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海辺の町に来て数日が経つ。観光客はまばらで、カモメの鳴き声と風の音が心地よく響いていた。午前中の浜辺は人も少なくて、ゆっくりと波の引く音を聞きながら歩いた。
水面に手を差し入れると、冷たくて透き通っていた。まるで何もかもを拒まないようでいて、どこまでも自分が浮いていることを実感させられた。
どんなにきれいでも、自分は景色の一部にはなれない。そう思うと、なんだか少し笑えてくる。
誰かの声が遠くで聞こえた気がして、振り返ったけれど、そこには誰もいなかった。
潮風が髪をかすかに揺らした。
この場所に来たのは偶然だった。けれど、来てよかったのかもしれない。何もない景色の中で、何かを手放すような気がしたから。
夜になればまた違う色になるのだろう。誰も知らない、ひとりの風景がそこにあればいい。
明日、ここに来れたら、次は誰が話してくれるのかな。