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入学式から1日が経過し、本格的な授業が始まる。1時間目の授業は体育。まさに僕が苦手な教科である。ため息をつきながら体操服に着替え、体育館へと足を運ぶ。
体育館へ着くと、既に体操服に着替え終わり、整列したクラスメイトたちと体育教師の巽 嵐《たつみ あらし》先生が立っている。遅れてしまったことを謝罪しながら、僕もクラスメイトたちと同じように整列する。
授業開始のチャイムの音と共に、体育館中にみんなの挨拶の声が響く。
挨拶が終わると、腰に手を当てた巽先生が口を開く。
「じゃあ、まずは2人1組になれ!」
巽先生の言葉に、クラスメイトたちが一斉に2人1組を作り始める。
一方で僕は、入学初日に響くん以外と話せていなかったため、2人1組をしてくれる友達が居るわけもない。
響くんは入学初日でクラスに馴染んでいて、既に他の生徒と2人1組になっている。
(これ詰んだじゃん!!!!)
心の中で絶望を叫びながら頭を抱えた瞬間、僕の肩に誰かの手が置かれる。
顔を上げると、僕の目の前には、少し赤色がかったオレンジの髪をしたクラスメイトの内の一人であり、炎を自由自在に操れる篝 陽翔《かがり はると》くんが立っている。
「俺とペア組もうぜ!」
陽翔くんの言葉に、自分の顔から強張りが消えていくのが自分でも分かった。
「ありがとう!」
なんとか2人1組になることに成功し、僕は胸の内で陽翔くんに親指を立てて感謝のグッドポーズを向ける。
けれど、そんな風に心が温まったところで、僕の脳内に1つの疑問が浮かぶ。それは、体育の授業は肉体型の超能力の人が有利なのだから心理型の超能力の人には向いていない…ということだ。
僕が疑問の答えについて考えていると、陽翔くんが巽先生に視線を向ける。
「巽先生ーっ!質問があるんですけど良いですか?」
陽翔くんの言葉に、巽先生は口角を上げて笑みを浮かべる。
「おう!なんでも質問してきていいぞ。」
巽先生からの返答の後に、一瞬だけ陽翔くんが僕に向かってピースをしてきた気がする。
「確か、体育って肉体型の超能力が有利ですよね。それだったら、心理型の超能力の人達は何をすればいいんですか?」
僕が言えなかった言葉を、陽翔くんは堂々と巽先生に言った。
「心理型の能力の奴は、主に肉体を鍛えるんだ。それか、心理型の能力でも物理的な攻撃ができる技を自作するとかな!」
疑問の答えが分かり、ずっと胸の中に引っかかっていたモヤモヤが、霧が晴れるようにスッキリと消えていく。
「なんで僕が巽先生に言いたかった言葉が分かったの?」
僕の質問に、陽翔くんは顎に手を当てて考え込む。
「なんか、顔が物語ってたから?」
陽翔くんからきた返答に、僕は完全にフリーズしてしまった。
「えっ、本当に?」
いやいや、ちょっと待ってほしい。僕の顔面はいつから、そんなに感情のシェア機能が優秀になったんだ。プライバシー設定はどうなってる。今すぐ運営に不具合を報告して、出荷時の初期設定であるポーカーフェイス仕様に強制リセットしたい。
「うん、本当に!」
そこまでハッキリ断言されると、もう笑うしかない。
「だって、お前が疑問の答えを探ってる時に顔面に出てたもん!」
思考のプロセスまで全自動でネタバレする僕の顔面、あまりにも無能寄りの有能じゃないか。
「へえ、僕の顔って映画館のスクリーン並みに大画面で見やすいんだね。」
「分かりやすすぎるぜ!」
これからは顔にテープでも貼っておいたら良いのか、今の状況じゃ考えられない。
「よし、じゃあ体育の授業を始めるぞ!」
巽先生の合図の声で、みんなが背筋をピンと伸ばす。
「まずは肉体を鍛えるアスレチック的なのを2人1組になった相手と一緒に協力していくぞ!ほら、後ろを見てみろ。」
みんなが後ろを振り返ると、広い体育館の後ろ側には、アスレチックがある。
足場の真下には、赤黒くドロドロとしているマグマ。
一歩間違えたら明らかに体が溶ける。
しかし、『未来力創造高校』にとって、これはただの準備運動にすぎない。
特に心理型の超能力の人はフィジカルに限られる。
僕がオドオドしている横で、既に陽翔くんは他のクラスメイトたちのように走り出している。
「ほら、早くしねぇと追い抜かれるぞーっ!」
陽翔くんの言葉に、僕も1歩踏み出して走り出す。
心理型の超能力の僕は、肉体型寄りの超能力である陽翔くんのペースにいつまでも追いつけるはずもなく、徐々に陽翔くんの背中が遠くなっていく。
諦めかけた時に、突然陽翔くんが足を止める。
「おい、下見てみろ!危ねぇぞ!」
陽翔くんの言葉に、視線を下へ向ける。
ゴポゴポという音と一緒に、僕の足元近くまでマグマが迫ってきている。
こんなの無理ゲーすぎる、マグマが上がってくるなんて一言も聞いてない。
足の動きを速め、なんとか無事に陽翔くんの横まで辿り着く。
マグマは本当に僕たちを殺しに来ている。これは準備運動どころではない。
下からの熱気で、額に湧き出た汗がじわじわと目元に向かって滑り落ちてくる。
なんとかアスレチックをクリアし、ゴール地点までやって来る。
他のみんなも息を切らして、膝を手をついて休んでいる。
ゆい
48
#微腐あり
ユメ
1,751
a
20
そら 🩷ꕀ⋆ @
695
丁度、そこで授業が終わりのチャイムが鳴る。
「お前たち、よく頑張ったな!今日の授業はここで終わりだ!」
終わりの挨拶を終え、みんなと同じように教室へ戻る。
(もし、さっきのアスレチックがただの準備運動なら、本番は何なんだろう。)
そんな疑問の答えを考えている内に、教室中に広がる冷風が、汗が伝っている僕とクラスメイトたちの体を冷やしていく。
「ふぅ、やっと終わったな。よし体操服から着替えようぜ!」
今まで声がけもせずに教室で休んでいたクラスメイトたちが、陽翔くんのたった一言で着替える準備を始める。
(確かに、陽翔くんはクラスの中心みたいなものだからなぁ…)
男女で着替える部屋を分け、体操服から制服に着替える。教室に戻ると、水の超能力を持つクラスメイトの子が他の子たちに水を配っているのが視界に入る。
「僕もあのような超能力だったなら___。」そんな意味のない言葉が頭の中を過ぎる。
頭の中のくだらない考えを消すように手を振り払いながら、教室を見渡す。
クラスの端の席に座っている氷結の超能力を持つ氷室 誠《ひむろ まこと》くんの姿が不意に視線に入る。絶妙に教室の照明が当たらない位置にいることで、氷室くんの顔は影になって全く見えないが、顔色が悪いのは誰が見ても分かるだろう。
しかし、他の人も気づいているはずなのに「大丈夫?」の一言もかけにいこうとしない。
氷室くんが机に突っ伏しそうになった瞬間、咄嗟に体が動く。
思わず氷室くんの肩に手を触れた瞬間、触れた手が凍っていく。
体調不良が原因で氷結の調整が困難になってきているのだ。このまま放っておくと、教室が冷凍庫になりかねない。
体調不良の原因がどこからきているのかが分からなければ、治すことなど不可能に近い。
『読心』を発動するべきなのか…
しかし、読心を発動すると他の人の考えまで見えてしまう。
突然、氷室くんの超能力で凍ってしまった僕の手に熱い誰かの手が置かれ、思わず「熱っつ!!!」という声が漏れながら距離を取る。
熱い手の犯人は、やはり陽翔くんだった。
「氷室の体調が悪い理由は、自分の超能力で自分の体温を低くしすぎてるからだ。俺も昔によく経験したし。」
陽翔くんはそう言いながら、氷室くんの肩に手を置いて、炎を適温に調整する。
徐々に氷室くんの顔色が良くなっていき、陽翔くんが氷室くんの肩から手を離す。
その途端に、教室中に大きな拍手と感嘆の声が漏れる。
「すごい!」「かっこいい!」そんなクラスメイトたちの声が次々と脳内にまで響く。
クラスメイトたちの歓声が響き渡っている中、無意識に眉毛の間にシワを寄せる。
今までずっと黙っていて何もしなかったのに、陽翔くんが行動をすると歓声の声を上げるのか。
僕は1つのため息を口から出しながら、教室を後にする。入学してから、まだ1度も屋上に上がったことがないからだ。
屋上への扉を開けると、青い風が僕の髪の毛を揺らす。
屋上は心地が良い。それに、校舎が大きいからか眺め
も良い。
昼休み中、再び屋上へ足を運ぶ。屋上へ到着すると、先着が居る様子がする。
黒色寄りの青い髪の毛に、宝石のような青い瞳___。それは明らかに響くんだった。
「長夜くん、良ければ一緒に食べない?」
響くんからの誘いに、僕は笑みを浮かべて頷く。
僕の頷きを見た響くんが、隣を手のひらでトントンと、まるで「ここに座ったら?」と言うように軽く叩く。その行動をとられた僕は、響くんの隣に腰を下ろし、弁当の蓋を開けて箸を手に持つ。
「そういえば、入学初日に君がなんの能力を持つのか聞いてなかったね。超能力は何を持ってるの?」
「読心だけど…。」
響くんの問いかけに、少し警戒しながらも小さな声で答える。
「へぇ、そうなんだ。人の心が見えるなんて凄い能力だね。」
予想外の響くんの返事に、思わず僕は目を見開き、箸の動きが止まる。
「ほら、早く弁当を食べないと昼休みの時間が終わっちゃうよ。」
響くんの言葉に、箸の動きを再開する。
(「僕もその能力が良かったな」なんて言われなかったのは初めてだ…。)
黙々と弁当の中身を食べ進める僕と、フルーツのぶどうを食べ始める響くんの間を風が通り過ぎていく。
言葉では説明できない何かの距離がある気がする。
別に仲が悪いわけでも良いわけでもないが、なぜか隣に座る響くんの横顔が悲しげに見えるのだ。
気まずい雰囲気の屋上で「盗み見は良くない」と心の中で自分に言い聞かせながら、食べ終えた弁当に蓋を被せる。
「僕、食べ終えたから先に教室に戻っておくね。」
気まずい雰囲気に耐えられなくなった僕は、そう一言伝えて教室に戻る。
教室に戻ると、なぜか教室内でパーティーのようなものが開催されている。
近づいてきた陽翔くんが突然、僕の肩に腕を回す。
「どこ行ってたんだよぉ〜っ!探したんだぞ。」
肩に突然腕を回され、混乱が脳内を巡る。
「ごめんね。」
口角を上げ、作り笑顔で陽翔くんに謝る。
「謝んなよ!ほら、良かったら食えよ。」
陽翔くんから渡された謎の紫色をした食べ物が差し出され、体が硬直する。
「えっと…これは何?」
僕の質問に、陽翔くんの整った顔立ちに満面の笑みが浮かぶ。
「俺が作ったんだぜ。昨日の夜まで練習して、ようやく最高作だ!」
陽翔くんの言葉とは裏腹に、明らかに塩と砂糖を入れ間違えているし、腐った魚の匂いがする。しかし、陽翔くんの満面の笑みを前にして断れるわけもなく、それからは2杯も食べてしまう。
「ウン、美味シいヨ。」
この昼休みは、僕にとって地獄となったのだった。
コメント
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うわ、これすごい好きです!主人公の「顔に感情が出すぎる」って設定、めっちゃ可愛いし共感しちゃいました(笑)。陽翔くんの「顔が物語ってた」って台詞に笑った。それに、氷室くんを助けた後にクラスの反応が一変する描写、あの疎外感の描き方が生々しくて胸が締め付けられました。響くんとの屋上の雰囲気も気になる…。続き読みたいです!