テラーノベル
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『狂乱のダンスケージ』サイト-81の隔離生物飼育室。研究員のアイは、二重の遮光カーテンで覆われた、頑丈なアクリルケースの前に立っていた。ケースの中にいるのは、体長わずか9センチメートルの小さなジャンガリアンハムスター(SCP-474-JP)だ。白くてふわふわした毛並み、つぶらな黒い瞳。どこからどう見ても、ペットショップにいる愛くるしいハムスターにしか見えない。しかし、この小さな生物は、これまでに何人もの調査員を「踊り殺して」きた化け物だった。「SCP-474-JP、これより第8回接触実験を開始します。被験者を入室させてください」アイの冷淡な指示により、スピーカーから電子音が響き、部屋にDクラス職員の男が連れてこられた。男の顔は、これから何が起きるのか分からず怯えきっている。「前方のケースを見てください。ただし、中の生物と絶対に目を合わせてはいけません」アイの警告が響く。このハムスターは、覚醒している人間の視界に入った瞬間、その人間の脳の運動神経を完全にハイジャックする。一度でも目が合えば、人間は外部からの刺激に一切反応しなくなり、ハムスターをじっと凝視したまま、強制的に「踊り」を始めさせられるのだ。男は恐る恐ろしくケースに近づいた。しかし、ケースの中のハムスターが、ガラスに爪を立ててカサカサと素早く動き回ったその瞬間、男は反射的にその姿を目で追ってしまった。カチリ、と何かが噛み合うような音が室内に響いた気がした。男の瞳から、すっと光が消えた。彼はまるで、見えない糸で吊るされたマリオネットのように、ぎこちない動きで両手を上げ、その場で奇妙なステップを踏み始めた。「あ……あ、身体が、勝手に……!」男の口から悲鳴が漏れる。しかし、彼の頭部だけは、どんなに激しく体が動こうとも、ケースの中のハムスターを狂ったように凝視したまま完璧に固定されていた。首の骨がみしり、みしりと嫌な音を立てて軋んでいる。これこそが、SCP-474-JPの呪いだ。踊りが始まれば、自分の意志で止めることは絶対にできない。水を飲むことも、休むことも許されず、ただひたすらに、ハムスターの前で踊り狂い続ける。「実験開始から30分経過。被験者のバイタルに異常。心拍数が危険域に達しています」アイは冷酷にモニターの数値を記録していく。ガラスの向こうの男は、すでに全身汗だくになり、呼吸は激しく乱れていた。足の爪は剥がれ、畳の上に赤い足跡が点々と刻まれていく。それでも、彼の肉体は楽しげに、軽快にステップを刻み続けている。脳が筋肉のストッパーを解除しているため、限界を超えた運動が彼の肉体を内側から破壊し始めていた。『助け、て……誰か、止めてくれぇ!!』男が血を吐きながら叫ぶ。だが、彼の顔は、ケースの中で小さな鼻をピクピクさせているハムスターを、じっと見つめたままだ。ハムスターが首を傾げると、男の体はさらに激しく、奇妙な回転を始めた。実験開始から3時間。男の膝の関節は完全に脱臼し、骨が皮膚を突き破っていた。それでも、男は折れた足を引きずりながら、血の海の中で踊り続けていた。顔は狂ったような引きつった笑みを浮かべ、目は血走っている。ドサリ。やがて、男の心臓が限界を迎え、肉体が物理的に崩壊して床に倒れ伏した。死ぬその瞬間まで、彼の視線はハムスターから外れることはなかった。「……被験者の死亡を確認。実験を終了します」アイは静かにマイクを切り、深く息を吐いた。ケースの中を覗くと、ハムスターは何事もなかったかのように、自分の顔を小さな前足で毛づくろいしている。この生物には、悪意も殺意もない。ただ、生きている人間を見ると、その肉体が壊れて消え去るまで、終わらないダンスを躍らせずにはいられないのだ。アイは遮光カーテンをきつく閉め、暗闇の中にその愛くるしい「死神」を閉じ込めた。しかし、静まり返った部屋を後にするとき、アイの耳の奥には、男の骨が折れる音と、床を叩く不気味なステップの幻聴が、いつまでも響き渡っていた。
コメント
1件
うわっ...これヤバいやつだ!!😱💦 見た目は超絶かわいいハムスターなのに、目が合ったら踊り♡♡♡れるってギャップエグすぎる!!「骨が折れる音」と「赤い足跡」の描写で臨場感ヤバくて、読んでるこっちまで息苦しくなったよ…あとアイ研究員の冷徹さとハムスターの無邪気さの対比が恐怖倍増!😭✨ 🍊好きさん、こういうSCP系も書けるんだね…引き続き読ませていただきます!