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その後も様々なレースで好成績を残したアメノマエ。なんと再びGIに挑戦となる。
距離は少しきつい1800のダート。
【チャンピオンズC】
気づいた方もいるかもしれない。
この距離はあのフレアテイルの得意距離。
いわゆるリベンジマッチだ
アメノマエは当初出走する予定はなかったのだが、引退前にどうしてもと強く押されて歳のこともありこれをラストランとして迎えることとなった。
場所は変わりフレアテイルの厩舎。
調教師がフレアテイルに声をかける。
「よぉ、調子よさそうだな。」
フレアテイルはあまり調教師のことが好きではない。
だが、人参をくれるし褒めてくれる。
そこそこ認めてやってもいいと思っているらしい。
「こらこら噛み付こうとするな…」
そこへフレアテイルの騎手がやってくる
「どうも、調子はどうです?」
「この子なら心配いらんよ、余裕の表情だ。」
「フレアテイルは我が強いからプレッシャーにも耐えてくれますからねほんとに頑丈ですごい末脚もある。この子に乗れて僕は誇りに思います」
「そうだろうな〜この子のおかげでこっちが学べたことも沢山ある。」
「そういえばこれはリベンジマッチなんですよね、なぜこの子が得意な芝ではなくダートを?」
「ん?そんなの決まってるじゃないか」
「相手の土俵で勝つ―これがフレアテイルには1番似合う!」
「馬が馬なら調教師も血気盛んだな……」
そして今、
良馬場となった競馬場でフレアテイルとアメノマエはゲートに入る
互いを意識せずには居られない、だが自分の走りで勝ってみせる思いはおなじ。
「「やるぞ」」
2人の騎手も同じ思いで2頭の背に乗る。
各馬ゲートに入りスタートする
何頭か出遅れるのを尻目にアメノマエは仕事人らしく好スタートを切る。
フレアテイルも焦らず後ろから前を観察する。
コーナーに差し掛かる。
得意距離ではないためアメノマエは中団前方で控える。
出遅れた馬を置いていく早いレース展開。
それを見てかフレアテイルは少しずつ前へ出始める。
芝でなくとも金のたてがみをなびかせ力強く走るフレアテイル、やはり大きな体から放たれる走りは圧倒的だ。
さぁ最後の直線、向正面下り坂からの直線再び上り坂、さすがにスタミナが限界に。
いつもと違い少し長い距離もあり黒い馬体がやや沈み脚色が衰えるアメノマエ……
しかしここぞとばかりに仕掛けてくるのがフレアテイル、一気に駆け抜け先頭のアメノマエと競り合う。
負けられない!
まだ走れる!
アメノマエは脚をこれでもかと酷使する。
今はただ期待に応えるのではない。
己のレースを守るために走る。
一瞬食い下がるフレアテイル
しかし。
もう負けたくない!
ここで負けたら負けたまま。
ギアが限界を越え1段階上がる。
わずかにだが、スピードを取り戻す。
結果は
フレアテイル1着
アメノマエ2着
僅差。
だがまたしても後続に1馬身以上の差をつけてのゴール。
フレアテイルは届いた、アメノマエの根性の足に。
アメノマエは勝利した、距離の限界に。
お互い全てを出きったのだ。
―予定になかった引退式。
しかし多くのファンが残って見守ってくれる。
ファン達からは
「よくやった」
「最後まで出し切ってえらい」
などの声が上がる。
アメノマエが入場。
期待されていなかったあの地味で貧相だった黒い馬体に今では立派な筋肉が浮き出てツヤもある。
期待に応えられる身体になっていた。
戦績が読みげられ、改めて粘り強くレースに出続け結果を残したことが明らかになる。
映像では初の重賞勝利や、フレアテイルと初めて競り合ったあのレースなど数々の軌跡が映し出される。
派手ではなかったかもしれない。
戦績不振もあった。
それでも前へ前へ走り続けたアメノマエのレースはこうして人々に知られるところとなった。
そしてラストランの回想が流れる。
「ラストランでは惜しくも2着となりましたがすこし不得手な距離でも力強く、最後まで走り抜きました。」
マイクを渡され思い出を問われた調教師がこう言う。
「アメノマエは最初こんなに大人しくもなく、走ることに対して前向きではありませんでした」
「調教に行こうとすれば蹴るわ噛むわで気性難かと思いました。」
苦笑いをする。
「ですがこの騎手に出会いアメノマエ は変わりました、本当にあの暴れ馬かと思うほどに、褒められる喜びを知り。また人を信じる気持ちをも手に入れました。」
調教師の目には親のような温かさが宿る。
「初の重賞では体重も落ち正直無理かなと思うこともありました…でもあれはアメノマエなりに自分を引き出すための作戦だったのかもしれません」
「この子は人の期待を背負ってそれに堅実に応える馬でした、ここまでやってこられたのは応援してくれた皆様のおかげだと思っております…本当にありがとうございます……!」
声が震える。
続けて初めてのレースからの付き合いである騎手がこれまでを振り返る。
「初めて会った時は気まぐれで構ってあげた馬くらいの感覚でした。しかし、何の因果かこの子の主戦騎手になって何かを感じずにはいられませんでしたね、初のレースでも信頼関係ができて安定した走りをしてくれたのを覚えています、惜しくも今回のように2着でしたがあの頃から走りの根本は変わってなかったんだと思います。」
次は厩務員、1番身近に基本を支えた人。
「まぁとにかく最初は荒れていましたね……移動の疲労と知らない場所で混乱してて…基本としては臆病だったんだと思います。」
「それで桶をひっくり返したりとか、問題を起こすこともありましたがやはり騎手さんに出会ってから変わりましたね、だんだん真面目に、そして人を信頼してくれるようになったと思います。今は人を見極めることや物事を静かに見るようになり、元の臆病が慎重に変わってレース運びの堅実さにも出てたなと。」
最後は代表して、アメノマエの馬主が。
「私は直接アメノマエにかかわることはあまりできませんでしたが、セリでみたとき、この子だと確信しました。血統がすごいわけでも、見た目が良かった訳でもなかったのですが強く惹き付けられました。」
運命はあるのだと、そう感じさせる語りだった。
「こんなに寒い中遅くまで残って引退式を見てくださるファンの方々には本当に感謝を申し上げたいと思います……」
「派手な勝利での戦績ではなかったかもしれませんが、こうして距離の問題をものともせずGIという舞台で1着争いをしてみせる馬に成長してくれたアメノマエは誰がなんと言おうと素晴らしい馬です。」
盛大な拍手で幕を閉じる引退式。アメノマエに関係者たちが近づき撫でたり言葉を送ったりする。
騎手はアメノマエにこう言葉をかける。
「最後まで自分の走りで実力を示したな、わかってくれる人には心の奥まで響くレースだったと思うぞ。」
「ありがとう。」
アメノマエは軽く鼻を鳴らす。
スクリーンに文字が映る―
【曇天の覇者よ永遠に】
パドックを去り際、拍手は鳴り止まない。
アメノマエは怯えるでもなく、ただ少し立ち止まって、その全てを受け止めるようにその黒い馬体は地面にしっかりと立ち、ファンの感謝を受け取った。
【戦績】
通算35戦
1着:9
2着:10
3着:6
着外:10
勝率:25.7%
連対率:54.3%
複勝率:71.4%
曇天下での勝率
通算17戦
1着:7回
41.2%