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#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
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コメント
1件
第110話、読み終えました。 二人の距離が“変わっていく”って、大きな出来事じゃなくて、何気ない会話や写真の一枚から感じられるんだなって思いました。特に「また明日」って言葉が当たり前になるまでが、すごく丁寧でじんわりきました。まだ名前をつけられない気持ちも、それでも隣にいるって選んでるのが、すごく二人らしくて素敵だなって思います🤍 次が気になる…読ませてくれてありがとう。
第110話 変わっていく距離
それから、少しずつ。
二人の毎日は変わっていった。
何か大きな出来事があったわけじゃない。
毎日連絡を取るようになったわけでもない。
ただ、気づけば――
一緒にいる時間が、少しずつ増えていた。
「琴葉、今日帰るの早い?」
「うん。どうして?」
「いや……なんとなく」
「じゃあ、一緒に帰る?」
「うん」
そんな会話が増えた。
昔なら、琴葉はそれだけで
期待してしまうことを怖がったかもしれない。
相手にとって自分はどういう存在なのか。
嫌われていないか。
迷惑じゃないか。
何度も考えてしまった。
でも今は、そんなことを考える前に言葉にできる。
「一緒に帰りたい」
それだけでいい。
律も同じだった。
琴葉が何かを話したそうにしていれば待つ。
話したくなさそうなら、無理には聞かない。
それでも以前とは違って、
何も言わずに離れていくことはなくなった。
「話したくなったら言って」
そう言って、隣にいる。
二人にとって、それが自然になっていた。
ある日の夕方。
いつものように二人で歩いていると、
琴葉が突然言った。
「ねえ」
「ん?」
「私たちってさ」
「うん」
「今、どういう関係なんだろうね」
律の足が止まった。
琴葉も立ち止まる。
「……どういうって?」
「分かんない」
琴葉は少し笑った。
「友達……なのかな」
「たぶん」
「たぶんなんだ」
「だって、俺も分かんない」
二人とも笑った。
けれど、その笑いの奥には少しだけ戸惑いがあった。
昔は、もっと簡単だった。
ただ隣にいるだけだった。
名前すら知らなかった頃は、
関係に名前をつける必要なんてなかった。
でも今は違う。
過去も知っている。
傷も知っている。
弱いところも知っている。
それでも一緒にいたいと思っている。
それなら、この気持ちは何なのだろう。
「……まあ、今はいいか」
琴葉が言った。
「無理に決めなくても」
「うん」
律も頷いた。
その日の帰り道。
駅の前で別れる直前、琴葉が振り返った。
「律」
「ん?」
「また明日」
「うん。また明日」
それだけ。
なのに、帰宅してからも
琴葉の頭にはその言葉が残っていた。
また明日。
明日も会いたいと思っている。
会えることが嬉しい。
それが当たり前になっている。
ベッドに横になりながら、琴葉はスマホを眺めた。
今日撮った写真。
図書館のベンチ。
駅のホーム。
何気なく撮った空。
そして――律が笑っている写真。
琴葉はその写真を見て、ふと気づいた。
「……私」
小さく呟く。
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
けれど、その先の言葉はまだ口にできなかった。
一方、その頃。
律も自分の部屋でスマホを見ていた。
写真フォルダに並んでいる、たくさんの思い出。
失った記憶を取り戻すために集めた写真は、
いつの間にか「これから残していきたい写真」に
変わっていた。
律は一枚の写真を開く。
そこには、笑っている琴葉がいた。
「……俺も、か」
そう呟いて、スマホを伏せる。
まだ、言わない。
今はまだ。
二人とも、自分の気持ちに
名前をつけるには少しだけ時間が必要だった。
けれど――
以前とは違う。
失うことを恐れて離れるのではなく。
分からないままでも、隣にいる。
その距離は、少しずつ変わり始めていた。
そして二人はまだ知らない。
次に交わす言葉が、
今までとは違う意味を持つことを。