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後日談です。頭を使わないでよんでください☺︎
カーテンの隙間から、容赦のない朝陽が差し込んでいた。
太宰が目を覚ました時、最初に戻ってきたのは「自分の身体が驚くほど温かい」という感覚だった。昨夜、あれほど彼女を苛んだ鉛のような重痛さは、嘘のように凪いでいる。
そして次に気づいたのは、腰のあたりに回された、重く、逞しい腕の感触。
「…………」
ゆっくりと視線を動かせば、すぐ間近に中也の寝顔があった。眉間に微かな皺を寄せ、任務の時よりもずっと無防備な顔で眠っている。太宰は自分が、中也の胸板に文字通りしがみつくような格好で朝を迎えたことを理解した。
(……ああ、これは。……やってしまったね)
記憶が断片的に蘇る。「殺して」だの「行かないで」だの、熱に浮かされて口走った数々の醜態。 普段、死を語る時のクールな自分はどこへ行ったのか。中也のシャツを涙と汗で汚し、あろうことかマフィアの最高幹部を「抱き枕」代わりにしたのだ。
太宰は音を立てないよう、そっとその腕から抜け出そうとした。が。
「……逃げんのかよ、青鯖」
低く、掠れた声。 中也の目が薄らと開いた。覚醒した瞬間の鋭い光が宿っているが、その瞳には夜通し彼女を見守っていた者特有の疲労も滲んでいる。
「……おはよう、中也。重力使いの朝は早いんだね」 「手前がゴソゴソ動くからだろうが。……腹、どうなんだ」
中也は身体を起こすと、寝癖のついた頭を乱暴にかき回した。昨夜の献身的な態度はどこへやら、いつもの不遜な態度に戻っている。けれど、その視線は真っ先に太宰の顔色を伺っていた。
「おかげさまで、地獄の底からは帰ってこれたよ。……君が意外と、あったかかったからかな」
皮肉っぽく笑ってみせる太宰。だが、中也のシャツに深く刻まれたシワと、自分が握りしめていた拳の感触を思い出し、喉の奥が微かに熱くなる。 中也もまた、自分の腕に残る彼女の体温と、昨夜の「行かないで」という震える声を思い出し、気まずそうに視線を逸らした。
「……ふん。手前が死ぬほど情けねぇ声出すから、仕方なく付き合ってやっただけだ」 「そうだね。中也は優しいものね。小型の割に」 「あ!? ……せっかく介抱してやりゃあこれだ」
いつもの罵り合い。けれど、二人の間には、夜を共にした(物理的な介抱という意味で)者同士にしか流れない、気恥ずかしくも親密な空気が漂っている。
太宰はベッドから降りようとして、ふと足を止めた。 まだ身体の芯に微かな怠さが残っている。そして何より、あの「絶対的な安心感」が消えてしまった後の冷え込みが、ひどく恐ろしいものに感じられた。
太宰は背中を向けたまま、ボソリと呟く。
「……ねぇ、中也」 「あぁ?」 「……来月も、また……やってくれるかい?」
それは、太宰治という人間が吐ける、最大級の「降伏」の言葉だった。
中也は一瞬呆然とした後、顔を真っ赤にして、吐き捨てるように、けれど拒絶せずに答えた。
「……手前が、昨夜みたいに大人しくしてんなら、考えてやるよ」
その言葉に、太宰は少しだけ満足そうに、けれど照れ隠しの毒舌を準備しながら、ゆっくりと立ち上がった。