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東尾は目を覚ます。
すると目の前には机があり、
伊達メガネをかけてスーツを着た折西が
対面していた。
東尾は椅子に座る形で紐で縛られている。
「な、何これ!?!?!?」
「よ、ようこそ!折西カウンセリングです!」
「ちょっと、今日仕事が!!!」
自分で言っておきながら照れる折西にも、
自分が置かれているこの状況にも惑わされた
東尾は縄を解く。
「あっ、やっぱり解いた!お願いします!!」
「お、お願いしますってなに、」
途端に東尾の目の前にガスボンベが
浮き上がり、ガスが噴出される。
まぶたを開けるのに限界を感じた
東尾は眠りについた。
・・・
そして東尾がまた目を覚ますと先程と同じ
光景があった。
「縄を解いたりドアを破壊して僕の部屋から
出ようとするとこんな風に沢山寝て
しまいます!!!」
折西はメガネをクイッとした。
「何がこんな風に、だ!!!!!」
机をバンッと叩き、東尾はハッとした。
何で感情があるんだ…?
「もしかして、エモ…」
「一時的に契約停止だ。」
「折西くんにそんな権限ないでしょう!?
契約者の言う事を」
「…我が感情を代償にした理由は?」
エモは遮るように質問した。
「感情を学ぶため…あっ。」
東尾は察した。
エモは東尾の感情の推移を学びたいのだ。
契約と関係ないと言えば嘘になる。
「…まったく。」
大人しくなった東尾に折西は嬉しそうに
資料を持ち出したのだった。
・・・
「さて、今回話すのは罪のお話です!」
「東尾さんは罪の扱いを間違えれば
誰も幸せになれない…そう仰ってました。」
「…そうですね。」
「僕、思ったんです。自分の中にある罪の
扱いも間違えれば誰も幸せになれないって。」
東尾に資料を渡して、折西は話を続けた。
資料には友人からマンガを借りたまま
大人になった東尾らしき人物の
イラストが描かれていた。
…今までの資料の中で最も上出来なのが
妙に腹が立つ資料だ。
「今回は分かりやすく罪を嘘としています。
東尾さんが借りている側で
Bさんが貸してる側です。
この場合、疎遠になっているとは言え
素直に謝ってこのマンガを返したりこちらで
処理したりするのを相手と一緒に
決めるのがいいと思いませんか?」
「…そう思うけど…」
「それなら少し2人の状況を変えましょうか。」
折西はそう言うと別の資料を東尾に手渡した。
「東尾さんが大人になった現在、そのマンガは
プレミア価格になっており、生活に
困っていた東尾さんはフリマサイトで
売ってしまいました。ですがBさんは
突然そのマンガを返して欲しいと
東尾さんに言いました。」
「売ったことを謝りたかったはずなのに。
東尾さんは自分は借りてない、と
嘘をつきました。どうしてでしょう?」
「…自分が犯人になりたくなかったから。」
「それもあるでしょうけど、売ったと
伝えた時のBさんの悲しい顔が浮かんだの
ではないでしょうか?」
「…は?何で言い切れるの!?」
東尾はバッと顔を上げた。
「だって、東尾さんの嘘は自己防衛だけじゃ
なくて他者防衛もあるでしょう?
例えば影國会を守るための住所の嘘とか。」
「必ずしも俺の嘘が他者を守るためとは
限らない!!!知ったような口聞きやがって!
俺の嘘は狡くて、醜くて…」
普段の自信溢れる話し方ではなく、
不安で押しつぶされた声だった。
「東尾さんは、ヒグレさんについた嘘は
本当に自分を守るためだけの嘘でしたか?」
そんな東尾に折西は優しく問いかける。
ヒグレ、という文字に東尾の眉は
ピクリと動いた。
「…本当に?嘘をついた時、頭の中に
悲しい顔をした人…ヒグレさんは
いませんでしたか?」
折西はもう一度聞き直す。
「…!い、居なくは…ないけど…
そ、そもそも何でヒグレを!?」
「く、詳しいことは言えませんが
少し調べまして…」
目をそらす折西の肩を東尾はガッと掴む。
「どこからの情報???昴?組長から???」
「ち、違います!!!!!!
2人から易々と情報を貰えるわけない
じゃないですか!!!!」
「…それもそうか。」
東尾は折西の肩から手をそっと離した。
「と、とにかく!!!
東尾さんは過度に自分を追い込むような
罪の償い方じゃなくて!もっとやり方が
あると思うんです!!!!!」
「…例えば?」
「…紅釈さんに全てを打ち明ける…?」
「それじゃあ紅釈が苦しむだけ
じゃないか!!!!!!!!!」
肩を思いっきり揺さぶり意識が遠のきそうに
なりながらも、あの時東尾がついた嘘に
優しさが含まれていることに折西は安堵した。
「…やっぱり東尾さんの嘘は誰かを思いやる
優しい嘘ですね。その言葉を聞けて
安心しました。」
「なっ…!」
面白いくらいに東尾の青ざめた顔が
一気に紅潮していった。
その変化がおかしくて、
折西はふふっと笑った。
けれども笑っていては話が出来ないと
折西は一息吐いて、真剣な眼差しで
東尾の瞳をじっとみた。
「…けれども。真実を紅釈さんに届けないと、
罪を償うことは出来ませんよ。」
「…それはダメだ。被害者が…紅釈が
俺のエゴで傷つくのは御免だ。」
折西は、目を逸らそうとする東尾の頭を両手で
挟みこむようにして視線を無理やり合わせる。
「そもそも罪を償うことは加害者側のエゴで
あり、被害者へ払うべき敬意なんです!」
「…!」
東尾の鍵穴に鍵を差し込む。
「…優しすぎたんでしょうね、東尾さんは。
だから自分を傷つけることでしか罪は
償えないと思っていた。」
「…心の底から相手を想うことのできる
東尾さんなら大丈夫です。
当時のことを面と向かって謝れば、
正しい罪の償い方がわかるはずですから。」
「…俺は…弁護士という職業でありながら
罪の償い方を誤り続けていたんだ。」
「全ての罪の償い方を間違ってた訳では
ないと思いますよ。だって明道の梅の
お2人は東尾さんのおかげで前向きに
生きておられますし。」
「…あの時折西くんが
『救いの手を差し伸べられるすごい人だ』
って言った時、胸が苦しかった。」
「自分が救うことのできなかった紅釈を
いつの間にか救った折西くんを見て、
この子の方が沢山の人を救えるん
だろうなって。」
「確かに紅釈さんは強くなりました。
けれど、紅釈さんを本当の意味で救うことが
出来るのは僕ではなくて東尾さんです。」
「…!」
「紅釈さんを、東尾さん自身を救うために
次は東尾さんが強くなる番です!」
「…そうだね、自分も強くならなくちゃ。」
東尾はゆっくりと頷く。
折西は差し込んだ鍵を一気にひねると
視界は全てを白で覆われたのだった…
・・・
翌日。
東尾は空き地に紅釈を呼び出した。
折西とお姉さんはこっそり2人のあとをつけ、
壁に上手いこと隠れていた。
「…急になんだよ。」
紅釈は東尾を睨みつけた。
「君に真実を伝えようと思ってね。」
いつもの不気味な笑顔ではなく真剣な
顔で東尾はメガネのフレームに手をかける。
そして、メガネを外し地面に投げ捨てた。
「…!お前」
「…【ヒデキ】だよ。放火魔殺人鬼の…ね。」
「は?どういうことかわかんねぇよ!!!
急に呼び出されと思えばヒデキだって
言われて…お前何しに来たんだよ!?」
「…謝りに来た。」
そう言うと東尾は紅釈との距離を詰め、
地に膝をつけ、土下座をした。
「今までずっと黙っててごめん!!!!!」
「…は?」
暫くの沈黙の後、紅釈はようやく東尾が
ヒデキであることを理解した。
「…ッテメェ!許すわけねぇだろ!」
紅釈は東尾の髪をグッと掴んだ。
「俺は許しを乞うために謝罪した訳じゃない!」
「テメェのエゴで謝りにきてんのか!?
ふざけてんじゃねぇぞ!!!!!」
紅釈は掴んでいた手を離す。
「…そうだな、その通りだ。
正しい罪の償いがしたいという俺のエゴだ。」
土下座の姿勢をし続ける東尾に
不気味さを感じた紅釈は右足で思いっきり
東尾の頭を蹴る。
それでも東尾は抵抗することはなかった。
それどころか東尾は話を続けた。
「…あの放火した時、お前の大切なアサを
殺して父親と母親を自殺に追い込む
つもりだった。」
紅釈の蹴る足はピタリと止まった。
「ヒグレが家族を大事に思っていたように、
俺はヒグレを家族同然のように大事に
思っていた。」
「命の危険があるヒグレの家に帰らせるのが
嫌で、帰るきっかけになるアサが、両親の
存在が憎かった。」
「…ヒグレの家族が酷いヤツらとはいえ、
ヒグレから大切な人を奪おうとしたのは俺だ。
当時の俺はヒグレの事なんて考えて
なかったんだと思う。」
「…やっぱり、あの時家族を殺そうと
してたってことか…」
紅釈の問いかけに東尾は静かに頷いた。
「…あんなに俺がアサや家族が大切だって
言ったのに…こんな事を知るくらいなら
ずっと嘘ついてくれれば良かったのに。」
「…俺もそう思ってた。
けれど、真実を伝えなけば相手が満足できる
償いができない。そう思ったんだ。」
そう言うと東尾は木製のバットを
紅釈に手渡した。
「これで俺を殴っても、ファージの能力で
ボコボコにしても、辞職させても、
何でもいい。俺に何かを求めてもいい。」
そう言うと東尾は立ち上がった。
「…」
紅釈は無言で東尾と目線を合わせる。
「…そうだな、まず。」
「バーーーーーーーーカ!!!!!!
何1人で謝って気持ちよくなってんだ!!!
こんなんでお前の罪晴れるかよ!!!」
近くにいた紅釈がいきなり大声を出し、
東尾は驚いていた。
「こんなんだからお堅い頭の弁護士とか
やになっちまうっての!」
「お前のあの一件、一生許さねぇし!
罪を償う?罪を背負えっての!!!!!」
「…!」
「大体俺は罪を償うって言葉嫌いなんだよ!
一生罪背負っとけバカ!!!!!!」
紅釈はいつの間にか、
目からぽたりぽたりと涙が溢れていた。
「…わかってる、俺の家族関係悪かったし。
あんなの見たら判断力のある大人でさえも
何とかして保護しないとってなるし。」
「ヒデキは優しくて不器用で。
メシは温かくて美味くて。」
「俺はそんなヒデキと友達になれて
幸せだったんだと思う。だからヒデキ自身を
許さないことは無い。」
「…」
「…俺の目を見ろ!!!!!」
俯く東尾の髪を掴みあげ、紅釈は言い放つ。
「あの一件は許さねぇけどお前のことは
許すっつってんだ!!!!!」
「…!なんで、俺なんか許しても!」
「あの時ヒデキと過ごした日が
楽しくて仕方がなかったんだよ!!!!!
だからお前自体を許さないことが
出来ないんだって!!!!!!」
「…!」
東尾はふと、2人で楽しく
過ごしていた日が頭の中を駆け巡った。
東尾が流した涙はコンクリートの地面を
じんわりと濃く染め上げていた。
「お、お前まで泣くなよ東尾!!!
そ、それに今お前が居なくなったら
この職場の所在地バレて色々終わんだろ!
…あの、アレだ。まだここにいとけ…って事だ…」
赤面でそっぽ向く紅釈の声が徐々に
小さくなるのを見て東尾は涙を流しながら
ふふっと笑った。
・・・
その様子をお姉さんと見ていた折西は
安心したように胸をなでおろした。
「…どうやら2人で話し合い
出来たみたいですね!」
「うんうん!平和的解決だね!」
お姉さんは満足気な顔をした。
さて、帰ろうかと折西がお姉さんに
話そうとしたその時、
「…ねえ、これは完全にエゴなんだけど…
あの時喧嘩する暇もなかったでしょう?
…今から喧嘩しない?」
東尾が急にとんでもない事を言い始めた。
「…えっ?」
隠れていた折西は思わず声が出た。
お姉さんも折西も、言われた当人の紅釈も
ポカンとしていた。
「だってヒグ、紅釈は強くなったんでしょう?
ファージの能力ありでも構わないから…」
「あ?た、確かに強くなった…けどよ…?」
「じゃあ、問題ないね。」
東尾はそう言うと紅釈から距離を
少しとる。
「エモ、契約し直して。今から真契約するから。」
「ふふ、了解。」
そう言うと東尾は右手を前に出し、
手のひらの上にエモが乗り、
ページをパラパラとし始める。
「真契約!!!」
すると御札のようなものが東尾を
取り囲み、覆い始める。
暫くして、御札は燃え尽きる。
すると口布をつけ、御札のついた服に
ぴったりとしたスキニー姿の東尾が見えた。
周りに浮遊しているのは恐らく
風袋(ふうたい)だろう。
そして、束ねていた髪を解く。
すると髪は股下までの長さになった。
「ハァ!?なんなんだ本当に!?
今日なんか本当におかしいって東尾!!!」
慌てて紅釈も真契約をした。
「真契約ありがとう、さあ!思いっきり
喧嘩しましょう!」
不気味な笑顔の東尾はどこか楽しそうだった。
「クソ!本当に不器用が過ぎる奴だな!!」
紅釈は間合いを一気に詰める。
「鉤火華!!!!!!」
紅釈の爪が東尾の足元に当たり、
東尾は1mほど後ろに下がる。
「…強くなりましたね。」
「げっ…なんで1mしか反動食らってないん
だよ!?体幹強すぎんだろ!」
恐らく1mで済んだのは東尾の
元からの体幹のせいだろう。
「よし、じゃあ私も!」
紅釈は間合いを取られないように身構える。
しかし東尾はその場から動くことは無かった。
ただ、開いた右手の小指と薬指を折り曲げ、
口元に手を持っていき、紅釈のいる方に
人差し指と中指を向ける。
『言弾(ことだま)』
そう言うと東尾は銃を撃つようにして
人差し指と中指の先を上に向けた。
「!!!」
咄嗟に違和感に気づいた紅釈は
その場に伏せた。
すると後方からドン!と大きな音がした。
コンクリートの壁が粉々になっている。
「…なるほどな。馬鹿力で頭のキレるお前に
お似合いの能力って感じだな。」
紅釈はにやり、と笑った。
「けどよ!!!!!」
紅釈は東尾の間合いにすかさず入り込む。
「間合いを取られちゃ終わりだな。」
紅釈の鉤火華に備え、東尾は重心を前面に置く。
しかし放たれたのは正面攻撃ではなく
背後からの鉤火華だった。
東尾は思いっきり吹き飛ばされ、
遠くの壁に背中を強く打ち付けた。
「バーカ、強い奴に勝つには強い奴自身を
利用すんだよ!影街の常識だっての。」
「…はははっ、すっかり影街の人間に
なっちゃってますね。」
「まあどっかの誰かさんのせいでな。
ほら、立てよ。喧嘩まだするんだろ?
それと敬語もうざってぇからやめろよ。
罪を背負うんだろ?言うこと聞けよ。」
紅釈の差しのべた手を取り、東尾は立ち上がる。
「はいはい。それなら敬語は辞めようかな。
…あとからエモに怒られるだろうけど!」
紅釈と東尾が本気で喧嘩し、お互いの心が
ゆっくりと修復されていくのを感じた折西は
なんやかんやで2人を安心して眺めていた。
その後も2人の喧嘩は続き、ヘトヘトに
なって2人とも地面に倒れてようやく
喧嘩は終了した。
・・・
「はぁ…決着つかずかよ…」
紅釈は息を切らしながら東尾を見る。
「…まだ喧嘩する?」
そうは言うものの流石の東尾も
長時間の喧嘩に息を切らしていた。
「しねぇに決まってんだろ…もう満足だっての。
…あのさ。ヒデ…東尾は満足したか?」
「…もちろん!あっ、いや…自分ばっかり
満足するのは良くないよね…」
「勝手に俺が満足してないと
判断するんじゃねぇ。」
紅釈は東尾と反対方向を向く。
「…ふふっ、そうだね。」
紅釈の真っ赤になった耳を見た後、
東尾は空を見上げた。
紅釈も東尾をちらりと見て、一緒に空を見る。
その日2人が見上げた赤い空はどこか
夕焼けのような温かさを感じだのだった。