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「アンドレア、久しぶりね! 見ない間に、本当に素敵な男性に成長したこと!」

「リーシア叔母様も、ご健勝でなりよりです」

俺にぎゅっと抱きつき、頬にキスをした叔母様の熱烈な待遇を受けて、愛想笑いを浮かべた。

「こんなにいい男を悩ませる恋のお相手は、どこの誰なの?」

アクセスした時点で、相談内容を告げていたため、すんなりと本題に入ることができる。

「俺の専属執事、カールです」

「え? うぅんと……貴方の教育係をしていた、年上で赤髪の青年?」

額に手をやり、記憶を辿って思い出してくれたことに、内心ほっとした。

「はい、そうなんです。しかも両想いなんですが、カールがそれを隠している現状なんです」

気落ちしながら答えると、叔母様は親しげに俺の肩を抱き寄せ、傍にある長椅子に座らせた。

「アンドレアにたいする気持ちを隠してるって、まさか――」

俺の隣に寄り添う感じで腰かけた叔母様は、眉根を寄せて言葉尻を濁す。

「俺が伯爵家次期当主ですから、アイツは身を引いているんだと思います」

「執事として、主の幸せを考えた行動をとってるワケね。なんていじらしいんでしょう」

「そんなの、俺の幸せじゃないのに……」

膝に置いた両手に拳を作ったら、柔らかくてあたたかい手がそれを包み込む。

「だけどそれが貴方の幸せだと考え、好意を隠して生涯尽くそうと決意した、彼の気持ちでしょう?」

カールの気持ちを認めたくなかったが、まぶたを伏せて静かに頷いた。

「アンドレアがそれを覆す大きなことをしなければ、彼の気持ちは動かないでしょうね」

「覆す大きなこと……なにをすればいいのか、全然わからないんだ」

縋るように隣にいる叔母様に視線を飛ばすと、なんでも知ってると言わんばかりの、自信ありげな面持ちで口を開く。

「だったら質問を変えるわね。アンドレア、貴方が幸せだと思うことはなに?」

「カールと一緒にいること」

俺の隣には常にアイツがいて、口煩く注意したり宥めすかしたり。たまに褒められると、天にも昇る気持ちになれる。

「そのシンプルなことを実践するために、なにをしたらいいのでしょう?」

「カールと一緒にいるために、俺のできること――」

俺の幸せはシンプルなものなのに、カールが決意した気持ちはとても強固なもの。相反するそれらを結びつけることを考えるだけで、とても憂鬱になる。

「アンドレア、覚えておきなさい。なにかを得るためには、なにかを捨てなければ、手に入らないのよ」

「それって、二頭追う者は一頭も得ずってこと?」

「貴方の抱えられる容量は、たった一人分だけ。抱きしめて、離れないようにしなければならないでしょう?」

「はい……」

わかりやすいたとえ話に、ごちゃついていた頭がクリアになっていく。叔母様は包み込んでいた手で、俺の拳をパーにした。

「この手でカールを捕まえるのなら、なにを捨てればいいのかしら?」

さっきなされた、大きなものでカールの気持ちを覆すというヒントがもとになり、頭の中に煌めく閃光を感じた。

「アンドレア、貴方にその覚悟はあるのかしら?」

目を見開き固まる、俺の心情を悟ったのだろう。叔母様は微笑みを消し去り、真剣な表情で訊ねた。

「すべてを捨てて、カールを選ぶ……」

声に出してはじめて、ことの重大さを思い知る。これまで次期当主になるために、ずっと学んできた。母上に甘えたいのを我慢したり、あまりのできの悪さに父上に叱られても、歯を食いしばって頑張った日々。

そして俺を見捨てることをせずに、傍で支えてくれたカールの努力を、無にすることになる。

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