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「あぁあ――っ、博人(ひろと)――……ん、ぁあ――――っ!」
罪の色をしたソファーの上で激しく彼女を突き上げたその瞬間、彼女が俺の本当の名を叫び、きつくしがみついてきた。
中で激しく締め付けられ、俺の方も堪えきれずに欲望を吐き出した。
「ひろと」
「律、どうした。今、俺の名前…」
律が初めて俺の名前を呼んでくれた。
新藤さんでもなく、白斗でもなく、博人、と――
「あの…すぐにうまく呼べるかわからないけれど、博人(ひろと)は、『はくと』って呼ばれるのがもう嫌だって言ってたから。今更かもしれないけれど、私、『博人(ひろと)』って、あなたのことを呼びたくて…」
繫がったままの体制で抱き締められた。「博人が好きなの」
「律…」
強く律を抱き返した。
暫く二人で抱き合った。キスを交わすと律の頬から涙が一筋零れ落ちた。
その涙を見て、覚悟が決まった。
誰をどんなに傷つけてもいい。彼女の傍にいたい。
鬼になる覚悟ができたと言った方が正しいか。
俺は今から人の道をもっと外れ、俺を慕って仲良くしてくれたなんの罪もない律の旦那の心を殺そうとしている。
不倫というのは心の殺人とよく言われるのは、サレた方がとんでもない傷を負ってこの先生きていかなければならない。決して癒えることも治ることもない傷をつけられる苦しみ。心が壊れてしまう可能性がある。
俺はその刃を、旦那に向ける。
なんの罪もない彼を、この手で――
「律。今後の話をしよう」
名残惜しいが彼女の体内から出て繋がりを断った。
いつまでもにコソコソと逢引して、壁を隔てて愛することを本当は止めたい。きちんと清算して、旦那に頭下げて、どんなに殴られても罵られても、たとえ刺されて重傷を負ったとしても、彼女を俺に譲ってくれと誠心誠意伝えて裁判し、全財産を渡してもいいくらいの気持ちで慰謝料を払って赦してくれるなら、そうしたい。正しい手順はそうだ。
でも、非の無い旦那はそれを赦さないだろう。あの爽やか旦那は、空に還った子のことが原因で律が俺に走った思うだろう。心が隙だらけだった時に俺がそそのかした、と。だから律を赦して「やり直そう。もっと頑張るから」と伝えるだろう。
罪の意識に苛まれた彼女は、彼の申し入れを突っぱねることはできない。
正式に手続きを踏んで段階を追って清算しようとすればするほど、彼女は遠ざかる。
そうなれば俺はもう一生彼女に触れることはできなくなり、未来永劫結ばれることはできなくなってしまう。
もし旦那との婚姻関係を清算できるなら、何年かかっても待つつもりだけど、律に会えばその決心など簡単に吹き飛んでしまう。
一秒たりとも旦那に触れさせたくない。間男の俺が旦那に嫉妬するなんて、ほんとうにどうかしている。独占欲の塊が俺の中で意思を持ってしまった。それはもう自分でもどうすることもできないくらい、醜い化け物になってしまった。
これから非道の選択をすることを赦して欲しい。
律にまで一生苦しい罪の十字架を背負わせてしまうこと、どうか――……