/堕天名:ルシファー(Lucifer)
天界最初の大天使。
秩序と光を司るが、愛する者を神に奪われたことで
世界への信仰と共に自らの光を失う。
堕天後は黒い炎を纏い、天も地も焼き尽くした。
その瞳には“かつて愛した者の残影”が宿っている。
エリシア(Elicia)
人間の巫女。
神と人を繋ぐ“最後の声”と呼ばれたが、
神々の恐れにより、生贄として処刑される。
死後、その魂は炎に囚われ、
“紅き幻影”としてルシエルの前に現れる。
✧ 導入部(Prologue End)
灰の大地に、ひとりの影が立っていた。
黒い翼は焦げ、光を失って久しい。
それでも——彼はまだ空を見上げていた。
「もし再び、夜明けが訪れるのなら。
その光は、彼女の微笑みであってほしい。」
彼は歩き出す。
かつて自らが壊した世界の、灰の上を。
そしてその瞳に、紅い幻影が灯る。
それは、愛した女の声だった。
「ルシエル……あなたはまだ、光を見ているの?」
——世界の終わりは、彼の罪から始まった。
だが同時に、それは“愛の物語”でもあった。