テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#料理男子
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
痛みは伴うものだけど、その何倍も何十倍も生まれてきた二人が可愛くて、痛みなんてぶっ飛んだ。本当に最初の2,3日は痛みが分からないぐらい、私の隣で眠る子供たちが可愛くて可愛くて、目が冴えていた気がする。
二か月経ったのに、乳口炎になったり、二人の夜泣きにパニックになった私が指揮者のようにきゅうりを振り回したら、爆笑されたり。
大変だけど、喬一さんも夜勤は断り夜は家にいてくれている。
お姉さんが先に出産して、喬一さんの実家はお姉さんの息子さんの世話で忙しいからそちらはお姉さん優先にしてもらい、うちの父や母や兄がなんやかんやサポートしてくれてるのも助かってる。
「ううう。喬一さんの和食、美味しいんだけど。美味しすぎるんですが、ジャンクフードが食べたい。あぶらっこいポテトとか、ぎとぎとの油がのったフライドチキンとか、あとボウルいっぱいの生クリームとか」
日向ぼっこさせようと窓際にベビーチェアを持っていく。寒いので散歩はやめて日光浴だけにしておく。
ぐっすり二人は気持ちよさそうに眠っているから、起こすのもよくないだろうし。
女の子の方は美矢、男の子は喬矢と名付けた。
私が男の子を、彼が女の子の名付け親だ。
双子なのに喬矢は既に喬一さんみたいな切れ長の目で、美矢は私に似たくるんとした大きな目、だと言われている。多分、兄の意見だから、兄馬鹿な視点が多いに入ってると思うけど。
抱っこした喬矢の、美味しそうな柔らかくて触り心地のいい手がクリームパンに見えてきた。幻覚症状が出たならそろそろ限界なのかもしれない。
「はあ。クリームパン食べたい」
「いいよ」
「喬矢を食べていいの!?」
「それは駄目だけど」
クスクス笑う喬一さんが、二人用のベビーカーにそっと美矢を乗せた。
「ボウル一杯、生クリームを作ってあげるよ」
「ええええ。でも喬一さん、甘いもの苦手ですよね!」
食べたくて涎が出そう。気持ちよさそうに眠ってる喬矢を覗いていると、喬一さんを見る。
「頑張ってる紗矢のために生クリームを買ってたんだ。我慢のし過ぎの方が体に悪いからね。ハニートーストでも焼こうかな」
「やったー」
「ホイップもしてみたかったしな」
双子の柔らかい頬に口づけると、キッチンへ入る。
ベビーチェアーの中で揺れる二人の隣で、私はカウンターに座り、生クリームを泡立てる喬一さんを眺める。
いつも一歩下がって周りを観察しているような人。穏やかだけど、少しだけ心に傷を抱えている人。
私の帝王切開の日は、一緒に手を握ってくれた人。
生まれた瞬間、「ありがとう」って一番に私を称えてくれた。涙を浮かべた表情を見て、思わず手を伸ばしたっけ。
クールだと遠巻きにしていた人たちには、この人の優しい部分が伝わらないってのはやはり少し寂しい。こんなにも、こんなにも彼は素敵な人なのに。
黒のエプロン、銀色のフレームの眼鏡、骨ばったゴツゴツした指先。ボウルが小さく見えるし、若干似合わないのに驚くほど手際がいい。
観察していても、喬一さんの好きな部分ばかり見えてきて鼓動が早くなっていく。
喬一さんのことを考えると幸せで胸が満たされていく。
「喬一さん、とっても大好きです」
私のために生クリームを泡立ててくれる、こんな旦那様好きにならないわけがない。
世界中探しても喬一さん以上に素敵な人なんて現れない。
「そう。俺は愛してる、かな」
そんなふうにさらりと、私を蕩けさせる甘い言葉をくれるんだから、喬一さんはずるい。
できた生クリームを人差し指で掬って、ぺろりと舐める。
「甘すぎたかも」と私にはスプーンですくってくれた。
口の中に広がる生クリームの甘さは、私の心にまで染み渡る。
でも。
「全然。喬一さんの言葉の方が甘いですね」
「……敵わないな」
喬一さんはクスクス笑う。そして双子が眠ってるのを確認してから、生クリームよりも甘い口づけをくれたのだった。
タルトタタン、ミルフィーユ、ティラミス、エクレア、クイニーアマン、アルカザール、シュークリーム、チーズケーキ、ソフトクリーム、プリン、チョコレート、ドーナツ、駅前のカフェで食べられるガトーショコラ。
どんな至極のデザートを並べても、彼に甘い言葉に敵うものはない。
だから私は今宵も甘くとろけたくて、デザートが欲しいとねだる。
Fin