テラーノベル
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前夜
明日、
会える。
その事実だけで、
朝から落ち着かない。
予定は決まっている。
時間も、
場所も。
決めたあとは、
まるで何事もなかったように。
子どもの話。
今日の出来事。
仕事の愚痴。
いつものLINE。
お互いの罪から、
わざと離れるみたいに。
でも、
違和感はなかった。
触れなくても、
分かっている。
明日、
会う。
それだけで、
十分だった。
楽しい。
隠せないほどに。
何を着て行こう。
明るすぎない色。
でも地味すぎない。
薔薇に負けない服。
メイクはどうする?
濃いのは違う。
でも、
少しはきれいに見られたい。
髪は下ろす?
まとめる?
考え始めると、
終わらない。
鏡の前で、
何度も前髪を触る。
こんな自分、
久しぶりだ。
子どもには言った。
明日、薔薇を見に行こうか。
無邪気に、
いいよ、と返ってくる。
旦那には、
何も言っていない。
声をかけないことが、
もう自然になっている。
ただ、
子どもと遊びに行く。
聞かれたら、
そう答える。
もし誰かに見られても。
偶然、
ママの同級生に会っただけ。
そういう、
ストーリー。
頭の中で、
何度もなぞる。
いける。
きっと、
大丈夫。
ベッドに入っても、
眠れない。
高揚が、
体の内側で、
小さく泡立っている。
これは、
浮気だ。
分かっている。
明日。
きっと、
もう戻れない。
隣で、
子どもが小さな息を立てている。
規則正しく。
何も知らずに。
その寝顔を、
しばらく見つめる。
胸の奥が、
わずかに痛む。
それでも、
目を逸らさなかった。
そして。
さらにその隣にいる人は、
暗がりの中で、
黒く塗りつぶされている。
輪郭だけが、
そこにある。
顔も、
表情も、
感情も、
見えない。
いや。
見ようとしていない。
黒さが、
前よりも濃くなっている気がする。
同じベッドにいるのに、
遠い。
名前も、
役割も、
今は思い浮かばない。
ただ、
“人”が、
そこにいる。
その静かな寝息の間で。
私は、
明日の服を考えている。
罪悪感より先に、
高揚が勝っている。
それが、
何よりも残酷だと、
ちゃんと分かっている。
それでも。
溺れることを、
選んだのは、
私だ。
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