着替えるために彼女も一度家に戻り、夕方頃迎えに行った。彼女の着ている浴衣の柄を見て驚いた。白地に特徴的な鮮やかな赤い花。
「ツツジ柄の浴衣なんてあるんだね?」
「いやない。特注したそうだ」
「特注!」
家が立派だからそんな気がしていたが、彼女のうちは相当なお金持ちのようだ。
「夏梅も梅柄の浴衣にすればよかったのに」
「男が花柄って変じゃない?」
「変じゃない。それがフェミニストの思想だ。実際、うちの菊多の浴衣は菊柄だ」
「それも特注?」
「もちろん」
ところで僕の父が買ってきたのは紺地に亀甲柄のオーソドックスなもの。
「夏梅も梅柄じゃなくても、それはそれで似合ってると思うぞ」
似合っているかどうか知らないが、彼女が似合っているというからそれを信じることにする。
今日は父親と弟はいないようだ。心配そうな(どうせ僕が何かしでかさないか心配してるのだろう)彼女の母に見送られて、僕らは隣町に出発した。