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第二話 浪花鼠色との出会い
──────────
「…え?」
研究室から帰ってきた時、僕は驚いた。
何故かって、目の前の間度に超がつくほどの美少女がいたからだ。
ミディアムの長さの髪をハーフアップで纏め、
その髪の色は浪花鼠色と呼ばれる淡い紅色。
目の色もその髪色に違わない薄桜色。
年齢は僕の一つか二つくらい下だろう。
数分の沈黙のあと、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「あの、…あ、貴女が紫ノ宮葵さん?」
声も可愛らしく、元気を感じさせる。
暖かい空気が空いた窓から入ってくるのと同時に、
彼女の髪が宙に舞った。
それは桜のようで、今の季節にぴったりだった。
ようやく、そこで思い出した。
「…あれ、もしかして君____」
◇◇◇◇
今思うと、さっきの文章は滅茶苦茶だ。
なんだ急に思い出したって…だから、訂正しよう。
頭の中に浮かんできたのだ。彼女は最強の子だと。
…なんか更に悪くなってない?気の所為?
まあ、ひとまずだ。彼女を家にあげよう。
僕は極力人を家に上げたりはしないが、何故僕の名前を知っているのかとか何故窓の所に居たのかとか、色々と聞きたいことがあった。
「ええっと…とりあえず家に上がってよ。
ここじゃ、貴女も体が冷えちゃうだろうし。」
4月の上旬 とはいえ、まだ寒さが残る時期だ。
こんなに小さい(といっても僕と殆ど変わらない)子が、外にずっと居たら体調不良になってしまう。
「あ…ありがとうございます!」
その声は先程の声とは違い、鈴を転がしたような幼さを残したような声だった。
窓から入ってきた彼女に、僕は色々なことを聞いた。
何故窓に居たのか。貴方の名前は。出身地は。
その質問全てに彼女は嫌な顔一つせずに答えてくれて、事実が判明した。
まず何故窓に居たのかという質問については、崖から魔法箒で飛んでいたところ、コントロールが出来なくなってしまい落ちたと言っていた。そして、その落下地点の近くに、偶然僕の家があったと。
次、名前。彼女は暁月凛というらしい。見た目に違わない
最後、出身地。ウィンドワード・エアリアルと言っていた。つまり、空中にある国だ。風属性魔法が盛んな国で多分暁月はそこから魔法で降りてきたんだろう。
ちなみにここの国はエルデ・エレメントと言って、諸国の基礎となる国。基本的に他の国からの旅行生留学生もフレンドリーに受け付けている。もちろんウィンドワードも例外ではなく、暁月は旅行生…ではないけれど迫害や暴行なんかは加えられない…はずだ。殆どの情報が結構曖昧になってしまうのは、僕自身があまり興味を示さないから。旅行なんて、研究以外だったら6年はまともに行っていない。
本当はもう少し色々と聞いていたけど、途中からどうでもいいことばかり聞いてしまったのでメモは取っていない。折角のメモ用紙が無駄になるからね。
簡潔に状況を時系列にまとめると、暁月がウィンドワードから降りてきて、コントロール力を失い、僕の家に落ちてきた。ということだ。
幸いにも目立った外傷はなかったし、内出血や骨折もしていなかった。あの高さから落ちてよく無事だったなとは思ったが、それも『最強だったから』で済ませた。最強って便利だね。
「それでなんだけど…暁月さん、貴女これからどうするの?箒も折れちゃったんでしょう?」
暁月の横に置いてある箒は見事に真っ二つで、ここまで綺麗に折れるんだなと最早絶賛したくなる程。
「うーん…とりあえず宿探して、鍛冶屋探して…
死んででもウィンドワードには戻りたいです!」
なんか雰囲気は元気なのに言葉の節々から狂気を感じさせてくるんだけどこの子。まぁいいや。
「…でもウィンドワードって言ったら、結構な高さにあるって事で有名じゃない?それも空中だし…」
そう。一番の問題はそこだ。ウィンドワードは標高が高い空中に浮いているのだ。浮島と言うものだ。
「そうなんですよね…私、箒が無かったら戻れないし、…行けたとしても、半分位で落ちますし…」
流石の『最強』も、60km離れた上空に戻るのは無理らしい(まぁ人間だし当たり前だけど)。
私でも45km行けるかどうかなのに(箒を使わずにだったら)、ウィンドワードに住んでる人ってどうやって昇り降りしてるんだろ…これも研究してみようかな。
前に宇宙に近い天空に、よくもまぁ国を創ったなと思ったが、まさか戻れないほどだったとは…あれ?これ少し…というかかなり致命的じゃない?他の人落ちたらガチめに死ぬくない?え??
本当にどうやって救助しに行くんだよ…とクレームを入れたい所だ。
「うーん…じゃあ、僕の所に居ない?」
「え?紫ノ宮さんの所に?」
自分でも驚きの提案だ。まさか人間嫌いの僕が自ら一緒に住もうと言うなんて。
「うん。僕なら箒も治せるし、途中まで連れてくことも出来る。結構掛かっちゃうと思うけど」
すらすらと出てくる言葉に、暁月は目を輝かせる。
「本当ですか、!?それなら、是非…!!」
それなら、と言いかけた時、 急に手にギュッと握ってくるものだから思わず萎縮しかけた。
「了解。僕は紫ノ宮葵、よろしくね。」
咄嗟に微笑んだが、多分不自然だったと思う。
「はい、宜しくお願いします!!」
バッと頭を下げる暁月。別に悪口では無いが、行動一つ一つが大きいから、身長と相まって5,6歳の幼い子に見える。
「…そうだ。暁月さんのご両親は?心配とかしないの?急に降りてきて何日も帰らなかったら捜索願いとか出されるんじゃ…」
僕があわあわしていると、暁月は俯いた。
「…私、両親が居ないんです。」
「え?」
「実は…私、自分で言うのもなんですけど、結構いい所のお嬢様でして。よく狙われるんです。それで両親は一昨年の秋に亡くなってしまいました。」
私を庇って、と一言足すと僕はだんまりしてしまった。
両親が居ないなんて、とか憐れみの感情じゃない。
そんなことも知らずに、踏み込んでしまったことに罪悪感を覚えたのだ。
「あ…えと、ごめん。」
「なんで謝るんですか。全然大丈夫ですよ。そこの所ちゃんと言わなかった私も悪いですし、! 」
さっきも思ったけど、本当にいい子だ。流石いい所のお嬢様。言葉遣いといい容姿といい、全てが100点満点だ。見習わないと。
「…そうだ、服とか持ってきた?もし無いなら貸すけど…」
今日は普段の僕なら確実に言っていない事を連発した。それは暁月が美少女ってことだけじゃなくて、僕自身も変わろうとしてるということなんだろう。
「あ…少しだけ、お貸しいただいてもよろしいでしょうか。3日分は持ってきているんですが…」
「分かった。暁月さん、ずっと敬語もなんだし、タメ口で行かない?…」
まぁ、僕は最初からタメ使っちゃってたけど…
「え、いいんですか…!?紫ノ宮家のご令嬢にそんな無礼なんて…!」
「?よく分かんないけど…タメ口の方が楽ならそっちの方が良くない?暁月さんが敬語がいいって言うなら全然大丈夫だけど…」
ちょっと何言ってるか分からなかった。
『紫ノ宮家のご令嬢』…?
今まで引きこもり魔法使いとしか蔑まれなかった僕にとって、ご令嬢という響きは珍しかった。
それこそ、幼少期に一度か二度、親の会話を盗み聞きしてようやく聞こえた単語だ。
「い、いえ!何とか努力してみ…するね!」
あわあわとしている紅月さんは、小動物のよう。
そして、これが彼女との出会いだった。