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「萌夏ちゃん、愛されているわね」
「嫌だ、礼さんこそ」
「フフフ」
「ふふふ」
私と礼さんは顔を見合わせて微笑んだ。
お互いに入籍して一年。
新生活の慌ただしさも落ち着いて、すっかり日常モードになった。
「礼さんたち、引っ越ししたんですよね?」
「うん。お父様とお母様の同じマンションに越したの」
「へー」
おじ様たちきっと喜んでいるだろうな。
「平石の家もリフォームしたんでしょ?」
「ええ。敷地の中に離れを立てたんです」
「へー、いいじゃない」
「はい」
私は完全同居でもいいと言ったのに、お父様とお母様が手配してくださった。
二十四時間一緒じゃ疲れるだろうからって、小さなキッチンまでついたかわいいお家。
私と遥はここで新婚生活を送っている。
「ところでメールの件だけれど、」
「ああ、」
私たちは顔を見合わせた。
お互いに言いたいことはあるのに、なかなか言葉が出ない。
「いっそのこと二人で行く?」
「え、でも・・・」
バレたら叱られそう。
「だって、どちらか片方が違ったら気まずいでしょう?」
「そうですけれど・・・」
なぜ今、私と礼さんが頭を抱えているのか。それには訳がある。
一年前ほぼ同じ時期に結婚した私と礼さんはお互いに妊娠を望んでいる。
それは遥も空さんも一緒で、この一年生理が少し遅れるたびに何度も大騒ぎされた。
そのせいで平石家でこの話題は禁句になってしまっている。
「検査薬は陽性だったのよね?」
「はい、二回試しましたから間違いありません。礼さんも?」
「うん。でも、病院に行かないとわからないわよね」
「そうですね」
***
というわけで、私と礼さんは都内のクリニックにやってきた。
「予約はしたけれど、初診だし結構時間がかかるらしいわ」
「大丈夫です。今日は幼馴染の友人に会うって出てきましたから」
「私も空に内緒で有休をとったわ」
2人で受診してはっきりしてから伝えようと黙って病院へ来た。
着いたのは都内でも人気のクリニック。
待合は人がいっぱいで相当待ち時間がありそう。
受付で問診を済ませ、注意事項に従って携帯の電源を切り、尿検査と超音波検査。
その後の診察までが長かった。
ドクターは数人いるみたいだけれど、急患と出産が重なったそうで結構な時間待たされた。
「萌夏ちゃん、遥は大丈夫?」
「ええ、たぶん・・・」
日に何度かメールをくれる遥だから連絡が付かなければ心配するだろうけれど、幼馴染である晶と会うって伝えてあるし。
「礼さんは大丈夫ですか?」
会社を休んだなんてバレたら心配されそう。
「どうかしら、ああ見えて感がいいからね」
「ああ、それ遥もです」
2人して顔を見合わせて笑った。
「平石萌夏さん、一番診察室へお入りください」
「高野礼さん、二番診察室へお入りください」
***
「どう、でした?」
診察が終わって待合に出ると、礼さんが待っていた。
怖いなと思いながら、私は尋ねた。
「うん、十二月が予定日」
「え、私も同じです」
「じゃあ」
「はい」
ヤッターと声を上げて私たちは抱き合った。
よかった。これで一緒にお母さんになれる。そのことがなによりもうれしかった。
「帰ろうか?」
「はい」
結局、半日以上病院にいた。
おかげで一通りの健康診断もしてもらったし、紹介状ももらって改めて病院選びもできる。
もううれしい以外の思いはないけれど、不安なことはただ一つ。
「着信すごくないですか?」
「うん、かなりマズイ」
ですよね。メールと着信がすごい数。
でも、妊娠を告げれば機嫌も直るでしょう。
その時の私はそう思っていた。
「「オイッ」」
病院を出た瞬間、どすのきいた低い声に呼ばれた。
「空」
「遥」
嘘、何で?
そこにいたのは仕事が忙しいはずの旦那様たち。
「連絡が付かないと思ったら、どういうつもりだ?」
ギロッと睨みながら近づいてくる遥。
「コソコソと有給とって、何してるんだ?」
空さんの声もすごく怖い。
「あのね、はっきりしてから言うつもりだったのよ。隠すつもりはないの」
だから怒らないでと礼さんが私の前に出たけれど、
「礼っ」
空さんに一括されて腕を引かれてしまった。
「萌夏、帰るぞ」
遥も私の腕をがっしりとつかんだ。
こうなったら素直について行くしかない。
きっと怒られるだろうけれど、仕方ない。
それぞれの車に乗せられ、少し説教されて、その後は予想通り喜んでくれた。
礼さんの所もきっと同じだろうと思う。
同じ年、同じ月が予定日の私たちは同じ病院での出産を決めた。
遥と空さんのようないいライバルになることを願って・・・
fin